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とても疲れながらも風呂から上がり、身体を拭いてお城のメイドさん達が私の身体に合うよう改造してくれた服を改めて身に付けて、オーレリアン殿下の天幕に引っ込み、そこで私はハタと気が付いた。今夜、私はどこで休んだら良いんだろう?
もともと旅の事前知識や旅装はおろか殆ど着の身着のまま、メイドさんに急いで準備してもらった着替えやタオルといった日用品の袋一つで出発直前の討伐隊にくっ付いて来たので、私は予定外のお荷物なんだよね。
「オーレリアン殿下、私、どこの天幕で眠ったら良いんでしょう?」
「うん?」
キラキラしい長い髪の毛に悪戦苦闘していた天幕の主である殿下は、諦めたのかまだ湿っている金髪をそのままに、タオルを寝床に放り投げてこちらを振り返った。寝床と言ってもお城にあったようなご立派な天蓋付きベッドのようなそれではなくて、マットレスの上にシーツと枕、毛布が乗っているだけの簡易的な物だ。ご飯の時には無かったそれが、私と殿下の入浴中に誰かが用意してくれたのだろう。今は二つ並んでいる。
私は自分のタオルを手に、オーレリアン殿下の髪の毛の水分を丁寧に拭う。ドライヤーなど望めないが、せめて櫛はどこだ。
長い間、薬の副作用で帽子を被ってた状態だったから、人様の髪とはいえ長い髪の毛をいじるのは久々だし、けっこう楽しい。この借り物の身体の頭部の黒髪は、毎日のヘアセットなど気にしなくとも良い角刈りだしねっ。
「おお、サーヤ殿は髪を拭うのが上手いな!」
「元の世界では腰まで伸ばしていて、慣れていますから」
「……長髪だったのか。うむ、なんだ。今の長さがサーヤ殿には似合っていると思うぞ」
「それはどーも」
普段、お城で身の回りのお世話をしてくれている侍従は連れてきていないらしい殿下は、無邪気に喜んでいらっしゃる。
「オーレリアン殿下、近衛騎士コデルロスが参りました」
それで結局、今日の寝床は……と、私が重ねて問うのに先んじて、今度は天幕の出入り口にて殿下の警護をしていたリュカさんから声が掛けられた。オーレリアン殿下の口から、嘆息が漏れ出る。
「せっかく自由時間を与えてやったというのに、本当に説教に来たのか……」
「当たり前だこの馬鹿。
同僚の前で堂々と『一晩ぐらい、婚約者殿としっぽり英気を養うが良い』などと言われて、誰が『畏まりました』と有り難がってしけこむか!」
バサッと入り口の布を跳ね上げて、コデルロスさんがズンズンと大股で天幕内に足を踏み入れる。一応今は休憩時間らしく、腰に剣を下げてはいるが甲冑は脱いでいた。
しかし、コデルロスさんをけしかける殿下も殿下だけど、コデルロスさんも何だかなあ。その言い方じゃあ、任務中でなければ有り難くしけこみます、って意味になっちゃうよ?
「それじゃあ、コデルロスさんはオーレリアン殿下に話し足りないようですから、私はこれで……」
「まあまあ、サーヤ殿。待ってくれたまえ」
胡乱な眼差しでチラリとコデルロスさんから目線が投げられ、お邪魔虫はお説教空間からそそくさと逃げ出そうとしたところ、オーレリアン殿下がガシッと私の二の腕を掴んで引き留めてきた。おのれ、人を巻き込む気満々か王子様!
「先ほどの質問にまだ答えていなかっただろう。
今夜、サーヤ殿はここで私と一緒に休むのだ。だから、席を外す必要はないぞ。
さあて、明日に備えて我々は早めに寝るとするか、サーヤ殿! コデルロス、初めて遠出をするサーヤ殿には十分な休息が必要だ。うるさくして睡眠を妨害するような説教は、言語道断だからな!」
更にあろうことか、オーレリアン殿下は怒涛の言い訳を押し立て、私の腕をぐいぐいと引っ張り寝床に引きずりこもうとしてくる。
「なっ、何で私と殿下が同じ天幕で寝ないといけないんですか!?」
「……せめて、本人の同意は得た方が良いと思いますよ、殿下」
私は抵抗して逆にオーレリアン殿下を引っ張り返し、無理やりコデルロスさんの前に立たせて自分はオーレリアン殿下の背後に立って両肩に手を置いた。逃亡防止だ。
私達のやり取りを見かねたのか、入り口の方で警備しているリュカさんが諫めてくる。
「む……サーヤ殿、友である私の味方をしてはくれないのか!」
「コデルロスさんのお説教から、体よく逃れるダシにする殿下には言われたくありません」
オーレリアン殿下は必死でもがき、首を捻って背後に立つ私を見上げて情に訴えてくるが、この人は逃げずに立ち向かう勇気も必要だと思う。
そういう私も、怒り心頭のコデルロスさんを前にしたら多分、逃げを打つけど。怖いよこの人。
「……そろそろ茶番は終わりで良いか?」
コデルロスさんがゆうらりと前進し、オーレリアン殿下は「げっ」と呻いた。
……しばしコデルロス騎士による、オーレリアン殿下への教育的指導及びお説教中につき、中略……
殿下の天幕の前で、リュカさんとのんびりお茶を飲んでいたところ、入り口の布がバサリとよけられて、コデルロスさんが顔を出した。
「お待たせして申し訳ない、サーヤ殿」
「いえいえ、もうよろしいのですか?」
「ああ」
再び招き入れられた天幕内ではグッタリしたオーレリアン殿下が寝床に突っ伏していたが、私が入ってくるなり跳ね起きてガバッと飛び付いてきた。
「サーヤ殿、サーヤ殿!
私を見捨てていくだなんて酷いではないか!」
「違いますよ、オーレリアン殿下」
私は殿下の腕をそっと外して両手を握った。そして、しっかりと目線を合わせて優しく微笑みかける。
そもそも、一晩中説教、という当初の予定を切り上げさせたのだから、私の存在は十分オーレリアン殿下を救っていると思う。
「コデルロスさんに逆らうだなんて、そんな恐ろしい事は私にできないというだけです」
「……サーヤ殿の中で、俺はどんなイメージを抱かれているのやら」
オーレリアン殿下はいい年してむぅと頬を膨らませ、両手を自分の腰にやった。
「サーヤ殿は薄情だ」
「コデルロスさん以外の相手からなら、まあ善処します」
「私も、コデルロス以外の存在からならばサーヤ殿の身を守る、に変更するからな!」
「じゃあそれで合意、という事で」
背後に立つ件のコデルロスさんから注がれる眼差しが、気のせいか痛い。オーレリアン殿下も痛かったのか、ゴホンゴホンと咳払いをして、「さて」と強引に話題を変えた。
「先ほどまではどこまで話したかな。確か、サーヤ殿の宿泊部屋問題だったか」
「そうそう、そうなんです」
オーレリアン殿下はゆったりと椅子に腰掛け、コデルロスさんがその斜め後ろに控える。私は天幕の敷物の上に腰を下ろした。
オーレリアン殿下は手凭れに肘を置き、コデルロスさんを振り仰いだ。
「ふむ、何と説明したものかな」
「サーヤ殿が天姫である、という婆様の主張が正しいという事は、本日証明された。
天姫の保護と後見はフラーシス王室の義務であり、サーヤ殿には天姫としての働きが期待される。故に、今宵のところはサーヤ殿にはこちらの天幕でお休み頂きたい」
コデルロスさんの重々しい説明を聞き、私は内容を理解しようと反芻してみるが、『故に』前後の繋がりが全く見えない。
「すみません、ちょっとその理論がよく分かりません」
「つまりだな、サーヤ殿は一兵卒ではなく、今後、私と同じ待遇を受ける必要が生じているんだ。
婆様は誰からも敬意を払われていただろう? 我が国において、王族の権威と天姫の尊崇は等しくあらねばならず、どちらか一方に傾く事は好ましくない。
なので、王太子である私がこのような天幕で休むのならば、サーヤ殿にも同等の寝所を用意するべきなのだが……」
「どこかの馬鹿が事前通達も無くねじ込んできたお陰で、サーヤ殿の為のありとあらゆる用具準備が全く無い。
騎士達が順に休む天幕で雑魚寝や野宿はさせられないし、オーレリアン以外に一人で天幕を使う人物と言ったら、今回の遠征で唯一、女性の身で参加しているティエリ殿の小さな天幕ぐらいだ」
オーレリアン殿下にところどころ毒を滲ませつつ、コデルロスさんが無表情に言い放つ。
「あ、何だ、ティエリちゃんも一人で天幕使うんですね。
なら、そんなの何の問題もないじゃないですか。私がティエリちゃんの天幕で休めばそれで……何でもないですすみませんごめんなさい」
私にとっては当然の提案だったのだが、無表情だったコデルロスさんから殺人的な目つきで睨まれて、私は慌てて平伏せんばかりに謝罪した。こ、怖いっ……!
うん、やっぱり私はコデルロスさんにとっても男なんだなあ。
「くくっ……
ま、まあどうせならティエリと同じ天幕の方が良い、という意見が出るのは仕方がないな。私よりもティエリの方が可愛いし。なあ? コデルロス?」
口元を押さえて笑いをこらえ、オーレリアン殿下は憮然としているコデルロスさんの腕をバシバシと叩き、私に向き直った。
「可愛くはないが、道中の相部屋は私で我慢してくれ」
「ええと、可愛いとかそういう話ではなくてですね。
単に、さっきティエリちゃんが何か沈んでいたような気がしたから、話がしたいなーと」
「……何?」
先ほどの話し合いでの様子が気になっていた事を打ち明けると、コデルロスさんがぐっと眉根を寄せて身を乗り出した。
「私の浄化の力について話してる時から、考え込んでいるような素振りで。何かあったのかなー、って」
「サーヤ殿の浄化の力について、か……
従来の天姫とは異なり、直接相対する必要があるサーヤ殿の身を憂いたのやもしれん。ティエリ殿は心優しい娘だからな」
「……そう思うのなら直接確認してきたらどうだ、コデルロス?」
うんうんと頷き一人納得するコデルロスさんを、椅子に腰掛けたまま生ぬるい眼差しで見上げるオーレリアン殿下。
「ああ、うむ。
サーヤ殿の浄化の能力に関しては、まだまだティエリ殿に確認しておきたい事も多いしな。
どんな心配事を抱えているのか、討伐隊の総指揮をとるオーレリアンの近衛として、俺が尋ねておかなくてはならんな」
「そうだな、私としても問題の把握や解決に動く騎士は頼もしい」
「そうですね、その通りだと思いますよ、コデルロス」
生ぬるい眼差しのままの殿下による肯定、天幕の向こうから同僚のリュカさんによる援護射撃も飛んできて、コデルロスさんは足早に天幕を後にした。オーレリアン殿下を放っておいて良いのだろうか。いや、今は休憩時間中だったらしいから良いのかな?
「あーっ! ようやく解放された!」
コデルロスさんが出て行くなり、オーレリアン殿下はでろ~んと寝床に横たわり、気を抜いてダラダラし始める。
「殿下、一つ気になる事があるんですけど」
私はオーレリアン殿下がどいた椅子にドスっと座り込み、ダラダラ殿下の背に呼び掛ける。
「王族と天姫はどうして同権なんでしょう?
私のイメージとしては、どっちかが大きな権力を握っていそうなんですが」
『わらわ様』を崇めるこっちの世界の人にしてみれば、天姫っていわゆる神様の使いだよね。そんな存在を野放しにしていたら、権力者が自分の今の地位を追われるんじゃないかって、疑心暗鬼に陥るものじゃないのか。
「うむ、それはまあ、我が国のご先祖様が上手いことやったという訳だな」
むくりと起き上がった殿下は、乱れた髪を適当に手櫛で後ろに流し、ため息を吐く。
「初代の天姫様は、その称号が示す通り天より舞い降りてこられた姫君。そして天姫様ご自身は、魔物を滅する技術も、人間を相手取り立ち回れる戦闘能力も交渉力もお持ちではなかった。
ただただ、美しくたおやかで、慈悲と慈愛の精神に満ち溢れた繊細で清らかな女性であり、浄化能力を持つだけで、悪く言えばこの世界の常識も何も知らない無知で無力な小娘だった」
「何か……道具扱いされる未来しか見えてこないんですけど」
「まさにそれだ」
ビシッと人差し指をこちらに突き付け、オーレリアン殿下は頷く。
「私の先祖は、利権を狙う悪漢に天姫様が捕らわれ、表向きの象徴としてプロパガンダにされる事、または天姫様お一人で魔物と戦うべきであるという方向へ民意が流れる事を最も危惧していた」
浄化能力を持っているのは天姫のみであり、自分も魔物にされてしまう恐怖も相俟ってしまえば、確かに『天姫さんがなんとかしてくれ!』と、丸投げしたくなるかも。
「そう言えば『わらわ様』……かの方は女性のようなのに、フラーシスって男性が引っ張っていく国……父権社会なんですよね」
「ほう。父権社会、というのか?
家を、国を、世界を導き人々を守り先頭に立つ存在は、男であるべきだという普遍的な認識が、我々には大きい。
女性はよりかの方と近しく、庇護すべきという考え方なのか……あるいは、男が格好を付けたがってこうなったのか。ふむ、当たり前過ぎて考えた事も無かったな」
オーレリアン殿下は頭を振り、言葉を繋げた。
「その、父権社会という枠組みが、野心の一欠片も持たない初代様の助けにはなったと思う。
幸いにして、初代天姫様は女性だった。どんなに人心を集めようとも、『女性である天姫様は国主にはならない』『男性の側に寄り添い、その男性を支え立てるべき』そんな気風が人々の心に浸透していたからな。
これが初代様が男性だったなら、民は国主への期待待ったなし、権力者の危機感を煽って暗殺一直線だ」
……えーっと、もしかして私の存在って、実はスッゴくヤバいって事ですか?
「安心してくれ、サーヤ殿。
フラーシス王室は代々、天姫の身の安全と、心静かな暮らしを提供する事に腐心している。今更男性天姫が登場したからといって、揺らぐような国ではない」
自信に満ちて笑うオーレリアン殿下だが、別の天然的理由で揺らぐ可能性はまだまだ捨てきれない。
「因みに、具体的にはどんな暮らしを提供してきたんです?」
「そうだな……代表的なのは初代様のように、王族との婚姻だな。因みにこれはむしろ、天姫様と結ばれたお陰で私の祖先はフラーシス国を開闢出来たのだが。
王の傍らに妃として立つ天姫、という情景が、民衆の心に安寧をもたらすらしい」
「……王族って、全然心静かじゃない気が」
「それには同感だが、対等であり特異な立場だと広く知らしめ、下手な介入も出来ない。利点も多い。
……くどくどくどくど言われるばかりで人からは距離を置かれ、私は王族の利点とやらを体感した記憶は無いがな」
ふっ、と、何かを悟ったような表情で後半のボヤキを吐き出し、オーレリアン殿下は「だが良いんだ」と私に目線を向けてくる。
「幼き頃の私は、年頃になったら笑顔の仮面を被って半ば強制的に天姫を娶らされるのだと、ずっとそう思っていた」
「……えっ、婆様と結婚したかったんですか殿下っ!?」
予想外の告白を聞いた体で私がのけぞって驚愕すると、オーレリアン殿下は笑顔で立ち上がって私の額にチョップをかましてきた。手加減無しで痛かったです、殿下……
「婆様の後継者である、次代の天姫の話だっ。私はババコンではないっ!」
「分かってますよう」
ちょっとしたお茶目だったのに、結構本気で怒られた気がする。オーレリアン殿下と気軽に冗談を交わし合う関係への道のりは遠いわ。
「初代様の女系子孫……二代目フラーシス国王の妹姫の内のお一人から、代々女性達が天姫の座を受け継いできた来歴ある婆様の血筋からは、現在に至るまで天姫が現れなかった。だが自らが天姫であると自覚していないだけで、広い世界のどこかに天姫は必ず居ると主張し、私は自ら捜索を始めたんだ。
嫁いでいった者、臣下に下った者、僅かなりとも初代様の血を引く子孫を家系図から探し出し、候補者を当たっても浄化能力を発揮出来ず……」
そう言えばそんな話を、こちらの世界に来た初日に王様がしていたな。まさか、オーレリアン殿下が自分の足で探して回っていたとは思いもしなかったけれど。
「魔物を討伐しながら後継者候補を訪ね歩く間に、私は幾度も幾度も考えていたんだ。
天姫とはどのような方なのだろうか、何を好み、どんな姿をしていて、何をすれば笑って下さるのか……そもそも本当に存在するのかという湧き上がる不安を、幾度も幾度も押し殺して。
その長い旅路はまるで、私自身の運命の相手を探し求めて、実態を持たない夢の中でだけ逢える相手に恋い焦がれているようだった。
いつしか私は、次代の天姫が現れたなら、必ず心を配りこの手で大切にしようと……心からそう思うようになっていて」
そっか……オーレリアン殿下が二十代後半になっても、婚約者を定めずにいたのは、いつかきっと現れるであろう天姫を、ずっとずっと探して待ち続けていたからだったんだ……
どこか熱を帯びた声音で呟いたオーレリアン殿下は、私の頭にポンと手を置いた。
「ところが、だ。胸焦がし切望していた次代がまさか、サーヤ殿のような男性だったとは……」
「なんかもう色々、夢を壊してしまってスミマセン」
ひぃぃ! 熱血天然系のオーレリアン殿下の純真な夢を、このオカマが粉々に砕いていただとか、めっちゃ居心地悪いんですがっ!
そんな私の怯えっぷりにオーレリアン殿下はプッと吹き出し、遠慮なく頭をわしゃわしゃしてきた。
「なに、ほんの冗談だ。
浄化能力者を欲していたのは我々で、サーヤ殿はわざわざ世界を越えて助力に来て下さったのだからな。そんなサーヤ殿を恨みに思うはずがないだろう?」
「……殿下の冗談は、心臓に悪いです」
「む? そうか。存外難しいな、軽口の応酬というものは」
うん、やっぱり私達に、冗談の交わし合いはまだ早いみたい。
「私の天姫がサーヤ殿で良かったと、私はきっと、笑顔でそう言って逝くのだろう」
もう遅いし、そろそろ休もうとオーレリアン殿下に促され、私は用意されていた寝床にもぞもぞと入り込む。
ランプの灯りを消して隣の寝床に潜り込んだ殿下が、暗がりの向こうから「時に、サーヤ殿」と声を掛けてきた。
「前々から思っていたのだが、やはりサーヤ殿には『姫』と付く称号は似合わないと思うのだ」
「はあ」
ビミョーに乙女心は傷付くが、現状はオカマなので『なんだと!?』と、怒り出す気力も湧かない。私だって天姫でいたって良いじゃないですか。
オーレリアン殿下の寝言は放っておいて、私は寝返りを打ちサッサと寝入る事にした。
「そこで私が、天から舞い降りた男性に相応しい、格好いい称号を考えてみたいと思うのだが、サーヤ殿自身は何か希望はあるか?」
屋外で就寝だなんてあまり慣れていないが、睡魔は健やかに訪れる。
「……サーヤ殿、サーヤ殿?」
ここぞとばかりに死亡フラグを立てまくる殿下。
リュカさんのただ今のご心境↓
(殿下、あの、それはご自身も自覚した上で、サーヤ様にそうお話しされておいでなのですか?
今一度、ご自分の言動を反芻した上で、万が一の誤解も生まれぬよう振る舞って頂きたく……)
聞きたくもないのに、布一枚隔てた向こうで警護として立っていなくてはいけない近衛騎士の悲哀。