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インフィニット・メモリーズ  作者: 葛西獨逸
第1章 第2節 8月編
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8月編 第7話 選択

前回のあらすじ

遼子に屋上で見せたいものがあると言われた洋一たち。しかし、海祭りが本日開催されることも遼子は話していった。

そして玲衣は驚くべきことを口にした。

 遼子がなぜか海祭りのことを話した。しかし、俺たちは外出ができないため祭りに行くことはできない。彼女の意図は全く掴めないままだ。


 目を覚ました時にはすでに夕方になっていた。いい加減この副作用に打ち勝ちたいものだ。しかし、勝とうと思って勝てるような相手ではない。


「海祭り……か」


 俺はスマホを取り出して、海祭りについて調べることにした。《海祭り》と検索すると真先にヒットする。ホームページを開くと、大きな花火の写真が載っていた。昨年のものだろう。ここ数年、海祭りに行くことすらできなかったためか、この花火が懐かしく感じた。


 下にスクロールしていくと、大きく《本日開催!》と書かれていた。

 本来なら海の日に行われるのだが、今年は雨天だったため、今日に順延されたらしい。


 次に病院から会場までのアクセスを調べる。この病院からは地下鉄一本で行くことができる。交通費もそんなにかからない。


(行きたい……どうせなら仁太と潤也を誘って……あの日の約束を果たしたい……)


 そんな衝動に駆られた。しかし、ここは病院で抜け出すにも警備が厳重すぎる。


「諦めるしかないか……」


 俺はため息まじりでそう言った。


「一緒に行こう」


 俺は驚いた。玲衣が規則を破ろうとしている。彼女はそんなことはしない性格だと思っていたため、意外に思える。


「え? で、でも……」


 今度はバサッとカーテンを開けて先ほどよりもはっきりと言った。


「一緒にこの病院を抜け出して行こう。海祭りへ!」


 玲衣の顔は輝いていた。しかし、その選択が今後のことを大きく左右するのかもしれない。


「そりゃ俺だって……できるならそうしたいさ。でも、そんなことして、容体が急変したら……」


「でも、これが最後の夏祭りになってしまうのかもしれないんだよ? それなら、私は抜け出してでも海祭りに行くよ」


 これが究極の選択になるだろう。行くにしても、行かないにしても……


 俺は行かない選択を選んだ。しかし、策がない。何かいい手はないだろうか……


 俺は考え込んだ。


「そういえば……」


 俺は遼子が話したもう一つのことを思い出した。


「洋一くん、どうしたの?」


「遼子さんが言ってたこと、今夜屋上で何かがあるって」


 俺はこれが玲衣を説得する唯一の手段だと思った。


「そっちに行くの? でも、屋上に行ったって何もないはずだよ?」


 玲衣も今まで以上に必死で俺を説得している。少しでも気が抜けたら、海祭りに行く決断をしてしまいそうだ。


「俺は病院の許可がないと外には出ない。それに気になるんだ。遼子さんが言ってたこと。その真相がわかるような気がした。だから……俺は屋上に行く。そして、それは玲衣……君にも大事なことなんだ。これから一緒に戦っていく仲間だから……」


 俺は今までしたことないほどの熱弁をしてしまった。玲衣はキョトンとしている。


 そして玲衣は、ふっと笑った。


「そこまで言うなら私も屋上に行く。私も知りたい。屋上で何があるのか……遼子さんが言ってたことを……」


 俺は頷いた。


「じゃあ、そろそろ屋上に行こうか」


 夕日が病室に差し込む頃、俺たちは病室を後にした。


 屋上に行くと、遼子が一人、背を向けて立っていた。


「遼子さん」


「あらあら、まだ早いですよ」


 遼子は振り返り、ニコッと笑う。


「屋上で何があるか気になったので……」


「そうね。けどもう少し待ってくださいね。その間、少しお話をしましょう」


 遼子が手招きした。俺たちは遼子の方へ足を少しずつ進めた。


「まずは、昨日のこと、ちゃんと謝れませんでしたね。すみませんでした……私もちゃんとシステムとか理解してから話をしないといけませんでした」


「システム……ですか?」


 玲衣は疑問に思ったのか遼子に聞き返す。


「この病院は洋一さんが気づいた通り2つの病棟に分かれています。病棟名はまだ口にできないんですが、一つ言えることは他の病棟からは隔離されている……ということなんです」


「俺たちは感染症にかかっているわけでもない……ただ、余命宣告を受けた患者。それだけで隔離されているんですか?」


「そ、それは……」


 遼子は黙り込んだ。


 またこれか……俺は遼子に問い詰めようとしたがそれはしなかった。


 遼子にだって話したくないことがあるはずなのだ。それを俺は無理やり話させようとしている。このままでは遼子のメンタルがやられてしまうと俺は判断した。


「まあ、いいです。話はそれだけですか?」


「いえ、これからが本番ですよ」


 そう言って遼子は金網越しの遥か彼方を指差した。

 その瞬間大きな花火が大きな閃光と共に花開き、ポンという音が遅れて聞こえてくる。


「見せたいものって……」


「そうです。これを見せたかったんです。すぐそこに会場があるのに行けない洋一さんたちに少しでも夏を味わって欲しくて……」


 その瞬間、俺の視界は水でみたされ、視界が揺らめいた。


「ありがとう……ございます……俺たちのために……」


「私たちはずっと洋一さん、玲衣さんに寄り添っていきます。だから自分の運命を呪ったりしないでください。いつだって私たちがいます。だから……だから……」


 遼子は感極まって声が出なくなった。


「大丈夫ですよ。神様は私たちに乗り越えられない試練は与えないはずです。だから、乗り越えます。これからも……よろしくお願いします……」


 玲衣も涙を落としている。

 今夜は花火を見ながら涙をずっと流した。


 俺たちはこの2ヶ月でかなり成長した。しかし、命の灯火は確実に、少しづつ消えようとしている。


 まだまだこの病院の謎は多く残っている。そして、あの夢のことも……


 それでも俺たちは生きていく。残り少ない時間を謳歌するために……

今話で8月編は終了です。

次話から9月編になります。

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