ルナの目3
職員室を出て急いで帰ろうと玄関に行くと、レオナが待ち構えていた。
「先生!中級魔法の練習しましょう!」
合同授業の後から、ずっとこの調子だ。
「今、書類の審査中です。実際に許可が下りるのは早くても二日後でしょうね」
前例が少ないため、明確な審査基準が設けられていなかった。そのため、学長や学年主任も判断に困っていた。さらに、レオナの授業態度も影響している。彼女は優秀ではあるが、大雑把な性格が魔法の制御に影響を与えている。
「こっそりやれば、ばれませんよ!」
「何をこっそりやるんですか?」
レオナの背後にダンデル先生が立っていた。ダンデル先生は、生徒指導の担当でもある。レオナは、声の主が誰なのか気が付いた様子で、ゆっくりと振り返る。
「それは……」
笑顔のダンデル先生だが、怒っていることが分かる。土属性なのに、背後に炎が見えそうだ。
「昨日も、こっそり練習して花壇の花を燃やしただろ!見ていた人から報告があったぞ!」
レオナは僕を見て、目で助けてと訴えかけてきた。もちろん、因果応報なので、首を横に振る。
「生徒指導室まで来てもらおうか」
レオナは逃げ出そうとするが、ダンデル先生が先手を打っていた。すでに、僕らの周りに土の壁が出来ていた。
「さて、どんな罰が良いのかな?」
取り合えず、急いでいるから出して欲しいんですが。
きっと、そう言っても届かないだろう。
「そうだ。校内の清掃とかどうですか?」
レオナは、あからさまに嫌な顔をした。ダンデル先生は首を傾げている。
「レオナさんは、魔法に丁寧さが足りていません。下級魔法ならそれでも良いのですが、上級魔法なんかは細かい制御が必要になります。校内清掃で丁寧さを身に付けるんです」
ダンデル先生は、理解した様子で首を縦に振っている。対して、レオナは困った表情をしている。
「中級魔法や上級魔法の習得のためになると思いますよ」
「分かりました。先生が言うのならやります」
即興で考えたにしては、良い提案だったと思う。
「では、僕は用事があるので。さようなら」
ごめんなさい。ダンデル先生。多分、大変な仕事を押し付けたかも知れません。
申し訳ない気持ちを胸に、僕はルナの家へと走り出した。