第5話
Side紅。
針の民はかく語る。
紅く悲しく恐ろしい、炎の魔女の物語。
たくさんのものがたり。
ほのおのまじょのものがたり。
『彩』では、国を救う英雄。
『針』では、全てを焼く魔物。
そのむかし。
さいのくににはまじょがいた。
まじょはすべてをにくんでた。
くにを、いくさを、たみさえも
だから、すべてをもやしてしまった。
くにも、へいきも、へいしたちも。
それは、かなしいまじょ。
それは、いくさのうんだぼうれい。
それは、ひげきのかたまり。
あかく、かなしく、うつくしいひのまもの。
そして、すべてをもやしたまじょは、
さいのくににいるという。
それは、ときにさえみはなされた、ひとでなきもの。
ほのおのまじょとよび、たみはおそれた。
ここはシオンの執務室。
もうすっかり風邪は治り、シオンは溜まった仕事の処理に、追われていた。
「針でのアンタの話は、多少の差はあるが、こんなもんか」
シオンは仕事の手を一瞬止め、チラッと私を見た。
「大体は合っていますよ」
こういった話は、一部が真実をはらむ。
彩の物語も『嘘』ではない。ある意味では本当だが『真実』ではない。
「…いつか、機会があったら語りましょう。『私』の物語を」
とびきりの笑顔をシオンに向けた。
「ああ、楽しみにしてる」
こちらは見ずに返事をするシオン。
もう体調は回復しており、見張る必要も無さそうだ。
仕事の邪魔になりそうなので、静かに執務室を後にした。
シオンの執務室をでて、することを考える。植物の世話をして、後はシオンが無理しないようストップをかけるぐらい。あまり、やることがない。
考えごとをしつつ歩いていたら、呼び止められた。
「こんにちは、クレナイさん」
「あら、ごきげんよう、エンジュさん」
にっこり笑って挨拶をする。
「ぶしつけで申し訳ないけど、ひとつお願いがあるんですよ」
「私に出来ることでしたら」
「他の国に行った時に、パーティーをしていただいたことがあるんですが、あれってどうやるんでしょう」
「は?」
どうすればと言われても…。必要な品、人数…規模によりけりだが…。
「つかぬことをうかがいますが、この国ってもしや…」
「いやー、お恥ずかしい。やったことないんです。人が集まるのは、研究発表ぐらいでして」
頭がくらくらしてきた。
「久々に教えがいのありそうな生徒ですこと。私でよければお教えします」
「いやぁ、あはは」
丁度、ヒマだし。
私は、エンジュさんを手伝うことにした。
しかし、問題は山のよう。
まず、食事。
誰を招待するのか知らないが、あのビスケットもどきはちょっと、いや、だいぶ微妙だ。
可能なら招待客の好みをリサーチしておきたいと言ったが、相手はおおらかなので、なんでも大丈夫と返答された。
それにしても、パーティーに水とビスケットもどきのみはちょっとと思う。
しかし、どうひいき目に見ても、この国でマトモに料理が出来るのは、私ぐらいだ。
パーティーならば、案内人や、セッティングも必要。
マナーレッスンだけでもどのくらいかかるのか。
しかもこの国に礼服があるのかすら疑わしい。不安は尽きない。
あれから、数日。
つまった。
服は、どうにかなりそう。
料理も、どうにかなりそう。
問題は、人だ。
招待客は少ないそうだが、ダンスも出来てフォーマルマナーがわかる人が少なすぎる。
私は最終手段をとることにした。