表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

第2話 息づかい

作者: halico

 彼女は橋の上から、河川敷に佇む彼の姿を確認した。彼はこちらには気付いていない。待ち合わせの時間まで数分あるが、彼女の歩みは自然とスピードを上げていた。


 胸の鼓動が速くなる。体中の血管が脈打つのを感じる。告白に失敗した時にとるべき行動や言うべき台詞の膨大なシミュレーションの中に、彼と未来を過ごしている曖昧な自分のビジョンがふわふわと割り込んでくる。昨日の夜からずっとそうだ。


 彼は彼女の姿に気がつくと、少し手を上げて歩いてきた。

 他愛のない会話を交わす。

 息を吐ききっていないのに、すぐに吸いたくなる。苦しい。


 はっ——

 はっ——


 駄目だ、もうもたない。


 彼女は大きく息を吸い込み、大切な言葉を吐いた。


「で、付き合ったの?」

友人が何杯目かのビアグラスを空にして尋ねた。


「いや、断ったよ。当時は俺も好きな子がいたし、それも結局駄目だったけど。けどな——」

「けど?」

「もう十年も前のことで、何て告白されたかはあんまりよく覚えてないんだけど、なんていうか、彼女の息づかいはよく覚えてるんだよ。特に、吐く息をさ。あの吐いた息に、あの中に、彼女の気持ちがつまってたんじゃないかって」


彼はそう言って友人の反論を待ったが、友人はテーブルに突っ伏して湿った寝息を立てていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ