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第19話

 Side紅。


 炎の魔女の昔話。

 今はもう誰も知らない昔話。 


 私は、ランフォード家の長女として生まれた。双子の妹がいて、名前を朱蓮という。容姿はそっくりだが私と違い、おっとりしている。性格は朱里に似ているかもしれない。


 ランフォード家は彩でも特殊な家系で、強い精霊の契約者を多く輩出していた。私も、その1人。


 私は森のオジジ様と呼ばれる、彩で最も古い大樹の精霊の契約者だった。私は、オジジ様を自分の祖父の様に思っていた。そして、オジジ様の契約者であるが故に王子・紫苑の遊び相手として城に預けられた。


 いつからかは、わからない。いつの間にか、自然に恋をした。紫苑は賢く、寂しい人だったから、支えてあげたいと思った。


 よく城を抜け出して、私が見つけると嬉しそうに笑った。勉強が好きで、難しい本を沢山読んでいた。この国の民が幸せに生きられるようにどうしたらいいかを語り合った。


 大切な、人だった。


 悲しいなら共に泣こう。

 寂しいなら寄り添おう。

 苦しいなら抱き締めよう。


 別に恋人でなくてもいい。彼が、幸せに微笑んでくれるなら、私はなんだってよかった。自然に、距離は近づいて行った。

 紫苑がいれば、私に怖いものなど無かった。夢みたいに幸せだった。


 雪白がいて、朱蓮がいて、紫苑がいて。私は、本当に幸せだった。



 あの日、あの時までは。




 あの日、紫苑が私を呼び出した。1人であの花畑に来て欲しいと。誰にも内緒で来て欲しいと言われ、紫苑の言う通りにした。


 私はドキドキしながら紅い花畑に向かった。

 紫苑が品種改良した、紅い花達。私と同じ名前の花。


 紅い花畑の中心で、紫苑が柔らかく微笑する。城では気をはっているから見せない、彼の本来の笑顔。私が一番好きだった表情。

 そして、彼は言った。


「紅、僕は君が好きだ。后になってくれないか」


 幸せだった。これ以上はきっと無いほどに。幸せで涙を流した。返事をしようと紫苑に笑いかけた。


 次の瞬間、爆発がおきた。


 運が無かったとしか言い様がない。


 あの夜でなければ、きっと紫苑は死なずに済んだ。

 私が誰か護衛を呼んでいたら、助かったかもしれない。せめて、1人で来なければ。


 私に斬りかかる、知らない大人。パニックを起こしていたから、逃げることもできずにいた。


 紫苑が私を突飛ばし、倒れかけながら、私は見た。


 紫苑の胸から、剣が生えていた。


 あかい、ちが、あたたかく、わたしをぬらした。


 紫苑は咄嗟に自分の雷精を喚び、雷を落としたのだろう。


 後には、あかに染まった紫苑と、黒焦げになった、人だったモノが残った。


 紫苑に触れる。まだ、暖かかったが、少しずつ冷たくなっていく。

 それが、どうしようもなく恐ろしかった。


 私は、この時にはもうきっと正気じゃ無かった。


 オジジ様は治癒能力を持っていて、オジジ様に頼んだけど、オジジ様も消えた生命までは取り戻せない。




 私は、絶望した。




 そして、復讐を決意した。


 赦さない。

 殺してやる。

 いや、殺すだけでは気が済まない。


 紫苑が死ななければならなかった元凶を探しだし、死ぬより辛い目にあわせてやる。そう、心に決めた。


 雪白が走ってきた。紫苑を抱きしめ、必死に呼びかける。


 私は、2人に背を向けた。









 もう、戻れないと思った。









 復讐するには、力が必要だった。だから、私は彩の聖域、最強の精霊の力を求めた。


 紅蓮とは、友だちだった。紫苑がこっそりここに私を連れてきた。

 紫苑も、紅蓮と友だちだった。話しているだけで、重圧がかかり疲れる相手だったが、そんなこと嫌う理由にならないわと私が告げると紅蓮は嬉しそうに笑った。


 私は、大切な友人すら利用した。


 紅蓮を睨むように見据え、私は言った。


「紅蓮、私と契約してちょうだい」


 紅蓮の瞳が見開かれた。


「は?」


 紅蓮が聖域にいるのには理由がある。悪用されれば、全てを滅ぼしかねないからだ。紅蓮は実は、この大陸全土をテリトリーとしている。彼が本気になれば彩どころか、全てが焦土と化すだろう。


 私は、彼を悪用しに来た。彼の力で復讐しようとした。震える声で、紅蓮に紫苑の身に起きた出来事を語った。


「無理だ。大体お前、女の身で復讐なんてしても良いことなんか無いぜ」


「女で無ければいいの?」


 私はためらわなかった。持っていたナイフで、髪を切り落とした。


 ずっと伸ばしていた髪。紫苑が、綺麗だって言ってくれたから。


 でも、もういらない。無意味だ。


 腰に届くほど長かった髪は、今みたいに短くなった。


「まだ、足りない?」


 呆然とする紅蓮に、私は微笑した。


「わかった、オレの敗けだ」


 紅蓮は私の本気を悟った。紅蓮が断れば、私は自分を傷つけるつもりだった。

 友人の優しさすらも利用して、無理矢理私は紅蓮の契約者になった。


 その時初めて、私はオジジ様の契約者でなくなっていたことに気付いた。

 本当は、私の胸には、オジジ様の契約印があったのだ。怒りで狂った私を見限ったのだろうと思った。


 ほんの少し、心が軋んだけど、紫苑を失った痛みが大きすぎて気にならなかった。




 紫苑を失って、私の心は荒れ狂った。胸を掻きむしり、割いて苦しい思いを引きずり出してしまいたいほどに。



 知らなかった。

 こんなにも、自分の中で紫苑の存在が大きくなっていたなんて。


 苦しかった。

 紫苑が、どこを探してもいないという現実が。


 重かった。

 紫苑が、私を庇って死んだという事実が。


 悲しかった。

 もう、想いを伝えることすら出来なくて。


 伸ばしていた髪も、もう要らない。

 綺麗だと言ってくれた紫苑はもういない。


 雪白と、朱蓮の元には戻れない。

 私は紫苑を守れなかった。合わせる顔などない。


 この国にもいられない。

 この国の全てが、紫苑を思い出させるから。


 

 私は、自分が紫苑と死んだのだと思うことにした。そう思わないと辛すぎた。




 そして、私は魔女になった。




 紫苑の仇を探すため。


 紫苑を奪った戦争を消すために。







 彩を出ようとしたときに、けやきの精霊・翠が私達の前に現れた。


「紅様…どちらに行かれるおつもりですか」


 私は答えなかった。いや、答えられなかった。あの時、一体どこの国の兵士が紫苑を殺したのかわからなかったから。私は、彩と敵対する国を片っ端から滅ぼすつもりだった。


「翠は、お祖父様から頼まれました。紅様の精霊になります。オジジ様は、多分…亡くなられました」


 ドキリとした。


 精霊は永い時を生きる。しかし、永遠ではない。精霊にも、死は存在する。


 特に、オジジ様や翠の様に木等、生きたものが媒介の精霊は本体の消滅と共に死ぬ。他にも条件次第で、いわゆる死が訪れることはある。

 オジジ様は彩の建国以前から存在する大樹の精霊であり…大樹が枯れかけていたために、穏やかに死を待っていた。

 もしかしたら、私が紫苑の治癒を願ったために、死期が早まったのかもしれない。


 私は、翠に何も言わなかった。答えられなかった。何故オジジ様が自分を翠に頼んだかも、考えないことにした。

 翠を拒否することもしなかった。



 こうして、私は2人の精霊の契約者となり、彩を出た。









 それから、私は自分に襲いかかる兵士を焼いた。


 焼いて、焼いて、焼いて、焼いて、焼いた。


 やがて、後には何も残さないように焼くコツをつかんだ。

 どの程度の温度なら、矢も槍も届く前に燃え尽きるかがわかった。


 直接国王の元まで赴き、恐怖を植え付けた。圧倒的な力を持つ、武器の効かない化物に、どの国の王も恐怖した。


 殺すことばかり、屈服させることばかりが巧くなった。


 復讐の日々で、私はしたい事をしているはずなのに、心が晴れることはなかった。虚しさばかりが募る日々。


 どのくらいの国を滅ぼしただろう。


 やっと、あの夜の襲撃が綱の策略であったことがわかった。 


 綱の同盟国だったとある小国の王からの情報。


 私は、綱に向かうことにした。情報が本当か嘘かもどうでもよかった。





 綱に向かう途中、少年が私に石を投げた。石は私の熱で一瞬にして蒸発した。


 少年は、恐怖の表情を見せたが、何度も石を投げつけた。


「この、人殺し!父ちゃんを返せ!」


 私は、少年を見つめた。紅蓮が止めるのも聞かず、紅蓮の力を使うのをやめた。

 当然、石は当たり、血が流れた。


「なんで?」


 少年は驚いた表情になった。


「ごめんね。お父さんは返せない。私を殺したいなら、殺していいよ。君には、その権利がある」


 少年の手を、自分の首にかけた。少年の手は、震えていた。

 私は、もう生きることに疲れていた。復讐なんて無意味だと、冷めた心でも痛感していた。


 だから、もういいと思った。


 この少年の気が済むなら、殺されてもいいと思った。


「…お前、なんでこんなことしたんだよ…なんで、抵抗しないんだ!」


 少年は、泣いていた。首を絞めていた手は、力なく離れた。


 私は、少年に全て話した。少年は、泣いていた。


「お前だけが悪いわけじゃ、ないんだな…お前、いつまでこんなことする気だ?」


「これで、最後」


 私は綱を滅ぼしたら、終わりにするつもりだった。やっと復讐の相手を見つけたから。


「復讐なんかして、お前の心は晴れるのか?」


 少年の言葉に、私は素直に答えた。


「わからない」


 少年は、結局私を殺さなかった。復讐しても、悲しみは癒えないからと私に語った。


 そして、少年と別れ私は綱に向かった。


 私は、あの少年が羨ましかったかもしれない。彼は、殺さなくても、許せる強さを持っていた。





 綱に行くまでの顛末を語り終えると、静かに聞いていたシオンは初めて口を開いた。


「その石投げた奴がいた国は、碧か?」


 私は記憶の糸を必死にたぐり、思いだそうとした。



「多分…会ったのは碧の領土内だったと思うわ」


「どうりで」


「……?」


 私はわけがわからないが、シオンは納得したらしい。私の様子を見て、説明してくれた。


「碧だけ、炎の魔女の伝承に明らかな違いがあるんだよ。恐ろしい化物と記す他国に対し、碧だけは悲しい娘だと統一されてる。妙だと思ったんだ。まぁ、今の話の奴がどう関係してるかはわからんが」


 あの少年はどんな大人になっただろう。


 怒りに、復讐に囚われず、前を向いて歩いていった彼は、私よりよほど素晴らしい人になったに違いない。


「きっとすごく偉いひとになったんじゃないかしら」


「かもな」


 私はシオンと穏やかに笑いあった。

 昔の話を、こんなに和やかに語れるなんて、思わなかった。


 そして、私はさらに語ろうとした。その後の私の物語。


 綱の悪女の物語を。



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