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第12話

 Sideシオン。


 魔女の役割。

 取り戻した感情とそれに伴う喜びと悲しみ。

 俺は白亜と別れた後、城を散策していた。すると城の外に黒い服の集団がいた。その中には紅もいる。

 そこは、ひらけた広場の様になっていた。

 近づいてみると、黒い服の人々の中には、泣いている者もいた。


「何してるんですか」


 いきなり後ろに引っ張られた。いつの間にか、俺の後ろに茶希がいた。


「これは、何をしているんだ?」


 丁度いいので、聞いてみる。茶希は、驚いた表情になったが、説明してくれた。

 これはソーシキという儀式らしい。まず、人間自体を部品の様に考えている針ではあり得ない考えだ。針は死んだら、使える臓器を抜き取り、燃やして処分する。死んだら終わり。何も残りはしない。


 だが、理解出来る部分もある。祈りが届くかどうかは、多分問題じゃない。生きてる奴らが、願いたいのだ。大切な者が安らかであるように。別れを、納得するために。


 紅が、柩の前に立った。


「紅蓮」


 赤い炎を纏い、高圧的なオーラを持つ、精霊・紅蓮が現れた。


「…お願い」


 紅蓮の炎が、柩を包み、一瞬で焼き尽くした。紅は、炎を見つめていた。


 それは、あまりにも悲しく、美しく、見る者の心を釘付けにした。


 紅蓮の炎に焼き尽くされ、白い骨だけが残った。黒い服の人々が、それを小さな壺に納めていく。そして、口々に紅に礼を言っていた。


 妙な表情をしていたのだろうか。茶希がさらに説明してくれた。


「今日亡くなった人は、かなり高位の人で…母さん、いや『炎の魔女』に弔われるのは、この国の民にとって、名誉なことなんです」


「…そうか」


 俺は、そのままずっと紅を見つめ続けた。泣きだしそうな、心優しい炎の魔女を。


 黒い服の集団がいなくなっても、紅はまだ立ちつくしていた。


「紅」


 俺は意を決して紅に話しかけた。


「シオン?」


 紅がこちらを振り向いた。無理矢理作った、歪な笑顔をむける。俺は紅を引き寄せ、抱きしめた。


「無理して笑うな。泣きたいなら、泣けばいい」


「私は…泣きたくなんて…それに何度もやってきたことなのよ。泣きたくなるなんて変だわ」


「お前がそれだけ、死んだ奴を大事に思ってたってことだろ。誰も変に思わない。我慢しなくていいんだ」


 そんな、泣きそうな表情をするぐらいなら。抱きしめる手に力をこめた。


 やがて、紅は泣き出し、泣き疲れて眠ってしまった。小さなこの身体に、どれほどの傷があるのだろう。

 小さな、優しいこの魔女が、どうか幸せになるようにと、信じてもいない神様とやらに祈りたい気持ちになった。

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