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第2話

Side紅。


 針国王と魔女、出会う。


 それは、運命か。

 それとも偶然か。

 物語は動き出す。

 予め、話は通されていたため、あっさり入国を許された。国の中は、常に適温に保たれているという。

 入国前に少し血を採られた。細菌を国内に持ち込まないため、らしい。

まぁ、風土病とかあるから、理由としては納得できる。


 そしてあっさり針の王のもとに通される。こんなに上手くいくなんて思ってなかったから、少し拍子抜けした、が。

 相手はやはり一筋縄ではいかないようだった。

 直接は会わせてもらえず『てれびじょん』という物に、王の姿が写し出された。顔も仮面で隠されていた。暗殺の恐れもあるからだという。

 私達の当面の世話は、シオンという態度のデカイ青年がすることになった。黒髪、黒い瞳はこの国ではありふれたものだという。色つき眼鏡をかけていた。


「王から頼まれた。アンタ達、何か希望は?」


 朱里・朱花がじっと私を見る。2人は私の護衛として来ている。『大ばあちゃんに任せる』と言いたいのだろう。


 スッと、一歩前に出て、シオンを真っ直ぐ見つめる。


「私は、姫様の教育係です。この国の、王を見に来ました」


「そうかい、子供なのにご苦労なことで」


 馬鹿にしているような、そうでもないような。シオンは感情が読みにくい人だった。情報が引き出しにくい相手なら、引き出さなければいい。


 直球で勝負する。


私はにっこり微笑んだ。


「ですから、お会いするまで帰れませんの。あんな影では、会った事にはなりませんわ。これからよろしくお願いします」


 手を差し出す。シオンは面喰らったようだった。楽しそうに笑いながら、私の頭をグシャグシャにする。


「いい根性だな、チビ。名前は?」


「紅。紅=ランフォードですわ。こちらの2人は、右が朱花=ランフォード。左が朱里=ランフォード」


「ふーん、クレナイ、ね。あんたら、兄弟か何かか?」


「朱里と朱花は双子で、私は2人の遠縁です」


「これからよろしくな。クレナイ」


 今度こそ握手した。

 こうして、私の針の国での生活がスタートした。


 この国に来て、大変どうにかしてほしい事が、1日目にして見つかった。


 『食事』である。


 信じられない。こんな物で、この国の民は平気なのだろうか。ビスケットのような物を一箱と水。毎日この食事であるという。味は色々あるらしいが…

 2~3日ならまだいい。けど、コレが毎日だなんてめまいがしてくる。

 3日目で耐えられなくなり、姫様だってこれではまいってしまうから、と言い訳して、台所を作ってもらった。とりあえず、火が使えれば、なんとかなる。

 食材は、原材料を(どうやってるかはわからないが、栽培した野菜から栄養分だけとっているらしく、肉・野菜はちゃんとあるらしい)分けてもらった。包丁はなくても、風の精霊がいるから、カマイタチで切れるし。

 最初のうちは、焼いた石を鉄板がわりに簡単なものを作っていたが、図面を書いたらシオンが包丁も鍋もオタマも泡立て器も持ってきてくれた。さすが、針。この程度のものはすぐに作れるらしい。

 針は、金属の加工については、他国よりずば抜けて優れている。


 部屋を自動で掃除してくれるカラクリなんて、どうやって動いているのかさっぱりわからない。

 今はもう慣れたけど、最初は勝手に開くドアにもびっくりした。茶希がいる研究所にもいくつかあるが、この国では、全てのドアが自動だ。入れない所もあるけれど。かーどきーとあいでぃーという物が必要らしい。

 一度説明してもらったけど、よくわからなかった。



 針に来て、1週間が過ぎた。

まだ王には会えない。


 変わった事といえば、ここに来て、私が料理のカンを取り戻したこと。

 最近は料理上手な息子が作ってくれていたから、腕が鈍った事すら気付いてなかった。


 ちなみに双子は料理は全く出来ない。努力してどうにかなるようなレベルですらない(以前に、玉子焼き作ろうとして、台所を爆破したため、料理禁止令が出ている)

 故に2人は食べる専門となっている。


 また、この国について解ったこと。

 この国は精霊がいない分、カガクが発達しており、殆どがキカイに管理されている、らしい。


 彩は、精霊と共存するために、テリトリーをはっきり分け、暮らしている。

 彩にあるキカイは、せいぜい勝手にあくドアと、こんぴゅーたーぐらい。しかもそれらは研究所にしかない物で、一般人には無縁である。

私もこんなにたくさんのキカイを初めてみた。

 金属の加工は、鍛冶屋がするものだが、この国ではそれすらキカイがするらしい。


 魔法を使ったかのような、不思議な国。

 彼らから見たら、私達の方が不思議なのだろうけど。


 針に来てから、色々観察していたが、この国で外を歩いている人はほとんどいない。

 シオンによると、書類自体もなく、こんぴゅーたーにでーたをかきこんでめーるするから、外にいるのは変わり者、らしい。

 こんぴゅーたー自体、初めてみたのだか、なんか不思議な箱だった。そして、説明してもらったが、やっぱりよくわからなかった。

 人はこんぴゅーたーを管理するのが仕事で、人口も管理されており、もともと人も少ないらしい。

 出産もなく、人はジンコウシキュウである程度まで育てられ、こんぴゅーたーに教育される。


 いまいち、ジンコウシキュウという物がよく分からず、素直にそう言ったら見せてくれた。

 ぷらんとには、動物が瓶詰めみたいになって浮いていた。

 最深部に、ソレはあった。


 まるで、ヒトの標本。


 瓶の中は液体で満たされ、中には小さな赤子。

 気付いたら、私は泣いていた。何故かは、解らない。


「怖いのか?」


 シオンの言葉に、首を振る。

 でも、もしかしたらそうだったのかもしれない。痛くないのはいい事だけど、あまりにそれは『不自然』だったから。

瓶に触れてみた。冷たい。


「寂しく、ないの?シオンは、寂しくない?」


 こんな冷たい瓶がお母さんで。まるでモノみたいに生まれて。

 この国の人には当然の事だから、失礼かもしれない私の言葉に、シオンはニッと笑って答えた。


「わからん。生まれてから、自分の能力を示せなきゃ、無能とみなされ処分される。サビシイってのは、確か1人でいるのが悲しいって事だろ?この国では、1人が当然だ。それぞれが、与えられた役目を果たす。毎日、暇で仕方ない。…ま、お前らのおかげで、俺は多少忙しいけどな」


 その笑みは、少し寂しそうな気がした。


『本当に、それでいいの?』


 言葉は、声にならずに消えた。


「うりゃ!」


「うにゃっ!?」


 あれから無言でずっと冷たい瓶を見つめていた私を、いきなりシオンが抱き上げた。


「いつまでも、ウジウジ泣いてんじゃねぇよ。オラ!とっとと出るぞ!!」


「おおおおおろしてくださっいっ!」


「舌噛むぞ、チビ」


 彼は私を抱えて歩き始める。いくら暴れても無駄だった。

 こんな風に子供扱いされたのは、どのくらいぶりだろう。

 なんだかおかしくなって、笑いだした。


 いつしか、互いに笑いあった。


 あんまりゲラゲラ笑っていたものだから、戻ったら朱里も朱花も、何があったの?って顔してた。


 勿論、ナイショ。


 どのくらいぶりだろう。こんなに声をあげて笑ったのは。


 最後は、いつ?



 2週間が経った。

相変わらず王に会うことは叶わず、時間だけが過ぎていく。だけど、けして無駄ではない。


 少しずつ、こんぴゅーたーを教わり、簡単な事なら出来るようになった。

 少しずつ、シオン以外の人達とも話せるようになった。 子供は皆、教育せんたーとやらにいるから、珍しいんだとか。


 少しずつ、少しずつ、シオンを知った。

 煙草が好き。でも私の前ではあまり吸わない。

 実は結構偉いひと。

 散歩が好き。…たまに、寂しそうに遠くを見据える。

 あの大笑い事件のお礼に、夕食に招待した。感想は、


「面白いな、これ」


…面白いて…普通のシチューと、パンと、サラダなんですが。この国の人は、あのビスケットもどきが主食だから、仕方ないか。


「不味くは、ないですよね?味覚を鍛えることは脳の発達にも影響するそうですよ」


「うん、おいしい、よ」


「おいしいですわ、とっても」


 朱里・朱花がうなずく。

 ふと、気になっていたことを聞いてみた。


「ねぇ、シオンの目って左右で色が違うのね」


「あぁ、右は義眼。3年前の戦争でちょっとな」


 気にしていない、という態度だったけど、彼の表情に僅かに悲しみの感情を見た。


「どうして、戦うのでしょう」


「そりゃ、相手から仕掛けてきたからな」


「相手を滅ぼすまで戦うのですか?戦争は何も生み出さない。互いが傷つくだけなのに」


「お前の国は、500年近く争いなんて無かったのに、見てきた様に言うんだな。似たような事を言ってる奴がいたよ。ダチだった。もう死んだ。殺された。お前みたいのは、この国じゃ長生きしないよ」


 くしゃっと乱暴に私の頭を撫でる。

もう、この話はおしまいだと、目が言ってる。


 でも、もうひとつだけ聞きたい。


 私は姿勢を正して、真っ直ぐシオンを見据える。


「でも、この国の王は戦争を止めるおつもりなのでしょう?彩の王女をめとるのは、鋼が彩を恐れているからですもの」


「彩を、つーか『炎の魔女』な。精霊とか、わけわからん国だから、余計に怖いんだろ」


「正直ですね、陛下。貴方は怖くないのですか」


「興味はあったな。正直なとこ。…なんつった、今」


「貴方が王なのでしょう、シオン。私、人を見る目には自信があります」


 朱里・朱花はすごくびっくりした顔をしている。

 シオンは笑いだした。


 不自然なことはいくつもあった。

 誰にも姿を見せない王。

 『王の命令』というわりに、全く報告に行くそぶりのないシオン。

 他の人々は皆、彼に敬語だ。

 そもそもこんな失礼な人を外交役に普通はしない。

 特にこれから、同盟を結ぶ国であるのなら。


 ひとしきり笑うと、シオンが尋ねる。


「いつから気付いてた?クレナイ」


「わりと、最初から」


「改めて、俺様が針国王、シオン=リドナーだ。アンタは俺に会いに来たんだよな。炎の魔女、望みはなんだ」


「彩国 王女・白亜の相手として、貴方が相応しいか見定めに。貴方は見込みはありますもの。教育係として、叩き直してさしあげます」


「そりゃいいや」


 シオンは楽しそうに笑う。

 朱里・朱花はまだびっくりしていて、


「うっそ」


「気がつかな、かった」


 と話していた。

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