女王なつきとお城のタネ 9章
九
「いきますよ、それっ!」
なつき、ハーディン、アルダ、ゴダック、医者の五人を背中にのせて、バルダルフは翼を広げて飛びたちました。
ところが、ワシやハヤブサのようにすさまじいいきおいで飛ぶのかと思いきや、よたよたとして、今にもおっこちそうなたよりない飛びかたではありませんか。
「うおっ、なんだこれは! 身体が! 重い!」
バルダルフにとって、人間が五人ほど背にのったところでたいした重さではありません。つまりそう、バルダルフは洞窟でろくに運動もせず食っちゃ寝食っちゃ寝してすごすうちに、あまりにも太りすぎてしまったのです。
「がんばって! ここでがんばってくれたら、あたしをだまそうとしたことは、今後もう二度とふれないであげるから! 南へ! 村へ! いそいでー!」
なつきは大声であびせましたが、今のバルダルフはよたよた飛ぶだけでせいいっぱいらしく、返事さえしません。
とはいえ、空を飛ぶのですから、人間が歩いたり走ったりするのにくらべればはるかに速いのです。
来る時に通った、目印となる大きな岩山がぐんぐんちかづいてきました。
「ううっ、つかれた。すこし、休憩を……」
バルダルフは岩山のてっぺんに着陸して翼をたたみ、はあはあとあらい息をはきました。
それでも、バルダルフなりに、女王なつきに力をかそうとがんばっているのでしょう、すぐにまた飛びたって先をいそぎました。
「見えた!」
三回ほどみじかい休憩をはさんで飛んだすえに、なつきのお城がたつ草原が見えてきました。
「バルダルフ! あの、小さなお城が見える? あれはあたしのお城なの! いったんお城のそばに着陸して!」
なつきに命じられて、ドラゴンはいわれるまま着陸しました。
「うわあっ、ドラゴンだ!」
「なんでドラゴンが?」
お城のそばにいた子どもたちが悲鳴をあげたので、なつきはドラゴンの背から飛びおりざま、「しんぱいしないで! バルダルフは味方だから!」とつげました。
「ところでみんなも、のろしを見た? 東の森から、巨人たちが出てきたっていう合図の赤い色ののろし」
「ええ、見ました!」
「大人たちは、いそいで村へもどりました。巨人たちにうばわれないように、できるだけたくさん、家畜や穀物をかくさないといけないので」
「村長のホダインさんが、村へむかう前に、赤ちゃんと子どもはお城に入って身を守るようにといいのこしたんです。村のみんなが入れる大きさじゃないけれど、赤ちゃんと子どもだけなら、ぎりぎり入れるから、って」
子どもたちから話を聞き、なつきはうなずきました。
「そうだね。まだお城ってよべるほど大きくはないけど、それでも、石でできているんだもの。木の家よりはずっとがんじょうで、かんたんにこわされはしないものね」
「女王様! ここはもういいから、村へいきましょう!」
ハーディンがドラゴンの背からせっつきましたが、なつきは「ちょっとだけ! ちょっとだけまっていて! 女神から、なにか役立つものをもらってくるから!」とつげてお城の中へと走りこみました。
お城の中は、ふあんげな顔の子どもたちと、わんわん泣く赤ちゃんでいっぱいでした。なつきは「ちょっとどいて! とおして!」と、子どもたちをかきわけて奥へ進み、女神エルメディアの像に手をふれました。
(女神エルメディア! 緑の民がたいへんなの!)
ねんじると、たちまちなつきは白い光につつまれ、女神の部屋にいました。
「女神ー!」
部屋につくやいなやなつきが大声をあげたので、小さなじょうろで鉢植えに水をやっていた女神は、びくっとしました。
「あ。なつきじゃないの、おどろかさないで」
「たいへんなのよ! 緑の民の村に、巨人たちがたくさんやってくるの! なにか役立つものはない? ねえ、なにかあるでしょ!」
すると女神はじょうろをほうりだして、壁ぎわの飾り棚のところへゆきました。
「なつきの話を聞いて、これを用意しておいたわ」
エルメディアは、棚からとってきたガラスの小びんをなつきにさしだしました。びんには、すきとおった緑色の液体が入っています。
「これは?」
「この部屋の鉢植えのひとつに生えている、魔法の草を煎じて作った薬です。飲むと、巨人たちに負けないくらい大きな力を出せるようになるの」
「ああっ、ありがとう! そう、こういうの! こういうのを期待していたの!」
「でも、この薬は……その……せいぜい、大人なら一人分、子どもなら二人ぶんくらいの量しかないの。それで、たりる?」
女神はもうしわけなさそうに肩を落としました。
「ええっ! 村へくる巨人はすくなくとも五人、ううん、ひょっとしたら十人くらいいるかもしれないのに! これだけじゃたりないよ!」
「そうはいっても、鉢植えの草からとれたのはこれだけなのよ……」
「もっとほかに、戦うのに役立ちそうなものは、なにかないの? よくきれる魔法の剣とか! 稲妻をはなつ魔法の杖とか!」
「ごめんなさい。わたくしは、草木や水の恵みをつかさどる女神で、戦うのに役立つようなものなんて、そもそも……」
「あー、もう! でもとにかく、ないよりはましだよね。これ、もらってくから!」
なつきは薬の小びんを手に、あわただしくきびすをかえして、部屋の扉を開けはなちました。
すると、なつきはふたたび白い光につつまれ、お城の部屋の女神像の前に立っていました。
手には、緑色の液体が入った小びんがあります。
「えっ?」
「女王様の手に、いきなり、びんが……」
なりゆきを見まもっていた子どもたちがふしぎそうな顔をむけてきましたが、説明しているひまはありません。なつきは「どいて! どいて!」と子どもたちをおしのけ、お城を出ました。
たたたた、と草をけって走り、バルダルフの首づたいに背中へのぼります。
「女王様、それは? もしかして、女神様がくださった魔法の薬かなにかですか?」
ハーディンが小びんに気づいてたずねてきました。
「そんなところ。バルダルフ、飛んで! 村へ! あっと、村はこの草原から見て、どっち?」
「西です」
「じゃあ西へ!」
バルダルフは翼をならして飛びたち、よたよたと、でもけんめいに、西へ飛びました。
ハーディンが暮らす家を飛びこえ、こんもりとした林を飛びこえ、じきに村が見えてきました。
たくさんの家々のあいまを、村人がいそがしく走りまたっているのが見えました。村へ来る巨人たちの数は五人以上。戦ってもおいはらえるとは思えないので、彼らがくる前に、なるべく多くのブタやウシやニワトリ、穀物などを、どこかへかくそうというのです。
(でも、巨人たちがやってくるまでに、すべてのものをかくすなんてできっこない。だいたい、ウシみたいな大きな生き物はかくしようがないだろうし……。それに、なにかないかと巨人たちが家をこわしてさがしまわったら、あとでその家をなおすのだって、たいへんなてまがかかるはず)
なつきはくちびるを軽くかみました。村のすべてを巨人たちの手から守るなら、戦うしかないのです!
バルダルフが村の中央にある広場に着陸すると、村長のホダインをはじめ、みんなが足をとめて目をみはりました。
「ドラゴン……!」
「なんで、ドラゴンが村に?」
「ああっ、なんてこった! 巨人たちだけでもたいへんなのに! もうおしまいだ!」
青い顔をしてさわぎたてるので、なつきが「バルダルフは、あたしたちの味方だから! だいじょうぶだから!」と声をはりあげておちつかせました。
「え? 味方、ですと? もしや、女王様がやりをぬいてくれたことに恩を感じて、巨人たちと戦ってくださるので……?」
ホダインが目をかがやかせました。でもバルダルフは「オレはまだ、けががきちんと治ったわけではなくて……。たくさんの巨人が相手ではなあ……」と、ばつが悪そうに前足の爪で地面をひっかきながらいいました。そしてそんなバルダルフのたいどを見て、ゴダックやアルダは(こいつがいっしょに戦ってくれたら力強いのに)といいたげに顔をみあわせました。
「ホダインさん」
なつきは心を決めて、村長の顔を見つめました。
「あたしは、この村から、ニワトリ一羽、ジャガイモ一個たりとも、巨人たちの手にわたしたくはない。だから、女王としてみんなに命じます。巨人たちと戦う! 家畜や作物をかくす作業は中止して、できるだけ多くの人に弓矢をもたせて!」
「えっ! しかしですな、勝ちめはありませんぞ」
「ううん、そんなことない。あたしには、今しがた女神エルメディアからもらった、この薬があるから。これがあれば、巨人とおなじくらい大きな力が出せるようになるんだって」
「なんですと! ほんとうですか?」
「ほんとう……だと思う。あの女神、緑の民をしんぱいしているのはたしかだから。ハーディン!」
なつきはハーディンにむきなおりました。
「はいっ!」
「このびんに入った薬の効果は、今、いったとおりよ。だけどこの薬、女神によると、大人なら一人分、子どもなら二人分の量しかないんだって」
「えっ……。ここへくる巨人の数は、少なくとも五人以上……ですよね?」
「うん。だけど、やるしかない。あたしとハーディンがこのびんの薬を半分ずつ飲んで、巨人と戦う。それでいいわね?」
なつきにたずねられて、ハーディンはごくっと生つばを飲みこみました。
「いかん! 子どもにすぎない女王様やハーディンが戦うだなんて! おれが飲もう。自分でいうのもなんだが、おれは弓の名手だしな」
アルダがもうし出ましたが、なつきは首を横にふりました。
「巨人と同じくらい大きな力で弓をひいたら、弦がきれちゃうでしょ? てことは、これを飲んだら弓では戦えない。それに、この薬で大きな力を出せる人が、一人よりは二人のほうが、まだやりようがあると思う」
ハーディンはしばらくまよっていましたが、やがて顔をあげて、「わかりました。僕は女王様につかえる騎士ですから」といいました。
その時です。広場のすみにたっている鐘をつるしたやぐらから、「巨人がきたぞぉー!」とさけぶ声がありました。
なつきは、だっと走っていってやぐらのはしごをのぼり、やってくる巨人たちに目をこらしました。
(あれが、巨人……!)
はじめて目にする巨人は、これ以上ないくらいおそろしげな生き物でした。そばにある木とくらべて見たところ、身長は人間の大人の三倍、ひょっとしたら四倍もあるでしょうか。そのくせ、人間よりも頭が大きく首が太く、手足がみじかくてずんぐりむっくりの身体つきです。ただし筋肉がもりあがっていて見るからに力もち、けものの皮をつなぎあわせた腰布をまき、木をあらけずりにしたやりやこんぼうを手にしています。
しかも、ああ、なんということでしょう! 巨人たちの数は五人どころか――なつきが目で数えたところ、なんと十二人です!
「……あのこんぼうをふるわれたら、家なんてかんたんにふきとんでしまいますね」
ハーディンがなつきのかたわらへやってきて、いやにしずかな声でいいました。
「うん。それどころか、何人もの巨人があのこんぼうでたたきまくったら、あたしのお城でさえ、こわされちゃうかもしれない」
「そのう、女王様。女神様からいただいた薬で、僕と女王様が巨人なみの力を持ったとしても、巨人は……十二人もいるみたいです……。僕たち二人だけで、なにをどうするんですか?」
「そのことだけど、ほら、見て。巨人たちは動きがゆっくりでしょ」
「ええ」
「力もちでも、すばやく動くのは苦手なんだと思う。だから、小さな相手をつかまえるのはむずかしいはず。あたしとハーディンは子どもでしょ。大人よりも小さいでしょ。だから、すばやく動きまわれば、巨人たちにとってはやっかいな相手のはず!」
「うーん、そうでしょうか……」
「それにね、あたし、学校の体育の授業で柔道をならったの」
「じゅーどう?」
「うん。はやい話が、戦うための技。でね、柔道には足をはらう技がいろいろとあるの。大外刈とか小外掛とか……。どんな大きな相手でも、足をはらわれて平衡がくずれると、たおれてしまうものなの」
「つまり、足をねらって戦おうっていうんですか?」
「そう。すばやく動いて、巨人たちの足をねらうの。思いっきり、足首や踵をけりとばすわけ。巨人はたまらずたおれてしまうはず。たおれたところへ、村のみんなが矢をあびせまくれば、巨人といえどもただではすまないと思う」
「なるほど」
「そして……」
なつきは、ぐんぐんちかづいてくる巨人たちのうち、先頭の巨人をぐっとにらみつけました。
「ほら、見て。あの、先頭のひときわ大きな巨人だけ、けものの皮をつなぎあわせたぼうしをかぶっているでしょ」
「ええ」
「あいつが、あの巨人たちの隊長なんだと思う。もっというと、いちばん強い巨人なんだと思う。なんとかしてあいつをやっつければ、ほかの巨人たちはあわてふためくはずよ。あんがい、あいつ一人をやっつければ、ほかの巨人たちはおどろいて、戦わずににげてしまうかも」
「そんなにうまくいくかなあ……」
「それはやってみないとわからない。だけど、そもそも巨人たちは、緑の民のことをよわい生き物だと思っているはずよ。だから、あっといわせれば、きゅうにこわくなると思うの」
「うーん、なるほど」
「とにかく、やるのよ! あたしとハーディンで、この村をまもるの! みんなの家や、ブタや、ウシや、野菜や……とにかくすべてをまもるの!」
なつきはやぐらからおりると、「みんな、弓矢のじゅんびはできた? ちらばってものかげにかくれて! あたしとハーディンが巨人を地面にころがすから、そしたらありったけの矢をあびせて!」と指示しました。
「それと、バルダルフ!」
「はいっ!」
「けがしているんだし、むりに戦わなくてもいいよ」
「あ。女王様にそういっていただけると、オレとしてもたすかります」
「ただし、いっておくわ。もしいっしょに戦ってくれたなら、あたしはその恩をけっしてわすれない。いつの日か、かならず恩返しをする。だから、戦うとどうか、自分で決めて」
「は、はあ……」
バルダルフはまよい顔をしながら、ひとまず村で一番大きななやのかげへとのそのそ歩いてゆき、ヘビがとぐろをまくようにくるくると身体を丸めました。
「ハーディン、きて」
なつきはハーディンをつれて、村の入り口のちかくにある、いっけんの家のかげに身をひそめました。
ずん……ずん……と大きな足音がちかづいてきます。
「あのう、女王様」
「なによ」
「手、ふるえていますね」
なつきは、自分がいつのまにかハーディンと手をつないでいることに気づきました。
「ふるえてないよ」
「じゃあ、そういうことにしておきます」
「それより、じゅんびしなくちゃ」
なつきは女神にもらった小びんをあけると、ひとくち、ふたくち、と中身をたしかめながら飲みました。
「のこりはハーディンが飲んで」
「はい」
二人とも、薬を飲んでしばらくはなんともなかったのですが、巨人たちがいよいよちかづいてきて、ずん! ずん! と地ひびきほどに足音が大きくなってきた時、ふいに身体がかあっとあつくなりました。
「あ。きた……! なんかきた!」
「僕もです! なんだろう、これ、力がみなぎっている!」
なつきはたしめに、足もとの小さな石ころをひろって、ぐっとにぎりしめました。
すると! かたい石はいともあっさりくだけちり、砂になって指のあいだからさらさらとこぼれおちたではありませんか。
「いける。これなら……!」
と、大きな影がさしました。
ついに巨人たちが村へ入ってきたのです。
「女王様、いきますか?」
「まだよ。今はまだ、全員がかたまっている。だけど、あれこれさがすため、村へ入ったら、いったんちらばるはず。それをまつの」
ずん、ずん、と足音を立ててとおりすぎてゆく巨人たちを、なつきはぐっとにらみつけました。
巨人たちがとおりすぎると、なつきはそっとしずかに、つかずはなれずの間をたもって、家々のものかげづたいに後をつけました。ハーディンもその後につづきます。
皮ぼうしをかぶった一番大きな巨人が、村の広場にたっすると、「おや? 誰もいないようだな……」とつぶやきました。もっとも、つぶやくといっても、人間にくらべるとはるかに大きな声だったのですが。
「とにかく、食べものをさがせ」
皮ぼうしの巨人が手をふって命じました。ほかの巨人たちは「なにかあるといいんだが」などとつぶやきながら、村のあちこちへちらばってゆきます。
「よし、今よ」
なつきは皮ぼうしの巨人を見すえて、ぐっと拳をにぎりしめました。
「いえ、まってください。女王様、まずは――僕がいきます!」
なつきが止めるまもなくハーディンが飛び出し、あらんかぎりのいきおいで、皮ぼうしの巨人めがけて走り出しました。
「えっ?」
皮ぼうしの巨人はぎょっとしたようすでハーディンを見ました。というのも、ハーディンがあげた「僕がいきます!」の声は、巨人とおなじくらい大きな声だったのです。それもまた、魔法の薬の力によるものだったのでしょう。
「えーいっ!」
ハーディンはいなずまのようないきおいで巨人にせまりました。そうして、かけ声とともに、巨人の右の足首に飛びげりをくらわせました。
「うおっ!」
皮ぼうしの巨人は大きくよろめきました。そうです、今のハーディンには巨人とおなじくらい大きな力があるのです!
しかし、一番大きくて強そうな巨人だけのことはあります。皮ぼうしの巨人はよろめいて身体を泳がせたものの、なんとかたおれずにこらえる……かに見えました。
けれど、その時には、ハーディンにつづいて飛び出したなつきが、ものもいわずせまっていました。
「えーいっ!」
風のように巨人にせまったなつきは、巨人の左の足首に横から飛びげりをくらわせました。
「ああっ!」
つづけざまに足をけられた皮ぼうしの巨人はうろたえた声をあげ、今度こそ、どすんとあおむけにたおれました。
「みんな! 矢をあびせて!」
なつきは村じゅうにひびきわたるような、空気をびりびりとふるわせる大声で命じました。
「それっ!」
「このやろう、よくも!」
「いつもいつも、ブタやニワトリをもってゆきやがって!」
ゴダックが、アルダが、みんなが、かくれていたものかげから飛び出してきて、石をなげたり矢をいかけたり、皮ぼうしの巨人めがけてありったけの攻撃をあびせました。皮ぼうしの巨人はひどくおどろいたようで、ワアアア! ワアアア! とさけびながらめちゃくちゃに手をふりたくり、石や矢をはらいのけようとしました。
「うわっ、なんだ、あれは!」
「いかん、族長をたすけろ!」
すぐにほかの巨人たちは、このさわぎに気づきました。村じゅうにちらばっていたのが、あわてて広場へとかけもどってきます。ただし、足のみじかい彼らは走るのが苦手らしく、どこかもたもたした動きでした。
「ハーディン、いくよ! 今やったのとおなじように、巨人たちをころがすの!」
「はい!」
なつきとハーディンはだっと走りだし、広場に集まろうとする巨人たちにすばやくかけよっては、足首をねらってけりつけました。巨人たちはなつきがにらんだとおり、力もちだけれどすばやく動けないらしく、なつきとハーディンのけりをかわすことができません。いともかんたんに、ころころところがされて、ワアアア! とあわてふためいた声をあげました。
でも、なつきとハーディンの二人では、十人をこえる巨人たち全員を食い止めることはできません。何人かの巨人が、広場へ集まりつつありました。
しかし――。
「巨人どもめ! よくもこのオレにけがを負わせたな!」
なつきとハーディンのすることを見て、(あ。これって勝てそうなんじゃないか?)と思ったのか、バルダルフがなやのかげからすがたをあらわし、後足で立ち上がって、大きく息をすいこみました。
ただでさえ太りすぎのドラゴンのおなかは、それこそ風船のように大きくふくらみ、そして……。
ゴオッ、と音を立ててバルダルフの口からはきだされたはげしい炎が、広場にふみこもうとしていた巨人たちの目の前をよぎりました。
「ああっ! なんだあれは!」
「ドラゴン! ドラゴンだ!」
「うそだろう、なんでこんなところにドラゴンがいるんだ!」
巨人たちはいよいよ大あわてです。にげようとしてしりもちをついたり、こんぼうをなげすて両手をあげて『こうさんします』のポーズをとったり、強そうな見た目とはうらはらに、いともたやすくそうくずれとなりました。
「コラァー!」
なつきは、あいかわらずあおむけにたおれたままの皮ぼうしの巨人のもとにかけよると、胸にとびのって、大きな声をあびせました。
「あんたたち、なんだって緑の民の村をおそうのよ! めいわくでしょうが! この女王なつきが、そんなのゆるさないんだから!」
「そ……そうです! そうです! 僕たち緑の民はなにも悪いことなんかしていないのに、どうして僕たちの村をおそうんだよ! バカー!」
ふだんはおとなしいハーディンも、この巨人たちにはいいたいことがたくさんあるのでしょう、なつきと同じように巨人の胸にとびのり、大声であびせました。
その間も、バルダルフは「おおう! ひさしぶりに火をはいたが、楽しいな!」とじょうげきげんで炎をはきちらしています。ゴダックが、「うわあー! やみくもに火をはきちらすのはやめろー! 家に火がついているじゃないかー!」とさけび、数人の男が、火事になりつつある家の火を大いそぎでたたき消しています。
「まて! まってくれ! これは、その、わけがあるんだ! やめてくれ! 話を聞いてくれ!」
皮ぼうしの巨人はこんぼうを手ばなして、ひっしにいいました。隊長の巨人がこうさんしたのを見て、まだやりやこんぼうをもっていたほかの巨人たちも、それを手ばなします。
なつきは、バルダルフがうそをついた時のような、こわい目つきで皮ぼうしの巨人の顔をしばらくながめていましたが、ふっと肩の力をぬきました。
「バルダルフ! 火をはくのをやめなさい!」
大声で命じます。バルダルフは「はい、女王様」とすなおにしたがって、そばへやってきました。
「じゃあ、いちおう、そのわけってのを聞いてあげる。でも、ふざけたことをいったら、しょうちしないからね!」
なつきはそういって、皮ぼうしの巨人の胸からおりました。