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インフィニット・メモリーズ  作者: 葛西獨逸
第1章 第3節 9月編
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9月編 第6話 雪の日に

 玲衣は面会を楽しみにしていたというのに、最初に出た言葉は暗く、悲しみに包まれている。そんな気がする。


「仕方ないから来てやったわよ」


 母親らしき人から発せられた言葉は強い口調で、俺がこの言葉を実母から受けたら耐えられないものだった。


「そうですか……」


 裏で頼んでもいないのに……と玲衣が言っているような気がするくらい、玲衣はこの女性を拒絶しているような気がした。


「まったく、あんたってやつはいつもワタシに面倒ごとを押し付ける。もうお願いだから何もしないで」


 この後に出た言葉は俺にも、そして玲衣自身にも驚くべきものだった。


「玲衣、あんたなんか育てるんじゃなかったよ」


「そんな……」


 玲衣の声は震えている。俺も怒りから今にも飛び出したいが、これは玲衣とその女性の問題だ。俺が手出しすることはできない。


「だいたいあんたの親があんなことで死ぬからいけないじゃないの! だからワタシが育てるハメになったんだわ!」


「……帰って……」


 玲衣がボソッと言ったが、その女性はまだ話を続ける。


「もうあんたなんかワタシの家族じゃないわ!!」


「いいから帰って! もう聞いてらんない。私だけじゃなく、お父さんとお母さんまで侮辱するなんて……私はあなたの家族だと思ったことはない!」


 震えた声で、それでいて大きな声で叫んだ。


「ええ、もう帰るわよ!」


 女性は大きなカバンを持ってどしどしと大きな足音を立てて病室を出て行った。


「玲衣……」


 俺は慰めようとしたが、玲衣は手で俺の動きを止める。


「ごめん……ちょっと待って……」


 玲衣は涙を堪えているように見える。

 目を拭う動作をした後に俺を手招きで呼んだ。


「どうしたんだよ」


 俺は耐えられずに聞く。


「色々あって取り乱しちゃった。私ってばバカだよね……」


 俺は無意識に玲衣の手を取っていた。


「バカなんかじゃない! 玲衣にだって気持ちはあるはず。なのにあの人は玲衣の気持ちを裏切ったんだ。だから玲衣はバカじゃないんだ!」


「洋一くん……」


 少しの静寂。その間、玲衣の目からは涙がぽろぽろと落ちていた。


「よし……いまから私の過去の話をするよ……」


 突然の発言に俺は驚いた。


「いいのか?」


「うん、洋一くんにだけ話す。それでずっと心配されちゃってるかもしれないし」


 玲衣はにこりと笑う。


「そ、その前にて、手を離して……くれるかな……」


 玲衣は顔が真っ赤になっている。


「え、あ、ご、ごめん」


 俺は慌てて玲衣の手を離す。

 お互い気まずい状態の中、玲衣は自身の過去について話しだした。


「私はね、10年前に両親を失ったの。あの日は突然だったよ。その年に初めての積雪を観測した日、両親は私を守るために死んじゃったの」



 10年前のあの日、私は初めて積もった雪に喜んでいた。


「雪だよ! つめたーい」


 私は手で積もった雪を持ったりして楽しんでいた。


「そうだね。お父さんも一緒に雪で遊ぼうかな」


 私の父も一緒に庭に飛び出して雪遊びをしていた。


「あなたまで……もう、風邪をひいても知りませんよ?」


 母も私たちを部屋の中から見て楽しそうに笑ってる。

 その日は雪だるまを作ったり、父がスコップを持ってきてかまくらを作ったりしてくれた。

 私はその日、とにかく雪で遊び尽くした。


 だけど、そんな楽しい日もその日で終わりになってしまった。

 これは私が遊び疲れて眠っていたときのことだ。

 誰かの叫び声で私は目を覚ました。時間は午後5時ごろ、外はもう少しで暗くなる頃だった。


「さっさとだせ!」


 見知らぬ男の人が部屋に立っていた。

 黒色のコートに黒いサングラスを身につけており、手には包丁のようなものを持っていた。


 そのときの私は何がなんだかわからなかった。だけど、私は父と母が慌てていることから何か大変なことが起きていることはわかった。


「ちょっと待ってください……」


 男は近くにあった棚を思いっきり蹴る。


「まさか110番でもしようとしているのかい?」


 男の声から威圧感が伝わり、私は一歩も動くことが出来なかった。

 足は震え、目も閉じることが出来ず、金縛りにあったのではと錯覚するほどの恐怖感が私を包み込んだのだ。


「そんなことはしません。金目のものはこちらで全部です。だから……早く帰ってください!」


 母の今までにない絶叫に驚きを覚えるも、今はそんなことはしていられない。

 男は急いで鞄に指輪や腕時計などを入れた。


「でもよぉ……これだけじゃ、足りねぇよなぁ?お前らの命も貰ってくぜ」


 この瞬間、私はこの男が狂ってると思った。これが間違いではない。それは誰だってそう思うだろう。


「玲衣だけでも逃げるんだ! 俺たちも後で行く!」


 その言動に私は今逃げないと父たちの努力が無駄になる。そう思ったとき、自然と体の震えが止まった。

 私は必死で庭に通じる窓から飛び出し、雪道をただひたすら走った。

 足元が悪くて何度も転んだ。助けを呼びたい、その一心で走った。


 交番に着くと、すぐに助けを呼んだ。


「助けてください‼︎お父さんが……お母さんが……」


 警察の方は急いで私の家に向かってくれた。私は交番で父と母の帰りを待っていたが、父と母が戻ってくることはなかった。

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