表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/42

第15話

 Side紅。


 魔女の愛した人。

 終わりさえ許されない初恋。

 私は可愛い息子をもう一度説得しようと茶希の部屋を訪れた。


「茶希?ちょっと話が…」


 部屋のドアを開けると、勢いよく風が吹いてきた。


「茶希?」


 部屋には誰もおらず、窓が開いていた。荷造りも途中のようだ。


「珍しいわね」


 茶希はいわゆる神経質なタイプなので、物事を途中にするのをひどく嫌う。何かあったのだろうか。


「何がだ?」


「きゃあ!」


 後ろから声をかけられ、すごくびっくりした。全く気配をかんじなかった。


「別に普通に声をかけただけだろうが」


「考え事をしていたからです。いきなり後ろから声がしたら、普通は驚きます」


 シオンにぷぅっと膨れてみせた。シオンはゲラゲラ笑っていた。とりあえず茶希の部屋の窓を閉めようとして、綺麗な月が目に入った。


 何故だろう。それはきっと、気まぐれだった。


「シオン」


「ん?」


「少し、散歩しない?月が綺麗よ」


「ああ、構わない」


 それは、きっと気まぐれだった。だけど、大切なことだった。








 シオンを連れて、私は森を歩いた。道は木々が教えてくれる。

 実は私はかなりの方向音痴であり、私の精霊・翠との契約で木々の声を聴けるようにしている。森の中での迷子はヘタをすれば命がけだ。だが、木々の案内のおかげで、暗闇の中でも道に迷うことは無い森を抜け、目的地にたどり着く。


 赤色が一面に広がる。鮮やかな、あか。悪夢のようにおぞましく、美しい。あの人が作った『紅』の花畑。


 足が、震えたのには気付かないフリをした。ここは、私が好きだった人が殺された場所。私はこの場所が大好きだった。

 私が、私を無くした場所。

 今まで、あの日から来ることができなかった場所。

 今は、大嫌いな場所。


「ここは…」


 シオンは驚いた様子だった。


「綺麗でしょ」


 私は極力平静を装い、笑ってみせた。綺麗だなんて少しも思えない。赤なんて、大嫌いだ。


「無理すんな」


 くしゃっとシオンは私の頭を優しく撫でた。ズルいと思った。シオンは、優しい。


「どうしてそんなに私に優しくするの。私にそんな資格、無いのに。私は、人殺しなのに」


 優しくされると泣きたくなる。シオンは優しくて、私に甘い。


「そんなん俺様がしたいからに決まってるだろ。大体、それを言うなら俺だって戦場に出てた事がある。俺だって人殺しだ。それで?紅は俺を嫌うか?人殺しだと。それとも、仲間だと安心するか?」


「私はシオンよりずっと沢山の人を…」


「数なんざ関係無い。人殺しは人殺しだ。一生消えない」


「そうね」


 私は同意した。数は問題ではない。

 罪は消えない。消えることはない。たとえ、500年が経ったとしても、忘れてはいけない。

 忘れることなど出来ない。


「けどな?」


「きゃあ!?」


 グッとシオンは私を抱き上げた。小さな子供に高い高いをするみたいに。シオンが下に見える。


「お前は気にしすぎだ。忘れちゃいけないだろうが、戦場にいる以上は、覚悟の上だ。殺さなきゃ、殺される。恨むのは筋違いだ。死なせたくなきゃ、戦争を止めるか、行かせなきゃいい」


「でも」


「お前は頑固だよな。年くってるからか知らねーけど、それで子供を心配させてどーすんだよ」


「え?」


 びっくりした。誰の事だろうか。


「…もしかして、気づいてなかったのか?」


「子供って、茶希?」


「ああ。後は彩国国王とか、白亜とか、朱花と朱里もだな。国王なんか俺にアンタを頼むとか頭を下げたぜ」


「なっ!?」


 なんでそんな事をするのだろうか。私は別に辛い事も無いのに。何か心配されるような事をしただろうか。


「紅。お前、無理してるだろ。今も。いつからか、わかんねーけど。本当は、ここに来るの、辛いんだろ?無理すんな。俺は、紫苑がここで死んだ事を知ってる」


 もう何も考えられず、ただひたすらシオンにしがみつき、声が出なくなるまで泣いた。

 色々疑問はあったけど、全てを吹き飛ばす程の強烈な感情に支配された。


 それは『悲しみ』


 紫苑の死を、私は受け入れる事が出来ず、紫苑が死んだ瞬間に、私の心は砕け散った。

 私は紫苑が好きだった。心が砕けた今はもう、それがどんな感情だったか解らない。


 私の初恋は想いを告げる事さえ出来ず、消化不良のままだ。




 私の初恋は、終わることすら許されない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ