閑話
悲しいけれど、優しい約束。
今もなお、続いている。
朱里・朱花は、針の国を覆うドームの外にいた。2人の風の精霊を消耗させないためだ。
紅の精霊はかなり古く、強い精霊のため、長く力場から離れても問題ないが、朱里たちの精霊は、まだ年若く、長く力場から離れられない。常に自然の風を求める。
隣り合う、緑深い故郷の風を受けながら、朱花は朱里に話しかけた。
「ねぇ、朱里」
「…なに?朱花」
この双子には既に両親がいない。両親は落石事故で、子供を庇って死んだ。
死の間際に、双子は母と約束した。
『おねがい。このくにをたすけた、あのやさしいひとを、ひとりにしないで』
母も、その母から。恐らく、ずっと続けられてきた約束。
あの時は、わからなかった。
母の最期の願いに、うなずくだけで精一杯で。
でも、今ならわかる。
あの人は、ずっと独りだった。ずっと、人に囲まれていても、独り。
それは、どれほど辛いことか。
どれほど、悲しいのか。
仮面をつけ、心を閉ざして。
「幸せになるといいですわね、大おばあ様」
「…今、幸せだよって、きっと、笑う、よ」
「本当に、心からではないことぐらい、わかってますでしょ?」
「…幸せは、人、それぞれ、だよ。…でも、大ばあちゃんは…」
優しいから。
誰にも心配かけたくなくて、無理してる。ずっと見ていたから、皆わかってる。
けれど、誰も言えない。
『あなたは、ほんとうに、しあわせなのですか』と。
『誰にでも優しい人』は『特別な人がいない』ということだ。
茶希や白亜は特別だろうけど、それでも距離を置いている。けして、踏み入らせない部分がある。
ずっと、見ていたから知っている。
500年、繰り返された約束が、必要なくなればいいのに、という朱花の呟きは、風にとけた。