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女王なつきとお城のタネ  作者: 吉村夜
3/10

女王なつきとお城のタネ 3章



 目をさまして………さあ……。

 どこか遠くから、そううながす声が聞こえてきます。

(あれ? (だれ)かあたしを呼んだ?)

 はっとして目をさましたなつきは、「えっ? あれっ?」とうろたえました。

 なつきは、ひろびろとした部屋につっ立っていました。(かべ)(ゆか)も白一色、大きな(まど)からはいっぱいに光がさしこんで、とても明るい部屋です。壁ぎわには、大きなタンス、本棚、(つぼ)などのほか、見たこともない植物がはえている大きな(はち)が数えきれないほどたくさん並んでいます。

 部屋の(ちゆう)(おう)には(てん)(がい)つきの大きなベッドがでんと置かれていて、ベッドの上には、つややかな(うす)(みどり)色の(きぬ)()()()を着た、美しい女の人が寝そべっていました。

 その人はなつきにむかってやさしくほほえみかけながら、手まねきしています。

(これって、夢……?)

 なつきはとまどいました。というのも、夢にしては、なにもかもがあまりにもはっきりしすぎているのです。

「あなたは、わたくしが用意した、()(ほう)の本を手にとった女の子ですね? おそれることはありません、さあ、わたくしのそばへ」

 なつきはちょっとためらったものの、手まねきされるまま、ベッドのそばへゆきました。

 女の人は、白い(はだ)、薄緑色の(かみ)、金色の(ひとみ)と、どう見ても日本人ではありませんでした。いいえ、こんな髪の色や目の色をした人は、なつきの住んでいる世界にはいないはずです。

「あのう、あなたは誰ですか? ここはどこですか?」

 なつきはきょろきょろと部屋を見回してから、女の人に()(せん)をもどしました。

()()(しよう)(かい)しましょう。わたくしの名はエルメディア。草木と水の(めぐ)みをつかさどる()(がみ)です。ここはわたくしのささやかな住まいです」

 女の人はとてもすんだ(ひび)きの声でそう名のりました。でも、あいかわらずベッドに身体(からだ)を横たえて起きあがろうとはしません。といって、なつきの見たところ、(びよう)()()()をしているようには見えませんでした。

「えーと、あたしはなつき……渡邊夏姫です」

「なつき。よい名前ですね。あなたは魔法の本である、『女王様になれる本』を手にとりましたね」

「えっ? はい。といっても、なにもかかれていない本でしたけど」

「そうでしょう。なぜならあの本には、あなたが女王としてつむぐ物語が、これから少しずつ記されてゆくのです。いつの日か物語が()わったなら、あの本の(しよ)(めい)は『女王様になれる本』から、『女王様になった本』へと変わることでしょう……」

「あのう、いっている()()がよくわからないんですけど」

「まあ、お聞きなさい。なつき、あなたは女王になりたいと、強く(ねが)っていますね?」

「はい」

「そういう女の子でなければ、そもそもあの魔法の本を手にとることはできないのです。わたくしが、あなたのその願いをかなえてあげましょう」

「ええっ! ほ、ほんとうに? ほんとうですか、それ! じゃ、願いをかなえてくださいっ! すぐに!」

 なつきがすごいいきおいでまくしたてると、女神エルメディアはおどろいた様子で目を(まる)くしました。

「落ちついて。いいですか、わたくしはとある世界の、草木と水の恵みをつかさどる女神です。その世界の(かた)(すみ)に、わたくしを信じて、あがめてくれる人たち……緑の(たみ)が住んでいます。わたくしはその人たちにもっとよい()らしをさせてあげたいのですが、わたくしは女神といっても、たいした力は持っていません」

「はあ」

「そこでわたくしは、彼らをみちびいて(しあわ)せにしてくれる、力強い女王をどこかからつれてこようと思いつきました。そこで、しりあいの神にたのんで魔法の本――『女王様になれる本』を作ってもらい、あなたをここに()びよせたのです」

「とにかく、あたしを女王にしてくれるんですね? あたし、女王様になれるんですね?」

「ええ。といっても、わたくしは大きな力を持っていませんので、あなたが女王となれるように、少しお手伝(てつだ)いをしてあげるだけです」

 エルメディアは大きな(まくら)の下に手をさしこんで、小さな(はこ)をとりだしました。

 (ほう)(せき)がはめこまれた、きらびやかな箱です。女神は箱のふたを外して、(なか)()をそっとつまみだしました。

「なんですか、それ。タネ?」

 なつきは目をしばたたきました。アーモンドみたいな形ですが、ふた回りくらい大きいタネです。

「この部屋には、たくさんの(はち)()えがあるでしょう? どれもこれも、わたくしがたいせつに育てている、とてもめずらしい、魔法の草木です。そしてこれは、そんな魔法の草木のひとつからとれた、(とく)(べつ)な力をもつタネ……お(しろ)のタネです。これを()(かい)()(つう)の土に植えると、お城が()えてきます」

 女神はとんでもないことをいいました。

「ええっ! お城、ですか」

「そうです。といっても、まずは()として小さなお城が生えてくるだけです」

「はあ」

「でもそのお城は、土や石や(てつ)などを食べて、どんどん大きくなります。生えてきたお城には口がありますから、あなたが食べさせてあげてください。ああ、これを注意しておかないと。(さい)(しよ)のうちは、赤ちゃんがミルクしか飲めないのと同じで、(すな)を水でねったやわらかい(どろ)でないと食べられないの。でも、お城が大きくなり、口も大きくなって()が生えたら、石や鉄のようなかたいものも食べられるようになります」

「うわー! じゃあ、大きなお城に育てれば、あたし、そのお城の(あるじ)、女王になれるってわけですね!」

 なつきは目をかがやかせました。わくわくが止まりません!

「ええ、そういうことです。大きなお城があれば女王としてかっこうがつくと思いますし、お城はがんじょうですから、緑の民がおそろしい生き物から身を(まも)るのにも(やく)()つことでしょう」

「そのタネ、くださいっ!」

「もちろん、わたくしはそのつもりです。だけど、なつき。このタネを、ただであげるわけにはいきません」

「ええ……。あたし小学生だし、お金はらえっていわれても、たいしてもってないですよ。まあ、お(とし)(だま)はほとんど(ちよ)(きん)しているから(ぎん)(こう)からおろせばあるていどはありますけど」

「お金などいりません。わたくしと(やく)(そく)してほしいのです。わたくしをあがめてくれる緑の民が、もっと()いくらしをできるように、力をつくすと……。みんなが心から(そん)(けい)し、たよりにする、そんな良い女王になると……」

「心配いりません! あたし、ハートの女王とか雪の女王とか、劇で悪い女王をたくさん演じてきましたけど、なりたいのは、みんなに()かれる良い女王ですから! まかせてくださいっ!」

 なつきは(むね)をはって、大きな声でいいはなちました。

「まあ! なんてたのもしい! では、なつき。あなたにこのお城のタネをさずけます。どうかあなたに、たくさんの(こう)(うん)があらんことを!」

 女神がお城のタネをさしだしたので、なつきはいっぱいの()(がお)になって()けとりました。

 すると、窓からさしこむ光がかがやきを()して、部屋は白く……白く……光にのみこまれるように白くそまってゆきました。



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