先生になりました
魔法学校で四年間勉学に励んだ後、僕はその魔法学校で火属性魔法学科で教師をすることにした。
火属性魔法学科の人数は12人で、あまり多くない。火属性の魔法使いは貧困層が多いからだ。
「魔法実技の授業を始めます」
今日も二人足りない。
元々体の弱いニーナは体調不良。もう一人は、校舎の裏でお昼寝ってとこか。
「それじゃあ、一人ずつ練習の成果を見ていこうか」
学校では、初級魔法を一通り覚えることから始める。その事に一年を費やす。
事前の魔力適正診断によって、生徒の魔力の量と強さがわかっている。しかし、実際に発動出来るかというのは経験によるものが大きい。
「うわぁ!」
魔法を暴発させたのはケニーだ。魔力の量が多いだけに、制御が難しいのだ。それは自分も体験しているからよく分かる。
「大丈夫。擦り傷程度だ。一応のため、後で医務室行ってきなさい」
「はい」
ケニーはしょぼんとして頷く。
「先生。見ててください」
赤髪のサイドテールに赤い目の子は、レオナ・ディムバール。この国で有名な火属性魔法使いの家の娘だ。
火属性の魔法使いでも、魔力が強ければ大きな家になる。
「フレイムアロー!」
レオナが発動したのは、指定の初級魔法ではなく、一年生は使用禁止の中級魔法だ。
いくら名家の娘と言っても、制御しきれるものじゃない。
「危ない!」
咄嗟に、暴発した魔法に手を伸ばした。
レオナの手から離れた炎の弓矢は、僕の手の中に消えていく。
「大丈夫か?」
自らの魔法が消えて、レオナはきょとんとした顔になっている。
「何が起きたの?」
「魔力で出来た炎は、更に強い魔力で作った炎で打ち消すことが出来る。これはまだ習わないことだが、知っておくといい」
実際は、闇属性のオリジナル最上級魔法『ブラックホール』を使ったけど、その方法でも可能だから嘘ではない。
「やっぱり先生は凄いです!先生なら私のお父さんの連合でもトップの部隊に入れますよ」
キラキラとした目を見ると、やっぱり心が痛くなる。
「レオナは明日までに反省文を書いてくること。中級魔法の使用についてです」
キラキラしていた目から光が消えた。
何の言い訳もせずに「はい」と答えると、素直に後ろへ下がった。
「先生。先生が火属性以外の魔法も使えるって本当ですか?」
小柄で白髪の子はルナ・オーディスだ。いつも静かな彼女は、無表情のまま僕に問いかけた。
「違いますよ。どこからそんな話が上がったのかな?」
「そこの男子二人が言ってました」
ディーンとジルか。
ルナの方を見て、焦りを色を見せている。
「何でそう思ったのかな?」
問いただすと、ジルが答えた。
「だって、あんな凄い魔法より更に強い魔法なんて使えるわけないじゃん」
「ジル!先生に向かってなんて口の聞き方をするの!」
レオナが前に出てきてジルに怒りをぶつける。
ジルは目を背けながら「だって」とだけ答える。
「わかりました。先生にもプライドってものがあります。僕の実力を見せてあげましょう」
ざわめく生徒を少し遠くに避難させて、魔法を発動させる場所を決める。
「先生の本気が見られるなんて!」
「別に大したことないに決まってるよ」
「ジルは黙ってて!」
二人が喧嘩しているが、これを見せればいいだろう。
「後でダンデル先生にお願いしないとな」
校舎から一番遠くて、ギリギリグラウンド中を範囲として、そこに土嚢を積んでおいた。
加減が難しいが、校舎のガラスが割れないように風を調節しておこう。
「伏せておいてくださいね」
怪我でもされたら僕の責任になるんだからね。
右の手のひらを正面に向けて目を閉じる。
大きめのファイアボールを発現させて、目標となる土嚢の上に静止させる。そして、浮遊しているファイアボールを圧縮する。
あとは、それに刺激を加えるだけ。
「トゥルー・エクスプロージョン!」
想定内の爆発規模だ。
炎は煙と一緒に上空へ上がっていった。目標地点には、土嚢が消えるだけでなく、大きな穴が空いていた。
「これはダンデル先生に怒られるかな」
呟いてから生徒の方に向き直ると、それぞれが違う反応を見せていた。
「先生はやっぱり凄いです」
レオナは拍手して大喜び。ルナは無表情を貫いている。件の二人は、腰を抜かして怯えている。
「これでも、大したことないと思いますか?」
「ごめんなさい」
二人は怯えながら謝った。
そうだ、言い忘れてた。
「これは初級魔法のファイアボールと、中級魔法のフレイムアローを応用したものです。個々の魔法は簡単ですが、同時発動などの応用に技術が必要となります。絶対に真似しないでくださいね」
「出来ませんよ」
レオナは嬉しそうに笑った。
校舎から鐘の音が聞こえる。良かった。窓は割れていない。
「では、今日の授業は終わりです。動ける人は、気絶している人を校内に運ぶのを手伝ってください」
火属性の魔法だと、人を運ぶことが出来ないのは不便だ。
その日の放課後、多方面からお叱りを受けたことは言うまでもない。また、僕を複属性だと疑う人が居なくなったことも……と、言えるのはいつになるのだろうか。