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合同授業2

合同授業は水属性科の実技演習場で行うことになった。

演習場は、大きな池とその横の広いスペースからなっている。



「今日の合同授業では、属性間の相性について体験してもらいたいと思います。まずは、それぞれの属性の相性を全て覚えている人はいますか?」



殆どの生徒は、前後左右の人と顔を見合わせたり首を傾げたりしていて、手を挙げられない様子だ。

日頃の授業で相性について触れることは少なくはない。しかし、全ての属性については触れていない。仕方ないと言えば仕方ないのだが……。

しかし、レオナは名家の出身だから、親などから教えられていてもおかしくはないのだが……。相変わらずムスッとした表情でそっぽを向いている。

その中で一人の生徒が手を挙げた。



「リーナ・イーデルさん」



ティニート先生が指名すると、手を下げて「はい」と返事をする。

この声は聞き覚えがある。今朝も聞いた。

それに、イーデルの名も聞いたことがある。僕のクラスのニーナ・イーデルと同じファミリーネームだ。

顔も声もそっくりだ。



「属性は火、水、土、風、雷、光、闇があります。

火は風に強く、水に弱い。

水は火に強く、雷に弱い。

土は雷に強く、風に弱い。

風は土に強く、火に弱い。

雷は水に強く、土に弱い。

光と闇についてはあまり分かっていません。

また、特殊魔法は例外です」



魔法の相性は五行思想のようなものだ。つまり、五つの相性にも例外もある。そのことに触れなかったこと以外は完璧だ。

答え終わると、リーナさんはニーナの方を向いてにこりと微笑む。ニーナは無表情だが、目で何かを伝えたように見える。

一人の男子生徒が手を挙げる。水属性科の生徒だ。



「特殊魔法ってなんですか?」



周りの生徒も首を傾げたり、彼に同意を示す態度をしている。

僕が答えるのは最適ではない。何故なら、ティニート先生の方がおあつらえ向きの魔法をもっているからだ。



「その人が持つ固有の魔法のことです。基本的には、親から受け継がれるもので、その人以外は使うことができません」



そう言うと、ティニート先生は、正面に手をかざして水を発生させる。そして、その水を掴むと同時に氷へと変化させた。

ティニート先生の持つ特殊魔法は『状態変化』だ。発生させた水を固体や気体に変化させることが出来る。

生徒は拍手すると、数人は僕の方を向いた。期待の眼差しだ。その数人の中にはレオナも混ざっている。



「クルト先生はどんな魔法が使えるんですか?」


「残念ながら、僕は特殊魔法を使えないんです」



嘘は言っていないが、とても腑に落ちない表情だ。

ティニート先生が「全員が特殊魔法を持っているわけではありません」と言うと、生徒がなるほどと理解してくれたようだ。



「実際にファイアボールとウォーターボールを衝突させてみましょう。では、今から二人ずつ呼びますから、前に来てやってもらいます。」



同じくらいの実力の人同士にしたが、もしものために一組ずつ体験してもらうことにした。



「レオナ・ディムバールさん。ミルト・ジョージくん。前に来てください」



不服そうにも前に出てくると、不適な笑みを浮かべた。



「あんたが相手なんてついてるわね」


「それは俺の台詞だ。ここでお前を公開処刑にしてやるよ」



二人は互いに親が軍人で、昔からの知り合いらしい。ミルト君は、有利属性の水属性なのに、優秀な火属性である彼女とは実力が互角だとかで、敵意を持っているようだ。

この二人は水と火だが、水と油のように相性が悪い。しかし、安定して魔法が使えるという点ではこの二人しかいない。



「今は授業中ですよ。二人とも指定された魔法を発動してください」



しぶしぶといった様子で各自魔法を発動させる。



「いいですか?では、せーのっ!」



僕の合図で同時に魔法をぶつけ合うと、それらは相殺した。



「んー。これじゃあ、分かりにくかったですね」



ティニート先生は、こっちに合図を送る。



「二人ともありがとうございました」



悔しそうなミルト君と嬉しそうなレオナが列に戻ると、ティニート先生が手を叩く。



「では、私とクルト先生が実演します。私は力の調整が苦手なので、クルト先生が怪我しないように努力します」



その言葉を聞いたレオナは、鋭い視線でティニート先生に何かを訴えている。



「一応のため、皆さん離れていてください」



生徒を遠ざけると、すぐに魔法を発動させた。もちろん、ティニート先生の魔法の強さに合わせて、同じ程度に調整した。



「行きます!」



同時に発せられたそれは、属性の相性通りの結果を見せた。

水が火を打ち消し、僕へ直撃した。



「大丈夫ですか?」



ティニート先生が心配して近寄ってくるが、大丈夫と言って、生徒の方へ行くように促した。こっそり回復魔法を使うためだ。



「このように、同じ魔力の場合は有利属性が勝ちます」



僕が戻ると、水属性科の生徒が手を挙げた。



「じゃあ、クルト先生よりもティニート先生の方が強いんですか?」


「そんなわけないでしょ!」



レオナが即答するが、無視された。

火属性縛りでティニート先生に勝つのは難しいかも知れない。正確に言えば、ティニート先生に怪我をさせずに勝つのは難しい。



「私はクルト先生に勝てませんよ。クルト先生は魔力だけでなく、技術もあります。戦闘経験の浅い私は勝てないでしょう」



水属性は、あまり前に出て戦闘するタイプではない。中衛から後衛で支援するタイプだ。ティニート先生は支援に関しては一流だ。



「戦闘は、有利か不利かだけでなく、技術や経験も関係してきます。自分が有利属性だからと言って油断していると痛い目に合いますよ」



特に、この時期は属性による差は大きく、そこで何も教わらないと、油断して有利属性でも負けてしまう。

魔法の習得が難しい火属性と、比較的簡単な水属性の間では、それが起こりやすい。だから、このような授業を行うことになっている。



「技術の差と言われてもピンとこないです」



さっきの生徒が更に質問を重ねてくる。



「実際に見せてください」



周りの生徒も、興味本位で同意の声をあげている。



「分かりました。では、軽く模擬戦闘を行いましょう。相手の背後をとった方が勝ちということで」



意外と戦闘好きなティニート先生は、さっと配置に着く。繰り返すが、水属性の人の多くは中衛や後衛での支援がメインだ。しかし、ティニート先生は親の影響で前衛での戦闘を好んでいる。すでに、目が本気だ。



「本当に軽くですよ」



釘を刺すように確認する。

すぐに生徒の発言に、乗せられるのはどうなんだろうか。自分も言えた口ではないな。



「では、はじめ!」



ティニート先生の合図で始まった。

ウォーターボールを作ると、さっきの実演のせいで水びたしになっていた足元に触れさせた。すると、特殊魔法『状態変化』で個体へと変化していく。さらに、それとは別に自らの足も凍らせた。



「行きますよ!」



アクアアローから氷の槍を複数創造して、それをピッケル代わりに移動していく。少ない摩擦で素早く動き、慣れた動きで方向転換する。

生徒から歓声が聞こえる。

怪我させないように、足元の氷を溶かすためにファイアボールを撃つ。



「それじゃあ、勝てませんよ!」



完全に楽しくなっているティニート先生は、直接攻撃を仕掛けて 注意を逸らそうとしてくる。

ルール的にあまり良くないかと思っていたけど、そうは言ってられないかな。



「フレイムウォール」



自分の周りに炎を壁を作り、攻撃を防ぐ。背後を取ったかの判定が難しくなるかと思ったが、ティニート先生が制御不能になる前に終わらせるにはこうするのが手っ取り早い。

壁を少しずつ外に広げて、氷を溶かして行く。



「かかりましたね。」



ティニート先生は、更にウォーターボールを出すと、今度は気体へと変化させた。

炎で蒸発させたこともあり、周りがどんどん霧に囲まれていく。



「こうなれば私のものです!」



気配が近付いてくる。足元には氷が復活している。

やっぱり、ティニート先生は手強い。



「僕も楽しかったです」



小さく呟いて両手を左右に広げる。



「燃やし尽くせ。ヘルフレイム!」



地獄の炎は霧すらも消し去る。

行き場を無くしたティニート先生に近付いていく。



「これで背後ですね」



背後をとって、相手の背中に手をかざす。これが勝利の合図だ。

炎を消すと、火属性科の生徒は喜び、水属性科の生徒は驚きの表情を浮かべていた。



「上級魔法を使うなんてズルいですよ」



ティニート先生は小さく頬を膨らませて、悔しそうにしている。



「技術で分かりやすいと言ったら、高難易度の魔法の制御かなと。最上級魔法は危険なんで、一応のために上級魔法にしたんですよ?」


「戦闘としての技術を見せたかったのですが、それには私では力不足でしたか?」


「怪我をしないことが一番ですよ」



生徒の元へ戻ると、わっと騒ぎだした。

ティニート先生の戦闘を初めて見たという生徒が多く、水属性科の生徒は大盛り上がりだった。対して、僕のクラスは勝って当たり前といった様子で、レオナ以外はほとんど何も言っては来なかった。



「残り時間も少ないので、今から二人ずつ呼ぶので、ペアになって属性の相性を体験してみてください」



基礎魔法を用いたものだったが、初心者の生徒たちには難しく、ちゃんと出来たペアは少なかった。

イーデル姉妹は、それぞれの特殊魔法の性質から危険と判断し、見学してもらうことになった。二人のペアだと、特殊魔法と相性との話がしやすいのだが、制御の関係から断念した。

数人に指導している内に、鐘がなった。



「これで、最初の合同授業を終わります。」


「次回は実践練習で立ち回りを学んでいこうと思います。なので、それまでに魔法の練習をしておきましょう」



授業が終わり、生徒の後ろを歩いているとレオナがくっついて来た。



「先生。さっきの魔法教えてください!」



この学校では、初年度で初級を教え、次の年で中級、最後に上級の魔法を教えるということになっている。ちなみに、上級まできちんと使えるような生徒は少ないらしい。

一応、生徒の成長に合わせて先取りなども許可されている。ただ、安全のために申請が必要で、前例は数件しかない。



「教えてもいいんですが、中級を飛ばして上級を覚えようとすると危険です。中級の魔法を使いこなせるようになってからにしましょう。間違っても、一人で練習してはいけませんよ」



レオナは目を逸らしながら「はい」と返事をした。少し注意しておこう。


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