1章 プロローグ
この世界は《愛》に満ちている。
純愛・情愛・博愛・慈愛……
この世界には愛に恵まれるものと恵まれないもので、大きな格差が生まれる。
《愛》に味をつけるなら、甘いものから苦いものまで、実に様々なものがあるだろう。
神のみぞ知る世界の摂理なのだ。
今この瞬間にも一つの愛が芽生え、生きる気力へと変える。
時間とともに人は新たな世界へと進み、幾多の選択肢という分かれ道に立たされるのだ。
彼も一つの分かれ道に立とうとしていた……
これは彼が世界という残酷な世界で運命に導かれる物語。
時として運命は彼に試練を与え、時として夢を与える。
そして彼は今、とある大型病院のとある病棟に入院している。
これはそれまでの経緯を綴ったものである。
彼の名前は片瀬洋一。
ごくごく普通の高校生だ。
彼の周りにはいつも笑顔であふれている。
「洋一、おはよう」
ナルシストのような格好でポケットに手を入れて洋一に挨拶をした金髪の少年は洋一の幼馴染の上田潤也。幼稚園からずっと同じで、幼少期から退く遊ぶ仲だ。
「おう」
洋一は短く挨拶をした。これがいつもの洋一の挨拶スタイルだ。
彼の挨拶ではいつも右手を上げる仕草をするが、倒れた日はその仕草をしなかった。いや、できなかったのかもしれない。
さらには何か虚ろな目で、焦点が合っていなかった。
「またおうだけなのかよ」
潤也が洋一にチョップを入れようとした時、潤也は彼の体調の変化に気がついた。
「お前、大丈夫なのか?」
何かを考えているかのように上を向いている洋一は、潤也の問いかけに気づくことなく、ずっと上を向いていた。
「おい、洋一!!」
潤也が少し強めに洋一の名前を呼ぶ。
洋一ははっとしてすぐに潤也の方を向く。
「ど、どうした?」
「大丈夫なのか? 体調悪そうだけど」
潤也は洋一の肩を掴み、優しく問いかける。
「だ、大丈夫。少し疲れているだけだ」
洋一の肩を掴んだ潤也の手に触れながら答える。
洋一の発言に潤也は胸を撫で下ろす。
「おいっすぅ、よーいちぃ、じゅんやぁ」
俗に言う《チャラ男》と言われる服の着こなしと話し方で教室に入ってきた赤髪の少年は南谷仁太。彼もまた洋一の幼馴染だ。
「その話し方はやめろって」
潤也は仁太の頭部目掛けてチョップをかます。
即座に仁太は頭を抑える。
「えー? だってぇ……おい、洋一?」
仁太も洋一の様子に気が付き洋一の名前を呼ぶ。
しかし、もう既に彼には答える体力が残っていなかった。
「……え、あ、あぁ……」
その瞬間、洋一は床にばたりと大きな音を立てて倒れた。
運良く近くに机などがなかったため、出血はないようだが、意識を失ってしまったようだ。
「洋一!!」
すぐさま潤也と仁太が洋一に駆け寄る。
騒ぎに気づいたのかクラス委員が慌てた様子で洋一に近づいてきた。
「と、とにかく救急車を! 南谷君はAEDを持ってきて!」
クラス委員は迅速に潤也と仁太にその指示を出し、彼女は職員室へと走って向かっていった。
彼がかかったのはとんでもない病気だった。
この病気にかかったものは寿命1年と宣告され、治療法すら発見されていない難病だったのだ。
彼はすぐさま入院、余命宣告を受けた。
その宣告に洋一はショックを受け、自殺を図ろうとしたこともあった。
彼にはカウンセリングを受けさせ、これからに付いて話し合ったりもした。
その甲斐あって、今では精神も安定している。
これが、この物語の始まりの物語だ。
彼の人生が終わるのも時間の問題なのかも……しれない。
続く……