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王都から都市に岩塩……もとい守り石を無事に届けるというミッションを終えた、天官のティエリちゃん。守り石が入った背負い袋はまだずっしりと重く、中身が詰まっているが、残りは次の人里に配って回るようだ。
この後はのんびり街中を歩いて太守の館に戻ろうかと考えていたそうだけれど、何しろ天官の制服である着物姿って街中で目立つ。行き道で色んな人に声を掛けられ引き留められたように、帰路でも人々に囲まれてしまう事は目に見えている。
「さっきの様子を見る限り、どうやらこの都市での天官は、王都よりも注目度が高いみたいッス。そこを突かれたらヤバいッス」
故意に集団を扇動し、護衛と引き離して策略を巡らせてくる悪者の存在を危惧したけれど、護衛役のグレン君一人では荷が重い、と。なんでも、これまでのティエリちゃんのお使いは大抵コデルロスさんが同行していたそうで、普段は王都暮らしのティエリちゃんも都市での危険性を今日ようやっと認識したらしい。
「これまではコデルロスが睨みを利かせてでもいたのか、制服のままでも別段、誰かに声を掛けられる事がありませんでしたからね」
「隊長……一般市民相手でも僅かなりとも邪魔立ては許さないとか、どんだけ分かり易いんスか、あの人」
あー。きっと、老若男女問わずあのおっそろしい形相で誰もティエリちゃんには近寄らせなかったに違いない。
グレン君の呆れた呟きに、ティエリちゃんは頬を赤らめて気恥ずかしげに視線を逸らした。
で、制服を着ているからバレてしまうのだから、帰りは騒がれないように着替えちゃえば良いじゃない、という実に単純な結論に到達し、都市専任常駐天官のお爺ちゃんから、娘さんが開いているという洋服屋さんを紹介され、裏口からコッソリ招き入れて貰い、ティエリちゃんはお着替えに向かった。
洋服代は誰が支払う事になるの? と尋ねたら、グレン君からサラッと「隊長のポケットマネーッス」という返答を頂いた。当人の事前了解も無くツケにして良いのだろうか。
「上からマントを羽織るとかさ、要は制服が見えなくなれば良いんじゃないのかなあ」
「それじゃあ面白く無いッス。
何の為に隊長がアッと驚くような、スーパーハイクォリティーな洋服を選んでくれるよう店長に頼んだと思ってるッスか! いつもいつも隊長のしかめ面に向き合ってるんスから、こういう時を活用しない手は無いッス!」
「……グレン君……」
コデルロスさん、あなた、どういう基準で数多いる部下の中から私の護衛を選考したの? いや、肩肘張らなくて良い、って意味ならグレン君は気楽だけども。
「しっかし、この洋服屋さんの服は可愛いねえ」
「そッスね。こんだけたっぷり生地や飾りを使ってるからには、かなり高級店である事は間違いないッス」
「私、こっちには着の身着のままで来たから、あんまり洋服を持ってないんだよね。こういう服を見てると、私も欲しくなっちゃうな」
「ええと……ど、どうしてもサーヤ殿がこういう服が欲しいのなら、オーレリアン殿下が費用を負担して下さるッスよ?」
うっとり眺めて呟くと、グレン君はダラダラと脂汗を流して言葉を捻り出した。
ティエリちゃんが別室で着替えている間、私達は応接室でのんびりと展示用の服や生地を眺めながらお茶を頂いていたのだけれど、こちらの一般的な服装がチュニックにロングスカートであるのに対し、売り物の服はヒラヒラでフワフワなロリータファッションだ。可愛いが、実に可愛いが、私の身体が入るサイズは流石に無さそうだし、視覚的テロにもなりそうだ。
「……自分一人で部屋の中だけで楽しむ分には、オーレリアン殿下も買ってくれるかなあ……」
「サーヤ殿の必要経費は、全部殿下に一任されてるッス。で、殿下に相談して下さいッス」
また引き出せたら、自然な流れで説明できたんだけど。うん、やっぱり侮辱してしまう言い方になるみたい。
私が言って欲しい『女の子のようだ』という形容詞を向こうは使わないようにするべく、なんだかグレン君を四苦八苦させてしまっているようなので、私はくどくどしく説明する事は諦めて、ロリータファッションに熱烈な眼差しを送るだけに留めた。
店頭の方の品揃えも気になるけれど、婦人衣料品店で今の私が売り場をうろうろしていたら営業妨害になってしまう。
「お待たせ致しました」
お茶を飲み終わって流石にヒマを持て余し始めたところで、応接室の扉が開いて期待を裏切らないフリッフリファッションに身を包んだティエリちゃんが現れた。何故か眉間に皺が寄っていたけれど。
「うおっ、ティエリちゃん超可愛い!」
「素晴らしいッス! これなら隊長が喜ぶ事間違いないッス!」
私達の褒め言葉にも、ティエリちゃんはヘッドドレスを弄りつつ憤懣やるかたない様子で仏頂面だ。
「でも何で、ピンク色のドレスにしなかったの? 絶対可愛いのに」
ティエリちゃんが着用中の、パステルグリーンのドレスも悪くはないけれど、黒髪にピンク色って結構似合うんだよね。ティエリちゃんは私の疑問に答えず、無言のままブスッと頬を膨らませた。
「不本意です」
店を出るなり、ティエリちゃんが頬を膨らませたまま低く唸った。ご丁寧に、足元までヒールのある可愛らしい靴に変わっている。
「えー、可愛いのに。そんな可愛い服が着られるティエリちゃんが羨ましいよ」
私の何気ない呟きに、ティエリちゃんは弾かれたように私を見上げ……そして何かを確認するように辺りをチラッと見回した。行きと違って、華美な装いで目立ってはいるけれど、行き交う人々から声を掛けられる事はない。
「サーヤ殿、少しお話ししたい事があるのであちらに参りませんか?」
「う? うん、良いよ」
ティエリちゃんが指し示したのはそこそこ繁盛していそうな街角のカフェで、こういったご時世でああいうお店が流行っているのを見ると、少し安心する。住人の心や暮らしぶりに多少なりとも余裕があるって事だもんね。
グレン君を引き連れて隅の席を選び、私はティエリちゃんと並んで座った。何か、警護上の理由らしい。幸い店内はそこそこ賑やかなので、顔を近付け声を潜めれば内緒話も容易だ。
護衛なグレン君は「……このまるっきりデートなコース……オレ、沈められるっ!?」とか呻いていたけど、メニューにお酒類も無いらしいのに、カフェでそんな危ない目には、そうそう遭わないと思うんだけどなあ。
私とティエリちゃんはお勧めのお茶とお菓子を、グレン君は水だけを頼む。店員さんが離れたのを見計らい、ティエリちゃんが口を開いた。
「実は僕、サーヤ殿に謝らなくてはならない事が……」
「んん? 何かあったっけ?」
この世界に来て以来、ティエリちゃんには助けてもらっている覚えはあるけれど。謝罪されなくてはならないような出来事なんて、何も思い当たらない。
「僕は婆様の血を引く者です」
「うん、そうだね」
だって婆様本人から、可愛い曾孫娘じゃ! って自慢されたからね。知ってるよ。
「婆様が授かったのも、その子らも次の世代も、生まれたのは男の子ばかりでした。『女の子を、次代の天姫を!』と、王室はもちろん国中から期待が寄せられる中、母は末子に僕を産み落とし、その日は祝祭日のようなお祭り騒ぎになったそうです」
そっか、婆様の血筋の女の子だから、ティエリちゃんには否が応でも次世代天姫の期待が掛けられる事に……
「父母や兄達を始め、親類縁者や会う者から全て『お前は婆様の跡を継ぎ、このフラーシスの天姫となるのだ』と言い聞かされて育ちました。
今でもはっきり覚えています。コデルロスを連れたオーレリアン殿下が我が家を訪問され、庭園で花を愛でるまだ五歳だった僕の前に彼らは跪いて、『天姫となられた暁には、我等が身命を賭して御守り致します』と誓願して下さった日の事を。僕にはそれが……とても誇らしかった。
あの頃の僕は、自分こそが天姫なのだと信じて疑っていませんでした」
あ、そ、そっか。ティエリちゃんが天姫だって思われていたなら、幼い頃から自分は天姫の配偶者になるんだって考えてたオーレリアン殿下が、守りますって伝えてない訳ないよね。う、うん。何でだろ、私にしか誓った事がないとか、そんな風に決め付けてたや。
「ですが、成長し、いつまで経っても浄化の力を発揮しない僕は婆様から天姫ではないと告げられて……あの日から僕の世界は一変してしまった」
「ま、まさか、期待を寄せていた人達から理不尽に責められたりだなんて……」
いや、だって、ティエリちゃんはたまたま女の子に生まれたけど、初代から続く血筋の女の子なら浄化能力を必ずしも受け継ぐものじゃないんだよね?
「とりたてて誰も、僕を責めたりはしていませんよ。だけど……僕にとっては、それが余計に惨めだった。
自分は女の資格を持ち合わせていなかったから浄化能力を発揮出来なかったんだと考えて、男として生きたいと願い少年のような身なりや振る舞いをしても、決して。
無関心になった周囲に、天姫でなくても僕にはちゃんと価値があるんだと証明したくて天官に」
ぼ、ボーイッシュなティエリちゃんの背景には、そんな重い過去が……
「まあ今では単純に、男装の方がお作法に縛られずに済んで楽だし、動きやすいからですけど」
運ばれてきたケーキをパクつき、あっけらかんとした呟きを挟みつつ。
「サーヤ殿が本当に浄化能力を発揮した時、僕は嬉しいと感じるよりも先に、妬ましく思ってしまったんです。
男なのに浄化出来るのか、僕には出来なかったのにどうして……と」
「ティエリちゃん……」
こ、こういう時、なんて言ったら良いんだろう? 自分が持ってるはずのものを他人が持ってて妬むのは、ごく普通の事だけど。当の本人である私が、何を言える?
私が言葉に詰まっていると、ティエリちゃんがパッと笑顔を浮かべた。
「そんな困った顔をなさらないで下さい。僕は僕らしく生きていけば良い、そんな事でくよくよしなくても大丈夫だって、昨夜コデルロスに叱られてとても楽になったんです。
ふふ、罪悪感とか幼少期を知っている単なる義務感で僕の面倒をいやいや見てるだけだと、ずっと思っていたんですけどね」
えっ、あのコデルロスさんが? 私は思わず目をぱちくりさせてしまったが、部下であるところのグレン君はボソボソと「いやいやんな訳ないッス、紛うかたなく本気二千%ッス。今日の隊長の謎テンションの原因はコレッスか……!」などと呟いている。一応、女の子同士の内緒話なんで聞こえないふりしといてくれ、グレン君や。
「それで、サーヤ殿に謝らなくてはならない事なんですけど……昨夜はコデルロスに、サーヤ殿が浄化能力を完全に操れるように、上手い練習方法は無いかと尋ねられたので、思い付く限り厳しい内容にさせて頂きました。絶対に一日でものにさせてみせて下さいね、とコデルロスには念押しして。
すみません、ちょっぴり八つ当たりです」
ペロッと舌を出して「テヘッ」と照れるティエリちゃん。ああ、世の男性陣はきっと、この可愛らしさにみんな絆されて、ついつい許してしまうんだな……!
私はずずーっとお茶を啜った。
「ううっ、コデルロスさんのスパルタの元凶はティエリちゃんかあ~。本気で今日は大変だったんだからね」
「すみません」
にこにこ笑顔で謝られてもなあ……釣られて思わず笑っちゃうじゃないか。
ま、本当に大変なのは明日からだし、早く自分に出来る事と出来ない事を確かめるのは重要な事だけども。
「今、僕は『尊きかの方』に心から感謝しているんです。
僕らのもとへ遣わして下さった勇者様がサーヤ殿で良かった、と。だってあなたは、僕の大切な人達を笑顔に出来る人だから」
「ティエリちゃん……」
もぐ、と最後の一口であるケーキを飲み込んで、私はフォークを置いた。
「あの、その称号はどっから出てきたの?」
「え? オーレリアン殿下が今朝、討伐隊の面々を集めて大々的に発表し、周知徹底させていましたけれど?」
「……あー、それきっとサーヤ殿とオレが、コデルロス隊長に早朝の浄化特訓に連れ出されてからの夜営地撤収時の話ッスね」
オーレリアン殿下ぁぁぁぁっ! 私、そのとんでも称号に同意した覚えが無いのに、嬉々として広めないで下さーーーいっ!?
フリッフリなティエリちゃんと並んで大通りをぶらぶらと歩き、ウィンドウショッピングを存分に楽しんでから、私達は本日宿泊予定の太守の館に戻った。
「ああ、帰ったかサーヤ殿、ティエリ」
「……」
オーレリアン殿下は笑顔で出迎えてくれたけれど、警護任務中であるはずのコデルロスさんはパカッと口を開いてティエリちゃんをマジマジと凝視し、一心に見入っている。
ティエリちゃんは、あまりにも見てくるコデルロスさんの視線が気になるのか、サッとグレン君の背後に回り込んだ。途端にコデルロスさんの形相が憤怒に変わり、睨み付けられたグレン君の顔色がみるみる青褪めてゆく。南無。
「はっはっは、ずいぶん可愛らしい格好をしているね、ティエリ。
そうそう、私はサーヤ殿と話しがあるのでね。皆は晩餐まで外していてくれ。室内警護はリュカがいるからな」
「……了解した」
グレン君がめちゃくちゃ何かを言いたげな表情を浮かべていたけれど、無表情に戻ったコデルロスさんが主君に諾を返してしまうので、何も言えないらしい。閉まる扉の向こうで、ティエリちゃんがコデルロスさんにとことこと近付いてゆくのが見えた。
オーレリアン殿下から招き入れられた部屋に落ち着き、向かい合う。リュカさんは無言のまま、扉の前に立った。
「サーヤ殿、見たかい? あのコデルロスの間抜け面! 今年一番の傑作だ」
「私はむしろ、その後の怖い顔の方が頭から離れません……」
ソファーに腰を下ろし、遠慮なく笑い転げるオーレリアン殿下。
「何ですかね。ティエリちゃんが任務期間中にはそぐわない格好をしていたから、コデルロスさんはあんなに怒っていたんですかね?
それとも、自分のポケットマネーが脅かされるのが嫌だったとか?」
金を出すのは隊長だ! と断言したのはグレン君だからなあ。
「ふむ、念の為に確認するが、サーヤ殿がティエリにドレスを買ってやったのではない、ね?」
「残念ながら、私には持ち合わせがありませんからね。こちらのお金を持っていたら、私が出していたかもしれませんけど」
カフェの代金も、立て替えてくれたのはグレン君だ。
「やれやれ。サーヤ殿がティエリに高価なドレスを買ってやったりすれば、話がややこしくなるので止めてくれ。
異世界の流儀は知らないが、ティエリは立派に未婚のレディで、サーヤ殿は権威ある……対外的には男性なのだからね。強引にティエリを取り上げ娶りたい訳ではないのだろう?」
「……こっちの世界での、言い寄り口説き、みたいな行為になっちゃうのですか」
私が考えているよりも、洋服の単価が高いのかな?
「単に天官の制服が街中で目立ったので、着替えただけなんですよ。ティエリちゃんはあの手の服は好みじゃなかったみたいですけど、グレン君がえーっと……コデルロスさんが絶対に喜ぶ? とか言って」
『面白くなるに違いないッス!』発言は、控えておいてあげよう。万が一コデルロスさんの耳に入ったら、彼は恐らく地獄を見る。オーレリアン殿下にはウケたのだから、きっと目的は達成されたのだろう。
「グレン……意外と彼は上官思いだったのだな。どうやら私は、彼の本質を見誤っていたようだ。
後でさり気なく、コデルロスにはとりなしておいてやろう」
あ、何かグレン君が主君からプラス方向に誤解されたけど、まあ多分全くの間違いでもないだろうし、放っておこう。
「それで、ですね。グレン君に聞いたんですけど、私の必要経費はオーレリアン殿下が出して下さる、とか?」
「ん? ああ、そうだな。街で何か欲しい物でも見つけたのかい、サーヤ殿?」
「ティエリちゃんが着ていたようなデザインの、フリッフリな服が欲しいです」
私の真顔でのおねだりに、オーレリアン殿下が笑顔のまま固まった。
「私、フリフリでヒラヒラでリボンやレースで飾り立てられている、スカートふんわり感な可愛い服が好みなんです。あ、色はピンク系が良いです。
そういう服を買って下さい、オーレリアン殿下」
「そ、それは……サーヤ殿のサイズでは流石に既製品は置いていないだろうから、今回の討伐遠征が終わったら採寸して特注しよう、か……」
「わーい」
バカにされるかとも思ったけれど、オーレリアン殿下は駄目とも嫌だとも言わなかった。とても正気度と堪え性の限界を試されてる的な、どんよりした眼差しと震える声になっていたけど。
安心して下さい、オーレリアン殿下。人前ではメイドさん達が用意してくれた、普通の無難な服装しかしません。
その日の晩餐では、太守に紹介されつつ歓待を受けた。お腹が突き出た丸っこいおっちゃんだが、オーレリアン殿下に悪い感情は抱いていないようで、心尽くしのおもてなしに与る。因みに一緒にご挨拶した太守夫人は、若くて美人だった。あの腹で美女を射止めた秘訣が気になる。
こちらの世界の礼儀作法やテーブルマナーに疎い私だが、隣席の殿下が注意深くフォローしてくれたので、辛い思いはせずに済んだ。
ティエリちゃんは晩餐前にいつもの着物に着替えるのかな? と思っていたのだけれど、例のフリッフリドレスのまま素知らぬ顔をして同席している。コデルロスさんはそんなティエリちゃんが気になって仕方がないのか、幾度もチラチラとティエリちゃんへ視線をやり、時折目が合ってはにっこり微笑まれて挙動不審になっていた。
オーレリアン殿下のニヤニヤ笑いや、リュカさんのいっそう深まる笑み、太守夫妻の微笑ましげな眼差しには、コデルロスさんはいっぱいいっぱいで全く気がついていない様子。
そんな和やかな晩餐も、終わりに近付いていた時。
バンッ! と、乱暴に広間の扉が開け放たれ、討伐隊の騎士さんが飛び込んで来た。
「何事だ」
すぐさま表情を引き締めたコデルロスさんが低く問うと、恐らく全力疾走してきたのだろう飛び込んで来た騎士さんは、乱れた呼吸を整えて顔を上げた。
「申し上げますっ!
都市城壁周辺を魔物の軍勢が取り囲み、包囲されつつあります!」
「……軍勢、だと。数は?」
「その数、およそ二千。徐々に数を増やしつつありますっ」
報告を受け、太守が「殿下」と口を開いた。
「我が都市の私兵、僅かに五百名ばかりではございますが、いずれも一騎当千の強者揃い。殿下にお預け致します」
「良いのか?」
「オーレリアン殿下の采配、期待しております」
「承知した」
太守は立ち上がると、家令さんを振り返る。
「街に通達を出せ! 市民に順次太守館地下への避難を誘導、防衛戦への参戦傭兵を募れ!」
「ははっ」
慌ただしく人々が駆け出していく中、オーレリアン殿下が私の顔を覗き込んでくる。
「サーヤ殿。本当は、こんなに早くあなたに無理をお願いするはずではなかったのだが……聞いての通り、非常事態だ。
私と共に、都市の防衛に当たってくれ」
カタカタと、私の手は震えていた事を、オーレリアン殿下に握られてようやく気がつく。
「うん。頑張る。
だから殿下、そばにいて」
「ああ。あなたの事は、私が必ず守り抜いてみせる」
この戦いが終わったら、オーレリアン殿下に可愛い服をいっぱい買ってもらうんだ。
私はギュッと、オーレリアン殿下の手を握り返した。
グレンを選んだ理由→普段の言動はアホっぽいが、無意識のうちに真理を突くため。警護対象者を最善の状態で守り抜く。
しかし人間性という観点では、擁護のしようもなく真性のバカである事は否めない。
サーヤの服飾嗜好に関する根源↓
姉妹+姉は活発的+裕福とは言い難い家庭環境=衣服はほぼ全てお下がり。新品は必ず『安価でカジュアルな姉とお揃い服』つまり、同じデザインの服を何年も着続ける羽目になる。
可愛らしい服に憧れるのもやむなし。
この時のリュカさんのご心境→(……わたしは壁だ、置物だ、家具だ)
麗しい主君が無骨な大男にドレスをねだられ贈る約束を交わすという、別に見たくも聞きたくもない情景が目の前で繰り広げられるが、扉を背に警護として立ち室内の様子に気を配っていなくてはならない近衛騎士の哀愁。