第3話
Side紅。
過去との邂逅。
忘れた筈の、過去。
色々あったが私、紅=ランフォードはシオンの教育係になった。
彼の生活は、凄かった。なにせ、1日のスケジュールが、こんな感じ。
6時・起床。仕事。
8時・朝食(酒のみ)
9時・仕事。
16時・夕食(?)ビスケットと酒と煙草。
25時・就寝
どう見ても、体を壊す。せめて食事はきちんと摂るよう促し、仕事も簡単な物は手伝った。
シオンの執務室は殺風景だったから、毎日花を飾り、観葉植物の鉢植えを置いた。
「置いて、何か変わるのか?」
シオンは鉢植えを置くことに反対しなかったが、不思議そうだった。私はシオンに笑いかける。
「癒されるんですよ。心が。森林浴効果という奴です」
ふぅん、とシオンは適当に返事をした。
そんな感じで、穏やかに時間は過ぎていく。
少しずつ、変化は訪れる。彼にも、私自身にも。
最近はシオンも、私達と一緒に食事を摂るようになった。
「うまい」
珍しいセリフにびっくりした。
「…ありがとう、と言うべきかしら」
「この場合は俺が言うべきな気がするが?…変な感じだ」
「何がですの?今更ではありませんこと?食べても食べても、人参が減らないとかですかしら」
ビクッと朱里が動く。
朱花はクスクス笑っている。
…私にも、大体なんでかわかった。鍋を持ってきて、朱里の皿に人参を入れる。
「好き嫌いは、許しません」
「朱花…ヒドイ…ニンジン…キライ…」
小さな子供のように、困った顔の朱里。
「ズルをしたなら、ペナルティは当然よね。1週間人参尽くしと今食べるの、どっち?」
覚悟を決めて、人参を食べ始める朱里。
楽しそうな朱花。
考えこんだようなシオン。
「…人参じゃなかったの?」
考えに没頭していたらしく、話しかけたらシオンはビクッとなった。
「違う。なんつーか、こう、前にも同じような事があった、ような」
「…懐かしい?」
「!そう!!それだ!!」
嬉しそうなシオン。
でも、わかっているのだろうか。この国では、子供はほとんどがガッコウとやらで過ごす。食事はあのビスケット。
『懐かしい』なんてあり得るのだろうか。
ふと、昔の光景が浮かぶ。
青銀の少年。ゆるいウェーブ。後ろの髪が、長くて。
私と、双子の妹・朱蓮そして、少年。
3人でごはんを食べた。そう、今みたいに。
『うーっ、ニンジンキライ!』
そういえば、朱蓮も人参嫌いだった。
『ダメよ、食べなきゃ!』
そういえば、朱蓮もよく他人の皿にこっそり人参を入れていた。
叱る私を見て、少年が笑っている。
―― カレノ、ナマエハ ――
「クレナイ?」
一瞬で、現実に引き戻される。
「…なんでもない」
身を翻し、自分の部屋に入る。いつの間にか、泣いていた。
「どうして、今さら…」
答えてくれる人は、誰もいなかった。
数分後、紅の部屋。殺風景だった、この客室は今は私が育てた鉢植えやら、ポプリや刺繍が飾ってあり、過ごしやすくなっている。
「大丈夫ですの?大おばあ様」
朱里・朱花が心配してわざわざ部屋まで来てくれた。
「…便秘?…食べ過ぎ?」
ドスッ!バキッ!
ゴベッ!!
「わぁお。すごーい。ワンツーパンチに、踵落とし」
あまりにもキレイに決まったものだから、思わず拍手しちゃう私。
「元気、でた?」
朱里と朱花は、優しい目で私を見つめていた。
「朱里、朱花。ちょっとここに座って」
私がベットを指差すと、2人は顔を見合わせ、ちょこんと座った。
がしっと2人を抱きしめ、笑った。
「ありがとう。元気よ」
優しい子供達に不安を見せてはいけないと、私は笑った。