閑話
それは、禁忌の王子の名
白亜は、ウキウキしていた。シオンと話している間、茶希がずっとイライラしながらこちらを見ていたからだ。
彩には景色が綺麗な所など、山程ある。わざわざ、茶希の研究所を選んだ。嫌でも茶希の目につくようにと。関係無いというなら、何故そんなに気にするのかと苛めるつもりだった。
途中までは、計画通りだった。しかし、予想外の事が起きた。
「この国に紫苑という名の王子はいたか」
シオンの言葉に硬直した。この国で、最大の禁忌。炎の魔女を生み出した王子。
彩の国内ですら、ほんの一握りの人間しか知らないことを何故彼が知っているのか。シオンの話を聞いても混乱するばかり。何故、シオンが紫苑の事を知り得たのかの理由にならない。白亜は、
「結論から申しますと、紫苑という名の王子はいました。でも、これ以上は私の一存ではお話出来ません」
と、答えた。
幸い、シオンはそれ以上、聞いてこなかった。返事は待ってくれるという。わかりました、と返答し、ベランダから出ると、白亜は全速力で駆け出した。
すると、物陰にいきなり引っ張られた。
「ちょっと!何するんですの!」
物陰に引っ張ったのは、茶希だった。
「何された」
なかなかの迫力で、茶希に問い詰められた。目の奥には怒りと、複雑な感情が見てとれた。茶希が嫉妬しているのを感じて白亜はちょっと喜んだが、正直今はそれどころではない。
「今、私に害を及ぼしているのは、茶希ですわ」
皮肉を言ってみるが、茶希はまったく聞いていなかった。
「大体アイツは気にくわない。母さんにベタベタベタベタ、母さんも、あんなに楽しそうにゲラゲラ笑うなんて…」
「笑う?紅様が、ゲラゲラ?」
茶希のマザコンは今に始まった事ではないが…白亜は茶希の言葉に違和感を覚えた。紅が微笑するのはよく見るが、ゲラゲラ笑う。ゲラゲラとはおそらく大声をあげて笑う感じだろう。白亜はとりあえず想像してみる。
結論。
「想像つきませんわ…」
やはり、一度相談すべきだろう、と白亜は思った。一瞬の隙をつき、茶希の腕から白亜は脱出した。
「私は、シオン様になにもされてませんわ。用事があるので、失礼します」
今度こそ、白亜は目的地に向かって駆け出した。




