修行します。1
朝日ととも目覚めると、テーブルの上には朝御飯の用意がされていた。
はちみつが塗られたパンと目玉焼き、色鮮やかな果物が並んでいる。
「外に井戸があるから、そこで顔洗って来るのじゃ」
この世界に来て、はじめて外に出る。
軋む扉を開けると、ぶわっと風が吹き付けてきた。風と一緒に、嗅いだことの無い香りがやってくる。
目を閉じて、大きく深呼吸をする。
視界の端に井戸らしき建造物が見えた。
「モンスターとかいないよな」
そっと井戸の中を覗くと、水を汲むための桶が見える。それをゆっくりと井戸の底に下ろして、ぽちゃんと音が聞こえたら、一拍おいてから引き上げる。
水も綺麗だ。言われたとおりに、顔を洗ってうがい手洗いをした。
どうやら、元の世界とこの世界との差はあまり無いようだ。
多少の魔法やモンスターが存在するだけ。
きっと、自分もそこそこの魔法を使えるようになる。そうに違いない。
例えば、この水を球にして浮かせるとかは出来るだろうか。
手をかざしたり水をすくってみたりしたが、何も起きない。
「駄目か」
桶に残った水は、近くの草木にばらまいた。
日当たりが良いからか、草の上の水滴が直ぐに消えていく。
桶を置き、振り返るとそこにあった草が伸びていた。魔法の植物だろうか。とても成長が早い。
「これは普通なのか?」
何か特別な事が起きていないか心配になってくる。
他の草にも水をかけてみれば、分かるかも知れない。しかし、それはそれで大変なことになりかねない。
「何かあったかのお」
後ろから聞こえてきた声で、はっとする。
そうだ。聞けば良いじゃないか。
草を指差して、口を開いた瞬間。さっきまで以上の早さで、草が伸びてきた。
草は、何か液体を飛ばして攻撃してきた。ぎりぎり避けることが出来たが、体勢が崩れた今、直ぐに次の攻撃が来たら避けきれない。
「伏せるのじゃ」
言われたままに、その場に伏せると、老人は杖をかざした。
「ファイアボール」
そう言うと、杖の先から炎を球が飛び出した。
炎が草に当たると、草は黒く焦げて消えた。
「危ないところだったのお。あれは魔法植物のスリーププラントじゃ」
芽が出てから枯れるまで、ほとんどの時間を寝て過ごすらしい。どうやら、水をかけられたことに怒っていたみたいだ。
寝ているところを叩き起こして燃やしてしまった。申し訳ないことをしてしまった。