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インフィニット・メモリーズ  作者: 葛西獨逸
第1章 第2節 8月編
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8月編 第2話 事故?事件?男の決意

さて、8月編第2話です。今回はちょっとしたハプニングで……あんな感じの描写が含まれているので苦手な方は読まないことをお勧めします。

それでもよりしい方はそのままお読みください。

「う、ううん……」


 どうやら俺は遼子の話を最後まで聞くことが出来ず、薬の副作用によって眠ってしまっていたようだ。それと同時に俺はあのとき遼子が話していたことについて思い出そうとした。


 遼子は今までも俺のような患者を何人も見てきたこと、そして現実から逃れようとする者も少なくはなく、そのせいで、自分自身を責めていたということまでは思い出したが、それから先の記憶が曖昧だった。


『この…………は…………とうと…………れ…………』


この部分は遼子にとっての宿命についての話だったのだが、その肝心なところで俺は眠り、記憶から消え去ってしまっていた。


「う……うぐ……」


 ふと隣のベッドから苦しそうにしている玲衣の声が漏れ出ていた。俺は心配になった。


「玲衣……大丈夫か?」


「だ、大丈夫……安心……し……」


 玲衣がそこまで言ったところで、何かが床に落ちる鈍い音と、ガラスが割れる音が響いた。


(ま、まさか……)


 俺は最悪の事態を想定した。薬の副作用に耐えきれずに意識を失ってしまったのではないか。そう思った瞬間、俺は動かずにはいられなかった。


「玲衣!!」


 俺は叫びながらカーテンを勢い良く開ける。

 そこには床に落ちて割れた花瓶のガラスと、地面に横たわる玲衣の姿があった。


「おい、玲衣! 返事をしてくれ!」


 俺は焦りながら玲衣の体を揺さぶる。しかし、玲衣は目を開かない。


 俺は玲衣の口元に手を添える。手に伝わる暖かい空気から息はしていることがわかり、安堵する。


「すぅ、はぁ……」


 寝息が聞こえた。どうやら、玲衣はただ薬の副作用によって眠気に襲われ、勝つことが出来ずに眠ってしまっていただけのようだ。


「よ、良かった……」


 俺は胸を撫で下ろしたが、次の問題が発生した。それは玲衣をどのようにしてベッドに戻そうか……ということだった。


「ナースコールか、俺が戻すか……どっちを選べばいいのだろうか……」


 今俺は少し大きな分岐点に立っている。どうしたらいいのか……俺は本気で悩んだ。


(大丈夫だ、何かあったら俺が助けてやる)


 ふと俺の脳内でこの言葉が再生された。


(そうだ、俺は玲衣に何かあったら俺が助けると約束したんだ。それなら俺が戻してあげよう)


 そう思い切って俺は玲衣の体に手をかけた。触れた瞬間に玲衣の体温を感じる。そして、上に持ち上げた時の柔らかい体。このままでは理性が失われてしまう。急いで戻そうと、思いっきり玲衣の体を持ち上げた。その刹那……


「え……よ、洋一くん?」


 玲衣は今のこの状況が飲み込めず、時間が止まったかのように固まってしまった。


 そして数秒間の沈黙。その後、玲衣はやっと今の状況が把握できたのか顔が真っ赤に染まった。


「き、きゃあああああああ!!」


 そして俺が予想していた最悪の事態が起きた。


(これで俺も犯罪者……か……)


 俺は覚悟を決めた。

 玲衣は腕を大きく振って俺の腕から降りようともがいている。


「ま、待て……今動かれたら……うわぁ‼︎」


 そのまま俺たちは床に転げ落ちた。


「いてて……」


 俺は転んだ拍子に目を瞑り、視界が暗いままだったが、手には感触が残っていた。手探りで触ってみる。


「ん?なんだ……これは」


 柔らかい。ただそれだけだ。


「よ、洋一……く……ん……だ……め……」


 恐る恐る俺は目を開く。俺が触れていたのは玲衣の胸だった。

 俺は急いで手を離そうとしたが上から玲衣が乗っかっているため思うように身動きが取れない。


「ご、ごめん……」


「謝らないで手を退けてくださいっ!!」


「そ、そんなこと言ったって腕が動かないんだ!」


 玲衣は今の自分の状況を改めて見た。洋一の上に抱きつくように倒れている。それだけで説明は十分だろう。


「き、きゃああああああああああああ!!」


 先ほどよりも大きな悲鳴が病室内に響いた。そして、手のひらが俺の頬目掛けて飛び込んできた。


 パチンとう大きな音とともに頬にヒリヒリとした痛みを感じた。


「玲衣、ちょっと落ち着くんだ」


 玲衣がまたもがき始めた。それと同時にさらに俺に抱きついてくる。ここまで来るともう玲衣にそのような気があるのかとも思えてくるが、今の状況でそんなことはないだろう。


「落ち着けるわけないじゃない! 私の……だ……だ……大事なところを……触られて……落ち着けるわけないじゃない!!」


「ごめんって。とにかく落ち着くんだ」


 俺は玲衣を力ずくでどかそうとした。その時だった。


「玲衣さん、洋一さん、何かあったんですか!?」


 遼子が玲衣の叫び声を聞き、病室に慌てた様子で入ってきた。そして俺たちの様子を見て驚いたような顔をした。


「ま、まさかあなたたち……ここまで進んでたのね……知らなかったわ」


 遼子は叱るどころか感心し始めた。


「感心してないで助けてくださいよ‼︎今のこの状況は事故ですから。とにかく今はパニックに陥っている玲衣を退かしてください!」


 遼子は玲衣の体を持ち上げ、俺の体から引き剥がしてくれた。助かったと思ったのはつかの間のことだった。


「洋一さん、説明してください!」


 遼子が怒った口調で俺に言い寄る。

 俺は今までの経緯を全て話した。


「そんなことだったんですね……まあ、その時はナースコールしてくれれば良かったんですが……」


「そ……それは……俺のプライドが許さなかったっていうか……助けるって言っちゃったんで……」


 遼子は俺の頭をポンと叩く。


「それでもあれはやりすぎです。もう少し異性であるということを肝に銘じてください」


 俺は遼子に怒られてしまった。その間、玲衣はずっと俺の方の真っ赤な顔で睨みながら、腕で胸を押さえていた。


 嫌われてしまったのだろうか、俺は少しだけ胸が痛んだ。

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