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第10話

 Sideシオン。


 特別な人

 とてもよく似た眼差し

 目が覚めた。今までになく、はっきり覚えている。冷たい何かが胸を貫く感覚さえも。


「シオン?だいぶうなされていましたけど、大丈夫?」


 そっと触れてくる、小さな手。いつの間にか紅が俺のベッドの傍にいた。

 あの夢の事を聞いてしまいたいと思ったが、今はまだ、聞くべきではない気がした。触れてくる手を握り、大丈夫だと笑うとほっとした表情になる紅。


「うちの母にまで手を出さないでいただけますか」


 紅の義理の息子茶希が鍋とお玉を持ち、エプロン姿で部屋の入り口に立っていた。

 顔は笑っているが、目は全く笑っていない。わかりやすく不機嫌オーラが出ている。


 俺はちょっとからかってみようと思った。


「お姫さんには手を出してねーぞ、ムスコよ」


「誰がムスコですか!」


 スゴいからかいがいがある。紅を抱き寄せると、


「人の母にセクハラしないでください!!」


 と、素早く紅を取り返した。ふと紅と目があった。お互いにやり、と笑った。


「もう、茶希ったら。お母さん、こんな可愛い息子で嬉しい」


「もう茶希ったら。マザコンなんだから」


 紅のセリフを少し変えて真似てみる。


「が―――!」


 茶希が キレてその辺の物をぶん投げる。


「最近の子供はキレやすいですな」


「ふふっ、あまり苛めないでくださいね」


 ベッドを盾にしつつのんびり笑いあった。


 ゴン。


 ぱたり。


 嫌な音がしたため、ベッドから顔をだす。


「うわ!朱里!?大丈夫か!?」


 どうやら茶希が投げた何かが当たってしまったらしい。


「あーあ、大丈夫か?朱里」


「他人事みたいに言わないでください!誰のせいだと思っているんですか!」


「お前」


「……」


「投げたの、お前だし」


「…ご飯作ってきます」


 逃げたな…と思ったが、またキレても面倒なので、放っておくことにした。

 紅はゲラゲラ笑っていた。朝飯はすごくうまかった。






 表向き、俺は白亜姫に会いに来たのだから、手土産を持っていき、姫とお茶を飲んでいた。

 城の人間は、皆俺の姿に驚いていた。姫も同じ。


 だが、白亜姫は他の者と少し反応が違っていた。白亜姫の目は、紅に似ていた。俺を通して、他の誰かを見ていた。そう感じた。

 白亜姫は素直で明るい娘だった。俺を見て、驚いたあと、


「昨日と髪の色が全然違うから、驚いてしまいましたの。すいません」


 と謝罪してくれた。

 白亜姫は可愛い娘だった。揺れる青銀の髪は、何処かでみた覚えがあった。


「お揃いですわね、髪。まるで兄妹みたいですね」


 どきりとした。なぜ気付かなかったのか、不思議なぐらいに似ているのだ。『白亜』と『雪白』は。

 身に纏う空気はまったく違う。快活明瞭な白亜に対し、雪白は穏やかだ。

 だが、姿も声もまるで同じ。雪白の方が幼いが、似すぎている。



『懐かしい』



 白亜姫も、この城も。ここから見える、風景も。


「シオン様は、時々遠い目をなさいますのね。紅様みたい。私を通して、誰かを見てる」


 白亜姫は、ムッとした様子だった。俺自身、つい最近、同じ思いをした。目の前にいる人間が、ここにいるのに自分ではない、誰かを見ている。それは、不快な気持ちだった。


「すまん」


 俺は素直に謝罪した。


「わかれば、よろしい」


 互いにゲラゲラ笑いあった。




 白亜姫は、お気に入りの場所に案内してくれた。

 そこは、彩の西。険しい山岳地帯の中腹にあった。鉱物専門の研究所であるらしい。俺も鉱物は多少知識があり、ちょっとアドバイスしたら、エライことになった。どこの世界も、研究者とは似たようなものらしい。うちの国の化学者連中を思い出した。


 白亜に案内されて、ベランダに出た。


 風が、強い。

 そこから、彩が一望できた。


「すげぇ…」


 この国は、美しい。

 緑溢れる森林地帯の中に、色とりどりの花畑。蒼い海、どこまでも続いていると思わせる、砂漠。


「でしょう。私のお気に入り」


 ご機嫌な様子の白亜姫。きっと今しかないと思い、俺は思い切って聞いてみることにした。


「この国に、紫苑という名の王子はいたか?」


 白亜姫の表情が固くなる。


「…紅様に聞いたのですか?」


「いや、信じるか?繰り返し同じ夢を見るんだ」


 俺は初めて夢の話を他人にした。白亜姫は、真剣に俺の話を聞いていた。俺が語り終えると、白亜姫が言った。


「結論から申しますと、紫苑という名の王子はいました。でも、これ以上は私の一存ではお話出来ません」


「急がなくていい、が、俺がこの国に滞在している間に返事をくれ」


「わかりました」


 白亜姫は、ベランダから出ていった。

 俺は、不思議と懐かしく、愛しささえも感じる景色を、ただただ見つめ続けた。

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