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第17話

Side紅。




 軍事大国・綱。


 近い過去、遠い過去…運命の歯車は、回り出す。

 軍事大国・綱。

 周囲を山に囲まれた天然の要塞である。国土は平地で、周囲は城壁でぐるりと囲まれている。城壁の内部は畑が広がり、中心である都市部はまるで網目のように規則正しく建物が並ぶ。

 獅子王・ロディリオスの子孫に統治された国。


 到着した私達は、すぐさま謁見室に通された。

 私の記憶の中と変わらない風景。むしろ、変わらなすぎて驚いた。意図的に変えていないのだろうかと思うほど、彩と違いほとんど装飾などない、簡素な謁見室。


「遠路はるばるよく来たな。針の国王に、炎の魔女よ。久方ぶりの家はどうだ?義母上?」


 皮肉たっぷりに、からかうように、赤いマントとコートの小柄な青年が現れた。ドキリとするほどに、その傲慢な笑顔は似ていた。


「ロディリオス…」


 生きている筈はない。この手で一瞬にして灰にした。目の前にある、よく似た金の瞳も髪も。一つ残らず灰にした。


「残念だが、余の名前はロディウスだ。ふむ。そんなに余は獅子王に似ているかい?お前に骨抜きにされた王に」


「そんな事より、俺に用事があったんだろう。コイツはただの…」


 私を庇うようにシオンが前に出て、途中で目を見開き驚いた様子になった。目の前の綱王も少なからず驚いた様子だ。


「ふふっ、ハハハハ!傑作だ。まさか、お前が王だとは!殺し損ねて残念だった!」


「あの時は王じゃねぇよ。皮肉なことに、あの時の成果が認められたから、俺は王になった。ここと違って針は世襲じゃねぇ」


「ふぅん、そうか。まぁいい。話をするとしようか…。炎の魔女、お前は自分の部屋に行け。他は客室を用意するからそちらに。邪魔だ」


「まだ、残っているの?」


 私がこの国に居たのは500年も前なのに。


「ああ、獅子王の遺言でな。ついでに庭園も残っている。管理が面倒なんだがね。いい迷惑だ」


 忌々しそうにロディウスは告げた。私は彼に逆らえず、またいきなり暗殺することは無いと判断して、何か言いたそうな白亜を引っ張りながら謁見室を後にした。


 ロディウスは、とても似ていた。片目を髪で隠していたが、あの金の瞳が、傲慢な表情が、私にはっきりと彼を思い出させた。

 ロディリオス。憎むべき、可哀想なひと。誰より強く、誰より独りぼっちだったひと。

 少しだけ、後悔している。今の私だったら、きっともう少しマシな言葉をあげられただろうから。


 城の兵士の案内で、庭園に通された。記憶と変わらず、誰も入れないように、まるで鳥籠のようにグルリと柵が張り巡らされている。


 扉を開くと、全く変わらない風景がそこにあった。私の部屋も全く変わらない。まるで迷い込んだみたいだ。


 紫苑が死んで、心を無くした頃に。


 今は、この風景を美しいと思う。ロディウスの言葉も頷ける。世界中の花が咲き誇っている。城内でありながら、池や川まで作られている。私はそれほど彩以外の国の花に詳しくないが、栽培が難しい筈のものまである。管理だけでかなりの費用がかかるだろう。


 兵士は、この庭園の中に入れるのは、私だけだとのことで、白亜達は別室に連れて行った。


 ロディウスや庭園に気をとられていた私は、この時は気づけなかった。



 茶希が、青ざめ震えていたことに。彼が大きな不安を抱えていたことに。






 庭園の中心部に、私の部屋はあった。ここは王の後宮の中心でもある。綺麗なもので囲まれた、美しい部屋。調度品1つ取っても、売れば数年は食べていけるほど。

 クローゼットの中には豪華な衣装。ベッド等に使われている布は全て絹。


 私がいなかったにもかかわらず、部屋は500年前と変わらぬ姿を保っていた。




 ここにいるとき、私は泣くことすら出来なかった。心が麻痺していたから。いや、麻痺させるしか、もう私が正気を保つ術はなかった。それほどに紫苑の死は衝撃的で、今でも私は後悔している。死ぬべきは、自分だったと。

 紫苑は私を庇い、剣で貫かれた。即死だった。あっけなく、彼の命は消えた。私の、目の前で。

 忘れようもない。腕のなかで冷たくなっていく、命が消えていくあの感触。


 紫苑が死んで、私は魔女になった。他国の炎の魔女の物語は、私の罪の証。彼を奪った戦争を憎み、他国を焼き払った。

 向かってくる兵士を、武器を、城を。ただひたすらに、怒りのままに、己の不甲斐なさを呪いながら、焼いて、焼いて、焼き尽くして、私は最後に綱に辿り着いた。


 綱は当時最も強い国であり、私の力をもってしても1人では難しいと思った。それでも、紫苑を刺したのは綱の兵士だったから、私は綱の王を憎んでいた。


 憎悪と怒りのみを残し、麻痺しながらも心のどこかでそれは八つ当たりだと理解している自分がいた。

 そして、私は死に場所をきっと求めていた。誰も私を殺せなかったけれど。



 嫌でも思い出してしまう。500年前のこと。この風景が、全く変わっていないから。


 あの頃とは違い、心が軋む。本当はもっといい方法があったのだって、もう時は戻らないのに思ってしまう。


 きっと沢山の人を傷つけた。命を奪うだけでなく。私は、覚えている。


 自分は、罪人だと。

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