第4話
Side紅。
炎の魔女の昔話。
貴方は、とても似ている。
朱里・朱花に元気をもらって、気をとりなおして仕事をすることにした。
今の時間、どうせシオンは仕事をしているだろう。仕事着に着替え、シオンの部屋に向かう。
珍しく、人に会った。確か、シオンのヒショさん。文官みたいなものだ。
この国では、人に会うことはあまりない。人はこんぴゅーたーだけでは管理出来ない部分や、外交などの仕事をしている。
直接会わなくても、連絡はめーるとやらがあるし、外にでなくても困らないらしい。
…国民のほとんどが引きこもり…
うっかり失礼な事を考えてしまった。
「こんにちは、お嬢さん」
ヒショさん、エンジュていう、眼鏡のヒョロッとした人は、愛想よく笑った。
彼はもともと外交官であったという。シオンとは悪友で、よく悪さをしたと話してくれた。
彼は言う。この国は、病んでいると。他国を巡り、そう思ったと。
「ごきげんよう、エンジュさん」
スカートをつまみ、礼をとる。
「シオンの部屋の花は、あなたが?」
「ええ。よければ、エンジュさんにもあげますよ。ついでに世話のしかたも、お教えします。興味があるのですか?」
「今度、ぜひともお願いするよ」
手を振って、シオンの執務室前で別れた。彼は、この国ではとても変わった人だ。
他国に外交官として、渡っていたせいか、とても感情がわかる。
私が知る限り、シオンとエンジュさん以外の針の民は表情が乏しく、黙々と仕事をこなしつづける。まるで、カラクリのように。
私も、この国はおかしいと思う。
ゴッ!
エンジュさんをぼーっと見送っていたら、ドアが開き、ぶつかった。
「…お?大丈夫か、チビ。や、悪ぃ」
あまりの痛さに返答できず、うずくまる私。
「どれ、見せろ。コブにはなってねぇな。悪かった」
グシャグシャと私の頭を撫でる。撫でられるのは嫌いじゃないが、ちょっと痛い。
シオンはわかりにくいが、優しい。さっき急に部屋に戻ったことを、聞かないでくれる。
ふと、気づく。触れる手は、異常に熱い。
「さて、仕事っと」
何事もなかったかのように、仕事をしようとするシオン。
よく見ると、しんどそうだ。
「…シオン様?」
にっこりと、私は微笑む。いつか王にも見せた、威圧を込めた笑顔。
シオンの部屋は、机とこんぴゅーたーとベット、そして私が持ってきた植物しかない。
私の迫力に圧されてか、シオンは壁によりかかる。
「なんだ?クレナイ。そんな怖い顔すんなよ。俺は仕事があるんだって」
「…シオン様?」
「や、俺、なんともねぇって」
「シ・オ・ン様?…熱は?」
「‥‥‥‥38.9」
無理矢理ベットに押し込んだ。シオンは熱でへろへろで、私の力でもあっさりベットに倒れた。
「シオン様、絶対安静です。こじらせて、死ぬことだってあるんです。おとなしーく寝てれば治ります。今日は仕事は却下です」
「いや、少しぐれぇ…」
「ダメです」
「大事な…」
「ダメです」
「‥‥‥。」
「ダメと言ったら、ダメです」
「…まだ何も言ってねぇぞ」
「目で『やることが溜まってんだよ』と言っていました」
「ちっ、仕方ねぇな。寝てやるよ」
自分で布団をかぶってくれた。
放っておいたら、この人はまた仕事をする。
「少し貴方が眠るまで、物語でも話しましょうか」
眠るまで、ついていた方が確実と判断し、そう提案した。
意外にも、シオンは楽しそうに同意した。
「あ、ならアンタの話がいい。俺なりに炎の魔女の伝説を調べたが、国によって内容が違う。彩では、英雄。鋼では、悪女。針をはじめ、他国では魔物。悪女とか魔物ってイメージじゃねぇし」
「…私はひどい女ですよ。悪女で魔物なの。きっと、地獄に堕ちるわ。私が魔女になったのは、憎かったから」
「…何が?」
「全てよ。この世の全て。燃やしてしまおうと思ったの。全部」
それ以上、シオンは何も聞かなかった。
遠い、幸せだった日々。もうあの日に、帰れはしない。願っても、望んでも、泣いても、叫んでも。
二度と戻ることはない、愛しい日々。今更、幸せになんてなれはしない。
「…楽しい、話じゃないの」
でも、不思議。何故かしら。彩にいる時よりも、思い出す。
誰にも話さなかった、話せなかった事まで語ってしまいそうになる。いつもなら、笑っておしまいなのに。
いつの間にか、シオンは眠っていた。ここ数日、ロクに睡眠をとっていなかったとみた。
熱もあることだし、と氷をもらって冷やすことにした。氷水に浸したタオルを額にのせる。…少し、楽そうだ。
昔はよく、朱蓮を看病していたから、病人の扱いは慣れている。
そういえば、茶希も昔はよく熱をだしたものだ。今は丈夫になったけど。
静かな寝息。 穏やかな時間。
いつしか私も、眠りに堕ちていった。
夢を、見ていた。
泣きたくなるほど幸せな、過去の夢ではなくて、でも死ぬほど見たいと思っていた夢。
1人ぼっちの白い世界。
誰かが私を呼んでいた。
すぐにわかった。
会いたかった。
力一杯抱きしめた。
会いたかったと何度も叫んだ。
優しく私の涙を拭い、その人は優しく笑った。
『ぼくはまえのぼくじゃないけど、もうすぐきみにあえる。』
あの、よく見知った笑顔。
『またあおう、くれない』
もっと話していたいのに、私は白にのまれていった。
目が覚めたら、黒かった。視界が黒い。
自分の現在の状況を確認する。いつの間にか、布団がかかって横になっていた。
そして、隣にはシオン。
誰がやったか知らないが、移動させられたのだろう。
「泣いてんのか?」
起こしてしまっただろうか。スッと涙を拭うシオン。夢の中のあの人にそっくりのしぐさ。
私が彩を出てから、以前より500年前の事を思い出すようになり、こんなにも涙があふれる理由が1つだけわかった。
この人は、似ている。
あの人に、似ている。
声も、髪も、性格も違うけれど、その身に纏う空気が、匂いが、しぐさが、とても似ている。
なつかしい。
いとしい。
さびしい。
「とても懐かしくて、優しい夢をみたの」
笑ってみせたけど、抱きしめられた。強がっても、あの人にも通用しなかった。
「ちっと、泣けや。泣きたい時に泣くのはいい事らしいぜ」
慰めなのか素なのか、よくわからなかったけど、少し笑って、私は甘えることにした。
そして、また眠りについた。今度は、夢は見なかった。
シオンの風邪は、1日ぐらいではよくならなかった。
「…39度」
さすがにぐったりして、苦しそうだ。
「食事、食べられるかしら…」
昨日はまだ38度だったから、なんとか食べていたが少量だったし、できることならしっかり食べさせたい。栄養は大切だ。
「シオン?」
「むー?」
「ゴハン…」
「いらね」
…やっぱり。食べやすいように雑炊にしたんだけど…どうしようかな。
「あ、食べさせてくれるんなら、食ってもいいぜ」
ニッと笑ってみせる。まだ冗談を言う余裕はあるようだ。
たくさんの子供を育てたから、わかる。これは、悪戯を思いついた子供の目。
ふっ、500年生きてきた私に、この程度のこと…。
「はい、アーン」
シオンは固まった。
…10秒。
……20秒。
………30秒。
…………………。
「自分で、食う」
何が気に入らなかったのか、モソモソ食べ始めるシオン。…顔が赤い?耳も、ちょっと…。
「…照れた?」
自分でも、まっさかなーとは思った。が、
ゴブッ!ウゴッフ!!
ゲッフ!ゴホゴホゴホ!
盛大にムセた…タイミングが悪かったらしい。
落ち着いてから、シオンは言った。
「俺様のDNAが、何かソレはダメだと言ったんだ」
でおきしりぼかくさんて…顔が更に赤いし。
とりあえず、ご飯を食べてほしかったので、それ以上はつっこまなかった。
結局完治まで、この後3日かかった。