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インフィニット・メモリーズ  作者: 葛西獨逸
第1章 第3節 9月編
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9月編 第5話 再会

 翌日、俺が目覚めたのは午前9時。あの晩、俺はずっとノートに日記を書いていた。


 その疲れからか、熟睡してしまっていたようだ。


「洋一くん、おはよう!」


 玲衣が嬉しそうにしている。昨日はあんなに悲しそうにしていたのに、今日はその逆ということか……


「おはよう、玲衣」


 そう挨拶をしたと同時に、俺のお腹がぐうっと鳴った。


「そういえば朝ごはん食べてなかったな」


「私が遼子さんを呼んでくるね」


 そう言って小走りで病室を飛び出した。


「そういえば今日から面会可能なのか……」


 昨日遼子に言われたことを思い出した。しかし、それよりもその後のことが強く印象に残っていたので忘れかけていた。


「洋一さん、おはようございます」


 遼子がワゴンを引きながら病室に入ってくる。


「おはようございます」


 遼子は無言で俺の机に朝食を置く。


「昨日はありがとうございました。先に寝ちゃって……」


「いいんですよ。私たち看護師は患者さんが元気に過ごしていただければそれでいいので」


 遼子は笑顔になる。


「いただきます」


 今日の朝食はいつも通りの質素な食事だ。一気に口の中に掻き込む。そろそろこの味にも慣れてきた頃だ。


「今日から面会ができますが、どうしますか?」


 遼子は面会についての用紙を俺の机に置いた。

 時間指定ができるらしく、面会可能時間に丸を書いて下さいと書かれている。


「時間はいつでもいいです。好きな時に来ていただければそれだけで嬉しいので」


「わかりました。洋一さんの保護者と学校にはそう伝えておきます」


「お願いします。あ、ご馳走様でした」


 俺はお盆を遼子に差し出す。


「あ、はい。それじゃあ、面会者が来るまではゆっくりしていて下さい。また後で治療を行いますね」


「わかりました」


 遼子は軽く一礼をしてから病室を後にした。


「洋一くん! ついに今日から面会だね!」


「ああ、そうだな。ついにあいつらとまた会えるんだ」


「うん、友達と会えるのは嬉しいよね」


 ニコニコしながら玲衣は自分のベッドに戻った。

 俺は昨日書いた日記と夢のことが書かれている紙を取り出して眺める。


「葉月……か」


 俺は夢の中で出会った謎の少女の名前をボソッと口に出した。


 葉月は言った。『私は覚えているから』と。この言葉に深い意味はないだろうがやはりこの感覚は慣れることがない。


「なんとかして思い出せないものか……」


 そう考えているうちに何人かの足音がこちらに向かってきた。


「よーいちぃ」


「おっす」


 この声は……


「仁太、潤也!」


 そこには二人の友人の姿があった。


「久しぶりぃ」


 仁太が無邪気にはしゃぐ。それを止めようと潤也が頭をグーで一発殴る。


「いってぇ……何するんだよぉ」


「ここは病院だぞ。あんまりはしゃぐな」


「はぁい」


 仁太が反省したのか、しゅんとしている。


「なんか日常に戻ったような気がするな」


 2ヶ月ぶりの再会に俺も嬉しくなった。


「なんだその言い方は。いつだって一緒だろ?」


「それもそうだな」


 3人で笑い合う。


「お前ら、学校は?」


「今日から面会ができるって聞いたから学校に許可もらって遅刻で行かせてもらうことにしたんだぁ」


 今の時間は午前10時。そろそろ気温が上がってくる頃だ。


「そうか……そこまでしてくれたのか……」


 久しぶりの友の再会と、優しさに俺は目に涙が滲みだした。


「もぉ、洋一ったら泣いちゃってぇ」


「俺……これからも頑張る。だから、退院するまで待ってて」


 俺の言動に二人は戸惑った様子を見せた。


「どうしたんだ?」


 仁太は黙り込んだ。


「え? あ、いや……」


 明らかに何か隠しているようだ。


「これだけは絶対に言わないでくれって言われてるんだ。ゴメン、言えない」


「そうか。別に詮索するつもりはないから言えなかったら言わなくてもいいよ」


「そうしてくれると助かる」


 少し重い空気になってしまったが、それからは今年の夏休みにあったことや学校であったことを中心に話の花を開かせた。


「仁太さん、潤也さん、そろそろお時間です」


 遼子が病室に入ってくる。

 面会の条件の中に1日30分だけとなっている。そのため時間ちょうどに遼子がやってきたというわけだ。


「もう少し話していたかったよぉ」


「俺もだ。だからまた来てくれ」


「おう、じゃあまたな」


 仁太と潤也は手を振って病室を出ていった。俺はそれに笑顔で応えた。

 二人の姿が見えなくなると、玲衣がひょっこりと顔をだした。


「あんなこと言っちゃって大丈夫なの?」


「そうでもしないと仁太たちに心配されちゃうからな。仕方のないことさ」


 玲衣は悲しげな表情をしていた。それもそうだろう。俺は友人のために嘘を言ってしまっているのだ。


「それでも友人を思ってのことなの?」


「そうするしかないんだ。その方がそんなに悲しまなくて済むんだ」


「果たしてそれが正しいのかな?」


 そう言われた瞬間、寒気が走った。

 確かにそうだ。この嘘が最終的に一番二人を悲しませてしまうことになってしまうのだろう。


「間違ってた……のかもしれない。だから次来た時に本当のことを言うよ」


「うん、それがいいと思うよ」


 にこりと笑う。


 そして午前11時を回った時、玲衣にも面会者がやってきた。


 玲衣の母親なのだろうか。クラブのママのようなとても派手な服を着ている。髪も金髪だ。


「久しぶりね、玲衣」


「はい……」


 感動の再会のはずなのに玲衣の声は暗かった。

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