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第6話

 Sideシオン


 さぁ、パーティーを始めよう

 針の大ホール。

 通常、研究発表ぐらいでしか使われない場所だ。


 いつもは白一色のホールは、美しく色とりどりの布でや造花で飾られている。

 異国の食事が並べられ、楽隊は美しい調べを奏で、美しく着飾った人々が、どこかぎこちなく踊る。


 この国の王、シオンは、とても不機嫌だった。隣でニコニコしている秘書・エンジュに声をかけた。


「オイ」


「何かなー?シオン君」


 にこーっと笑うエンジュ。長い付き合いで、今の一言により、不快指数を大幅に上げたことを気づきつつ、笑みを絶やさない


「なんで、客を働かせてんだ」



 正しいツッコミである。




 この場で働いているのは、全て彩の民。この国では珍しい、色とりどりの髪や瞳のから、そうとわかる。基本的に、針の民は、黒い髪と瞳である。


 さらに、シオンは知りようもないが、この場で働いているのは、パーティーなど慣れている、彩の城のメイドや従者たちだ。

 シオンのツッコミに、エンジュは首をかしげつつ、


「…なりゆき?」


 てへ☆と効果音が入りそうだ。叫びたいが、シオンはガマンした。


 落ち着け、俺。

 がんばれ、俺。


 この場ではさすがにマズイ。

 彩の民がいる前でいつものノリでその辺の物を投げるわけにはいかない。

 恥もいいところだ。

 いまだかつて無いほどに自分にエールを送り、


 後で、殺る。


 と心に誓うのだった。


「ふふ、どうなさいまして?」


 涼しげで、美しい声で我にかえる。

 いつの間にかエンジュはいない…逃げたな…

 代わりに目の前には、傍らに少年を連れた美しい女性。

 紅いドレスを纏った朱花がいた。


「シュカ…」


 朱花の隣の少年は、人間ではないようだった。なにせ、本来耳があるはずの部分に鳥の羽根のようなものがついている。飾りでないのは明らかで、ぴくぴくと動いている。


「初めてみる顔だな」


 少年に対しシオンが言う。すると、朱花の瞳が異常に輝きだした。


「可愛いでしょう?」


「は?」


 わけがわからないシオン。

 異常に輝いている朱花。


「うふ、うふふ、うふふふふ。…可愛い。あぁ、もう可愛いすぎですわ、ダーリン!可愛い!可愛い!!ダーリンったら!!」


 シオンはどんびきしていた。今まで、シオンの中で、朱花はクールで上品というイメージだったが、考えを改めるべきかもしれないとシオンは思った。

 少年は朱花に抱きしめられ…否、絞められている。助けるべきだろうかと考えているうちに、少年はなんとか自力で脱出した。


「…ハニー、オレ、死ぬから、ヤメ…テ…かわいーも、やだ…」


 少年は、案外余裕がありそうだ。


「はっ!誰がダーリンをこんな目に!」


 お前だ…と言いたいが、ここでツッコミをいれると、また話が進まない気がしたため、シオンはガマンすることにした。

 今日はなんだか、色々ガマンする日だ…とシオンは思った。


 気をとりなおして、シオンは朱花に言った。


「シュカ、こいつは誰だ?」


 先刻から、疑問だったが、口をはさむ隙がなかったのだ。

 少年はこいつ呼ばわりに、少しムッとした様子だ


「あら、私としたことが…失礼いたしました。彼は夕海。私の夫で風の精霊ですの。こんなに可愛い夫がいるんて、私ったら幸せ者ですわー」


「…新婚か?」


「結婚して4年目ですわ」


「…………ふぅん」


 シオンは思った。なんだかもう言葉も出てこない。

 恋とは、人をアホにするものだったろうか。なんだかもはや、朱花のキャラが違うし。


「…ハニー、お願い。恥ずかしいから、ヤメテ」


 よかった。

 コイツは比較的マトモだ。


「はーい」


 元気に手をあげて、ニコニコする朱花。

 今までのイメージは間違っていたらしい(断定)

 しかも、ずーっと夕海をうっとり見つめている。

 シオンは比較的マトモな夕海に話しかけた。


「大変そうだな、お前」


「うん。でも、これはこれで、幸せなんだよ」


「そうか。がんばれ(俺にはさっぱりわからんが)」


「おうよ!イイヤツだな、お前。ところで、オレ結局アンタの名前知らねーんだけど」


 そういえば、朱花のインパクトがあまりにも強すぎて、名乗っていなかったかもしれない。


「俺はシオン。この国の王だ。一応な」


 ざ―――――――。夕海の顔が一気に青くなる。スゴい。リトマス紙並みの勢いだ。


「ハハハハハハニー!!言おうよ!言っとこうよ!!そういう重要な事はさぁ!!」


 半泣きで朱花に訴える夕海。

 朱花は青いダーリンもステキとか、全く話を聞いていない。

 いやー、いつもならともかく、今の朱花では無理だろう。


「気にすんな。この国じゃ王なんて形ばかりだ。敬語もいらん。俺は格式ばった挨拶などいらん」


 ぽん、と夕海の肩に手を置く。夕海は泣いていた。


「あじがどう…」


 多分ありがとうかな、と思いつつ、じゃあな、とこの場をあとにする。

 そっか。朱花って、あんなに濃かったのか。どっと疲れた。


 気分転換がしたくなり、シオンはバルコニーへ移動することにした。





 バルコニーには先客がいた。小さな白い影。


「…クレナイ?」


 そこには、白いドレスを着た、紅がいた。白を基調とし、青いリボンと花で飾られ、青い瞳に合わせたようでよく似合っている。


「シオン?」


 風にドレスがなびく姿は美しい。

 闇に映える、その白い影。


「…シオン?」


 不思議そうにシオンを見つめる、深い蒼。

 シオンは動くことすらできずにいた。

 バカみたいに、紅から目が離せない。






 ゴスッ!


「――!?」


 注・紅による攻撃。シオンは28のダメージ。


「なにすんだ!クレナイ!」


「回し蹴りですわ。ドレスアップした女性が目の前にいるのに、無視するからでしょう」


 にーっこりと笑う紅。


「かわいいよ」


 シオンは、ボソッと呟いた。先刻より、少し柔らかい笑顔を紅は見せた。

 何故か、シオンは心臓が落ち着かなかった…紅を見つめていると、シオンの鼓動は早くなる。


「シオン?」


 不思議そうにシオンを見つめる紅。

 いつも可愛いが、今日はいつも以上に可愛いとシオンは思った。


「お、おう」


 何も悪いことはしていないが、ついうろたえてしまう。


「踊らないの?」


 ホールを指差す、紅。いつか見たもよく似たシーンがあった。




 夢が、重なる。




 夢のなかの少年に、台詞を重ねてみる。


『うん。あそこには君がいない』

「ああ、あそこにはお前がいない」


 夢のシーンが重なる。夢と同じように、紅は告げる。


『困った王子様ね。今日の主役は貴方よ。主役がいなくてどうするの』

「困った王様ね。今日の主役は貴方よ。主役がいなくてどうするの」


『行こう』

「行くぞ」


 まるであの夢と同じように、シオンは紅の手をとる。


『えっ、私踊れないわ』

「えっ、私踊れないわ」


 重なっていく。目眩かする。

 夢と少し違うことをシオンは言った。


「姫の教育係が、ダンスも知らねーのか?」


「知ってはいますが、身長に差がありすぎでしょう」


 シオンはニッと極上の笑みを浮かべ、紅を抱き上げた。

 また、台詞が重なる。


『手を繋いで、くるくる回っていれば大丈夫だよ』

「手を繋いで、くるくる回っていれば大丈夫だろ」


「え?きゃあ!ちょっと!」


 抗議する紅を無視して、シオンは紅を抱いたまま、くるくる回る。


「ははっ、楽しいなー、ダンス」


「これ、ダンスって言わない!私、足ついてないし!」


 もはや敬語を忘れ、珍しくわたわたしている紅が面白くて、シオンは自然と笑っていた。


「もう!お・ろ・し・な・さーい!!」


 叫ぶ紅の蒼い瞳を覗き込み、息をつめ、耳元でこっそり囁く。


「どうしても、嫌か?」


「仕方のない人ね」


 困ったような、どことなく嬉しそうな表情にドキッとする。

 なんだこの生き物。

 スゲェ可愛いし。


「お前、俺の嫁になるか?」


「…無理ですわ。というか、これから結婚するかもしれない姫の従者、口説かないでくださいよ」


 ピシャリと断られた

 くるくる、くるくる、目が回る。


 シオンにとって、今のは本気半分、冗談半分だった。冗談にするしかない。今は。シオンはそう判断した。


「アホ。俺、ロリコンじゃねーし」


 ささやかな仕返しのつもりだったが、紅の鋭い蹴りが入った。その隙にシオンの腕から逃れると、ダンスホールに走っていく。


「…私は512歳。子供ではありませんよ。…大人でもないかもしれないけど」


 ダンスホールへ出る直前。一度だけ振り返った、その瞳は、悲しそうだった。


「かっこわりーな、俺」


 誰もいないテラスで、シオンはタバコを吸った。何故かいつもより苦かった。







 走り去った紅と入れ違いに、2人の男女がテラスに入ってきた。

 シオンは煙草を吸いながら、そちらに目を向けた。


「おい、そこのクソガキ」


 男はずいぶんガラが悪かった。

 炎を思わせる、見事な紅い、髪と瞳を持った男は、イライラした様子でシオンにくってかかる。


「俺の名前はシオンだ。大体、ガキでもねぇ」


「紫苑?」

「紫苑様?」


 男の後ろにいる女性も、同時にシオンの名前を呼ぶ。少し発音が違う。

 それは夢の少年の名だ。


 改めて、シオンは女性の方を見た。

 まるで深い森を思わせる、深緑の髪と瞳。

 女性はシオンに触れるギリギリまで近づいてきた。


「似てますね。気配までそっくりだわ」


 深緑の瞳が驚いたように揺れている。


「名前が同じで?気配まで似てて?そんな偶然、ありえるのかよ」


 紅い男も少なからず驚いているようだ。

 シオンは、ずっと聞きたかった事を聞いてみた。


「俺が、誰に似てるって?ついでに、あんたら誰だ?」


「ついでかよ!テメェには関係ねぇよ」


 紅い男はイラついた様子だ。

 緑の女性が、前に出る。その笑顔は怖かった。


「それより、マスターをいじめましたね?」


 その一言でピンときた。この2人こそ、クレナイの精霊だ。確か名前は…


「苛めてねぇよ、

(スイ)紅蓮(グレン)


「「!?」」


 驚いた表情の2人。シオンは確信する。当たりだ。

 そして、それを肯定するかのように、


「何、してるの?紅蓮、翠」


 いつの間にかテラスに来ていた朱里が尋ねた。

 朱里はシオンと紅蓮・翠を見て、言った。


「シオン、様…困って、る?からまれて、る?」


「困ってはいねーけど、絡まれてはいる、かな」


 正直に感想を口にするシオン。

 紅蓮と翠は朱里の出現が予想外だったらしく、固まっていたが、まったく同時にシオンの言葉を否定した。


「おほほほほ、嫌ですわ。そんなこと、あるわけないでしょう」


「あはははは、嫌だなぁ、そんなこと、あるわけねーだろう」


 見事なまでにハモったが、互いにそれに気づき、あからさまに嫌そうな表情をする。しかし、思い直したのか、


「失礼します、朱里さん!」

「じゃな!」


 2人はそそくさと逃げ出した。


「逃げ、た?」


「逃げたんじゃね?」


 首をかしげる朱里の後ろから、小柄な少年が出てきた。

 多分、先程から居たのだろうが、小さいからシオンは全く気付けなかった。

 朱花の精霊・夕海のように、耳があるべき位置に羽らしきものがついている。


「お前は、風の精霊か?」


 シオンが少年に声をかけると素直にうなずいた。


「おう。そうだぜ。オイラは、黄砂。朱里の精霊だ。よろしくな」


 少年はシオンに右手を差し出した。握手する。

 黄砂の手は、少年にしては妙に小さかった。


「俺はシオン。一応、この国の王だ」


 シオンも黄砂に自己紹介をする。


「ところで、さっきの2人はなんで逃げたんだ?」


「…ひいばぁちゃんに、もめたら、しばらく、呼ば、ないって、言われてた、から?


 朱里の言葉にシオンはすごく納得した。

 さっきから、シオンはずっと気になっている事があった。


「お笑い芸人か?お前ら」


 別に会話がコントとかではなく、純粋に服装が問題だ。

 2人は揃いの大きなリボンタイをしていた。1人だけならまだしも、2人揃うと、お笑い芸人(しかも一昔前の)にしか見えない。

 シオンの言葉に、考えるそぶりを見せ、朱里は予想外の行動に出た。


「なんで、やねん?」


 びし。朱里はシオンにツッコミをいれた。しかも、古い。


「いや、お前がボケだろう。明らかに」


 ビシ!と、シオンはツッコミ返した。


「そのうえ、なんで疑問形だよ」


 ズビシ!と、黄砂。やはりツッコミは黄砂のようだ。


「ところで、黄砂は男なのか?」


 気分を害したらすまん、とあらかじめ断って、シオンはずっと疑問だった事を聞いてみる。


「あ、オイラはどっちでもないぜ。まだ分化してねーの」


 なんでも、精霊は性別はわりといい加減で、黄砂のように、性別がないやつもいる。未分化、というらしい。

 シオンは精霊という生き物の不思議さを再認識した。





 今日は色々ありすぎて、シオンは疲れていた。

 パーティーも、そろそろ終わりのようだ。

 朱里と黄砂はごちそうを食べに行ったため、シオンは独りで、まだバルコニーにいた。

 ポケットから煙草とライターを出す。煙草に火をつける。


 自分の腕から逃れ、駆け去った少女に思いをはせながら、煙が空に吸い込まれるのをながめていた。

 宴が終わっても、シオンはなかなか動けなかった。


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