表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
インフィニット・メモリーズ  作者: 葛西獨逸
第1章 第4節 10月編
25/49

10月編 第4話 夢、再び

 俺は死ぬのか?

 俺はもうダメなのか?


 脳裏をよぎるのはそんなことばかり。


 マイナス思考で本当に玲衣を守ることができるの?

 このままで玲衣との約束は守れるの?


『そんなことはないよ』


 葉月か。


『そう、葉月だよ。ゆっくり目を開けてみて』


 目を開ける。

 目の前には葉月がいる。

 ということは夢の中か。


『洋一くん、どうして今ここにいるかわかるかな?』


 わかるわけないだろ。


『前話したよ』


 前話したって言われても、記憶は病気に喰われてしまうんだから仕方ないだろ。


『なんですぐに諦めちゃうの?』


 どうしてだろうな。


『まだ洋一くんにはその記憶があるはずだよ』


 今の俺に考える時間なんてない。


『もう、全部を諦めるの?』


 そうだよ。


『やっと進歩したのに?』


 進歩?

 葉月は何を言っているんだ?


『一回しか言わないよ? この世界は洋一くんの未練が作り出した《夢であって夢でないもの》なんだよ』


 今の俺には信じられないんだ。

 前会った洋一なら信じたのかもしれないが、その記憶も思い出せないんだ。


『思い出せないんじゃない。洋一くんが思い出そうとしないだけだ』


 思い出せないものは思い出せないんだよ!


『違うね。洋一くんに今かけているのは前向きな心だよ』


 前向きな……心?


『そう。やればできるという自信が今の洋一くんにはないの。今の洋一くんにはもう用はない』


 もう用はないってどういうことだよ!


『もう、この世界は消える。洋一くんの命と一緒にね』


 死ぬのは嫌だ。


『もうこれは決定事項』


 覆すことはもうできないのか?


『できないことはない。だけど、今の洋一くんにはできない。玲衣さんも守れないよ』


 ……待て。

 今玲衣って言ったか?


『うん、言ったよ』


 どうして葉月が玲衣のことを知っているんだ。


『それはね、玲衣さんという存在が洋一くんにとってはかけがえのないものだから。だから私は玲衣さんのことを知っているしついさっき会ってきた』


 会ってきたって、どういうことだよ。


 葉月がニコッと笑う。

 けどすぐに悲しい表情に変わる。


『玲衣さんとキスをしたでしょ?』


 ななななぜそれを!?


 人に見られた……。

 恥ずかしい。


『さっきから言ってるでしょ。この世界は洋一くんの深層心理から作られた世界だって。だから、私は洋一くんの気持ちも全部わかる』


 人にはプライバシーってものがあってだなぁ。


『仕方ないじゃん。私も知りたくてやってるわけじゃないし』


 どうして赤くなる。

 鼻血まで出てるじゃないか。


『私、こういうことにすごく弱いの。だから必然だよ』


 まあ、いいや。

 それよりも、玲衣はなんて言ってたんだ?


『洋一くんのことをすごく心配してたよ。助けてって私に言ってきたよ。私は神様じゃないから何もできないって言ったけど……』


 玲衣が俺を心配してくれていたのか?


『うん。ずっと洋一くんのことを呼んでるよ』


《──くん……》


 俺の脳内に何かが語りかけている。


『ほら、今もずっと洋一くんのことを呼びかけてるよ』


 玲衣がそこまでしてくれたのか。


『うん』


 そこまでしてくれたんだ。

 俺だって応えないと……。


『だったら、もう少し自分に自信を持って!』


 そうだな。

 思い出したよ。


『思い出したの?』


 ああ。

 俺はいつも人助けを自信を犠牲にしてまでしてきた。

 それこそが俺の生きる意味なんだ。

 俺の取り柄なんだ。


『じゃあ、それをいつまでも続けようよ』


 でも、自分を犠牲にし続けるのはやめるよ。

 みんなのために、そして自分のために人助けをしていくよ。

 だから、葉月は見てて欲しい。


『うん、そうだね。私はその言葉をずっと待っていたの。お礼に一ついいことを教えてあげる』


 いいこと?


『うん。洋一くんがこの世界に来るのはね、現実世界で洋一くんが強くなったり何かが進歩した時なんだ』


 じゃあ、今ここに来たのって、俺が成長したから?


『うん。だからここに来られることに洋一くんは誇りを持っていいよ』


 ああ。ありがとな。


『それと、まだ未練達成の準備ができていないから、洋一くんが死ぬのはまだ早い。だから、今は1秒1秒を大切に生きて!!』


 もちろん、そのつもりだ。


『じゃあ、またね』


 またな、葉月。


 また風が吹く。


 玲衣にどんな顔してやればいいんだろう。


『笑顔で明るく振る舞えばいいと思うよ』


 葉月の笑顔は、いつ見ても心に安らぎを与えてくれる。

 今までも、これからも。

 玲衣が精神的に追い詰められていそうだけど、それも俺が全部吹き飛ばす!


『そう、その意気だよ。頑張って!』


 葉月の激励と同時に白い光に包まれる。


 この感覚だけはやっぱり慣れないな……。



「洋一さんが目を覚ましたした!」


 手術中のランプが消える。

 私の心は早く洋一に会いたい、謝りたい気持ちでいっぱいなの。


「あの、洋一くんは……」


 お願い、無事で──。


「一命はとりとめました。ですが──」


 そんな……。

 洋一くんが負けるわけがない!


「お願いします。洋一くんを……」


「わかっています。全力を尽くします」


 移動式のベッドに人工呼吸器をつけた洋一が運ばれるのを、私は見ることしかできない。

 洋一の目は開いているが、焦点があっていない。

 私の方を見た時に、洋一は小さく瞬きを一回した。


『俺は大丈夫──」


 そう言ってくれたのかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ