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「……サーヤよ。目を覚ましておくれ」
フワフワと、真っ白な世界でボンヤリ浮かんでいた私は、どことなく気品が漂う柔らかく優美な声で呼び掛けられている事に気が付いた。
意識をそちらに向けると、声の主は「おお!」と喜色を滲ませるのだが、私にはその姿が白い世界のどこにも見つけられないでいた。
「うむ。わらわとそなたは世界と次元を異 (こと)にしておる故、サーヤの知覚では捉えられぬのじゃろう。
今は特別な計らいで、わらわの意思をそなたが理解出来るよう、いささか理 (ことわり)をねじ曲げておる」
はあ、と、私は声を出したつもりだったが、ちゃんと声帯を動かして発声出来たかどうかは分からない。自分の声どころか、手足の感覚すらどこか曖昧である。
「長らく理を歪めるのは、世界に良からぬ結果をもたらす故、単刀直入にゆくぞ。
そなた、わらわが守護する世界を救ってはくれぬか?」
私はまた、はあ、と答えていた。余りにも突然かつ脈絡が無さ過ぎて、現実感が全く湧かない。
この状況に陥る前は私、何やってたんだっけ? と、振り返ろうとして思い出したのは……激痛だった。
そうだ。私、病院に運ばれて……
「サーヤ、そなたはそちらの世界では末期まで進行すれば完治が難しい、女性特有の病に罹っておったそうじゃな」
自覚症状無くいつの間にか進行していた卵巣ガンは、あちこちに転移していて、手術を……
「このままそなたの生まれ落ちた世界におれば、遠からずそなたは死ぬ」
謎の声が、悲哀に満ちて宣告してきたのは、私も既に知っている事だった。
「そなたは、わらわの力の一部を宿す資質を備えた稀有な娘じゃ。
わらわの世界を救ってたもれ。さすればわらわは、そなたとそなたの世界を救ってみせようぞ」
はあ、それはまた交換条件としてはしごく妥当な気がしますが、お互いの世界を救う、というのはいったい……?
「わらわの力は、一部とはいえ受け入れるには資質のある者にしか耐えられぬ。
わらわの世界に向かい、そなたが力を正しく使うのじゃ。
わらわはそなたの元の身体を媒介に、そなたの愛する者が幸福に天寿を全う出来るよう、力を注ごう」
まだよく分からないが、「長く理を歪めてはおけぬ」と、謎の声に返事を急かされ、私は了承していた。
多分、寝ぼけ状態並みに頭が働いていなかったからだと思うが、とにかく私は取り引きに応じてしまったのだ。
「感謝するぞ、サーヤよ。
わらわの世界では、そなたが生まれた世界の二の舞にならぬよう、わらわの祝福をありったけ込めた頑健な仮初めの身体を貸し与えよう。生半な危難ならば跳ね返すであろう」
……それも、こちらが先に対価を受け取ってしまい、正常な判断力が芽生えた頃には時既に遅し。最早契約を無効には出来ない状態になって。
「……高次元の『わらわ』様っ……! だからって、だからって……
何も私を、男に性転換しなくても良いじゃないですかーっ!」
*****
フラーシス王国は、かつてない存亡の危機に見舞われていた。
信使 (しんし)が世界中を探し回ったにも関わらず、瘴気の浄化を担う天姫の後継が現れず、遂に凝った瘴気は最悪の存在を生み出した。
――魔帝再臨――
その報に、世界は震撼し、民は涙を流して声を涸らし、『天の彼方におわす偉大なるかの方』へ慈悲を願った。
悲痛なる民の声に胸を痛められた『かの方』は、当代天姫に託宣を下し、そして……
「尖塔で祈る婆様の下へ、私が空から舞い降りてきた、と」
「まさしく。サーヤ殿、そなたの降臨は紛うかたなき『かの方』の御慈悲じゃ」
そう言って喜んでいるのは、皆から婆様と呼ばれている第三十二代天姫御歳八十歳の白い着物の老女と、国王様を始めとする比較的老境に差し掛かった世代の重鎮貴族達ばかりで、若い世代の王子様やら騎士様や貴族達は今にも激昂せんばかりだった。
「納得がいきません、婆様!
この者はどこからどう見ても、ゴツい大男ではないですか!」
そう言って私にビシッと人差し指を突き付け、婆様に食ってかかる金髪榛色の瞳をした美青年王子様。
代々の天姫達が祈りを捧げて瘴気を浄化してきた祈りの場だという、三百六十度大パノラマな見晴らしの良い尖塔の一番高い部屋から謁見の間に場所を移し、いきなり空から降って湧いた私を『尊きお方から下された異世界よりの天姫』だと、フラーシス王国の主だった人々に婆様から紹介された私は現在、吊し上げに遭っていた。
ふと気が付いたら、周囲に美形美女が溢れる絢爛豪華な謁見の間に連れてこられていた私は、行き届いた『わらわ様』の気遣いによって格段にサイズアップしていた手術着の裾を震える指先で握り締め。
目線の違いや分厚く大きくなった手のひらや足など、見た目の違いから多分、大ざっぱに換算して現在の私の身長は二メートルを軽く越えていそうだ。
どうやら長身美形人種らしい、フラーシスのどの若人達よりも、拳一つか二つ分は背が高い。
全身筋肉の塊なのに非常に身軽だし、尖塔の螺旋階段を婆様を片手で抱えて降りても息一つ乱さない上、全く疲れを感じない無尽蔵のような体力。
手術着の膝上ズボンから覗く、スポーツマンか格闘家と見紛う筋肉質な足にはぼうぼうとすね毛が生え、脂肪が欠片も見当たらないムキムキの胸元には豊かな胸毛が……
自分の現在の身体を見下ろして眩暈を覚えながらも訴えた。
「えーと、こんななりですが、私は一応女です……」
無駄に低く、また渋くもなった音程による私の心底からの訴えは、私を『天姫』であると認めないいきり立つ周囲の人々から無言の『すぐにバレる嘘はよせ』という眼差しで黙殺された。
こんな身体になったのは、私の本来の瀕死の身体は地球に置いてきぼりで、代わりに『わらわ様』がこの世界に適応出来る、健康的で簡単には死なない身体を作って貸してくれたからだよぅぅぅ!
そもそも『天姫』というのは、この世界の住人ではどうしても根本的解決が不可能な『瘴気』……世界を苦しめる病原菌のような毒素を浄化するべく、『天の彼方に坐す偉大なりし慈悲深きかの方』が自らの力を分け与えて異世界より招き入れた女性と、その子孫の中で浄化の力に目覚めた女性を指す。
婆様や王様達から代々の天姫の継承について話を聞いていると、私の推測だがどうやら浄化の力とやらは、異世界出身者の女系にのみ代々引き継がれる力であるらしい。どっかの時代で男子が二代も続いていったら、それ以降その家系へ浄化の能力は子孫に引き継がれないんじゃないだろうか。
「婆様。婆様が仰る事が真実であれば、この男にも浄化の能力があるはず。
どうか我らに、それを証明して頂きたい。例え男だろうが野獣だろうが無機物だろうが、畢竟、瘴気を浄化出来さえすればそれで良いのですから」
婆様と似た、白い着物に見える服装の年若い男の子が、難しい顔でそう訴えている。顔立ちの彫りが深いので、日本人の感覚では大人びて見えても多分この国の人々の年齢は若いはずなので、まだ幼い少年だと思う。
婆様はふぅむと両腕を組んだ。私同様、『わらわ様』からのコンタクトを受け取れる数少ない存在である婆様も、託宣という形で幾つか情報を受け取ったらしいが……
「サーヤ殿は特殊な状況下でこちらの世界に降臨された故に、既存の天姫と異なる浄化方法を発現されるらしいのじゃ」
身体中あちこち、悪性腫瘍ごと摘出されましたからね。どんな仕組みかは分かりませんが、女性特有の臓器から浄化の力が発動ー! とかだったら、今の私には出来ませんね。
試しにと、歴代天姫直伝の浄化の祈りを行ってみたところ。跪いた婆様のお身体から柔らかい光が満ちて周囲へと広がってゆくのに対し、隣で同じポーズを取り祈った私の身体は何の光も発しない。
「……そんな姿で、浄化の力も顕現せず、栄えある天姫の御位を穢し愚弄するのもいい加減にしろ!」
祈ってもダメなのかー、と、うなだれる私の傍らで、無表情無言のまま成り行きを見守っていたフルプレートの騎士様が、クワッ! と目を見開いて怒号を浴びせかけてきて、私はびっくりしてそのまま腰を抜かしていた。騎士様は重たそうな鎧をあちこちガチャガチャと鳴らして身体を怒りに震わせ、眼差しはこちらを射抜かんばかり。
『わらわ様』が、わざわざ用意してくれた丈夫な身体に向かって『そんな姿』だなんて、酷い言い種だと反発心が湧く以前に、騎士様のあまりの迫力に私は怯えて縮こまる。
「少し落ち着きなされ、コデルロス。
いかなる物事にも始まりがあり、約五百年前に初代様が降臨なされたように、我らの時代で初の男性天姫が降臨なされたというだけの話じゃ」
「婆様っ……!」
コデルロスと呼ばれた騎士様は、流石は天姫という位に特別な感慨を抱いているだけあって、当代の婆様には大変弱いようだ。
「驚かせてしまって申し訳ありません。よろしければ、お手を」
「お気遣いありがとうございます」
へたり込んでいる私の眼前へ、スッと手を差し出してきたのは白い着物のような服を身に纏っている件の少年だった。周囲の人々は数百年前の北欧では確かこんなデザインが一般的だったよね、と思わせる衣装を着ているので、婆様や少年はこの集団の中で随分目立つ。
こんな風にさり気なく紳士的に気遣ってもらうなんて生まれて初めての経験で、男の子の手を握るというシチュエーションにとても緊張しながらも、有り難く手を借りて立ち上がろうとしたら、軽く引っ張っただけで少年は「わっ!?」と、悲鳴を上げて私の胸の中に倒れ込んできた。
「す、すみません」
「いえ、こちらこそ」
慌てたように少年が後方へ飛ぶように後退って離れ、お互いにペコペコと頭を下げて謝り合う。その様子を、とても冷たい眼差しで無言のまま睨み付けてくるコデルロスさん。うう、あの人怖い……
身軽だから忘れていたけれど、どうやら随分とこの身体は重たいようなので、自分で床に手を突いて立ち上がった。私に降って湧くドキドキシチュエーションの結末なんて、所詮はこんなものだ。
「どうやら若い者は困惑気味のようじゃ。
サーヤ殿、良ければ先にお主の懸念の解消しておいた方が良かろう」
婆様がそう言って、私を手招きしてくる。
懸念すべき事柄なんてたくさんありすぎて、何から聞けば良いのか全く分からない。
「ティエリ、水晶玉を」
「はい」
婆様に応え、腰に提げていた袋から手のひらサイズの水晶玉を取り出したのは、先ほど私が引き倒してしまった少年。
ティエリ君、っていうのか。皆さん綺麗で彫りが深い西洋的な顔立ちだし、ティエリ君も私には見た目十八歳前後に見えるけど、外見年齢より若いよね、多分。
「わしの浄化の力は歳と共に年々衰えてきておるが、遠見と未来予知の力はまだまだ健在じゃ。
どれ、サーヤ殿。この水晶玉に手を翳しなされ」
ティエリ君から受け取った水晶玉を両手の上に乗せた婆様に言われるがまま、私は水晶玉に向かって手を伸ばした。
「念じるのじゃ。お主が元の世界に残してきた大切な者の事を」
私の大切な人。お母さんとお姉ちゃん……
家族の事を思い浮かべた途端、水晶玉が光を放ち……目の前にまるで、鮮明な3D映像のホログラフィーが映し出されたかのような像を結んだ。飛び出すテレビ画面とか、そんなものが実現したらこんな感じだろうか。
しかし、映し出された映像はあまり趣味が良いとは言えない。寝台に横たわる青白い顔をした私の傍らで、母と姉が泣いているものだったから。
「紗綾、紗綾!」
ああ、と、私は次の瞬間に唐突に理解した。
私は死んで、それをお母さんとお姉ちゃんがすごく悲しんでいるのだと。
「お母さん、お姉ちゃん……」
思わず手を伸ばしたけれど、私の手は映像をすり抜けるだけ。これは、遠い世界での出来事。
「いくら何でも、死ぬには早過ぎるわよ、馬鹿ぁっ!」
皮と骨だけのような、やせ細った私の身体が横たわる寝台を殴りつけ、お姉ちゃんが泣きながら詰っている。
いつも人目を気にして、綺麗にきめているお化粧が流れるのも構わず。
「紗綾、紗綾、頑張ったねえ。こんなになるまで、本当に、頑張ったねえ……」
お母さんは私のこけた頬を撫で、涙をボロボロと零し。
女手一つで私とお姉ちゃんを育ててくれたのに。私は何一つ返せなかった。
そこから幾度か時間が飛んだり場面が転換し、地球に残してきた母や姉のその後の様子が映し出されてゆく。
何かを振り切るように仕事にばかり打ち込んでいくお姉ちゃんを心配して、気に掛けてくれる同僚の人達。さり気なくお母さんを励ますご近所の人達や、お友達。
取引先の仕事の出来る男性がお姉ちゃんに猛烈アプローチしていたりして、お母さんに少しずつ笑顔が戻ってゆく。
私が関わりを忘れていたような人もたくさん出てきた。
ご近所さん、通学電車でよく乗り合わせる人、幼稚園の頃に遊んだ友達、小学校の担任の先生、中学の先輩、高校のクラスメート、バイト先の常連さん、担当医の先生に看護士さん……
取引先の社員さんの熱烈アプローチに根負けして、お姉ちゃんが交際を受け入れたところで映像は霞のようにボヤけてきた。
「すまぬ。これより先の未来は遠く、わしの力では映し出せぬようじゃ」
婆様が申し訳ないと謝ってくるけれど、私はぶんぶんと首を左右に振った。
「あれが、元の世界に残してきたサーヤ殿のご遺体を通し、『かの方』が祝福を授けて下さった先に訪れる、サーヤ殿の世界の未来じゃ。
本来のお身体はあちらで亡くなってしまった故に、サーヤ殿は最早あちらの世界へお戻りになる事は許されぬ」
私は、今にも消えてしまいそうなほど、白く霞んでゆくお姉ちゃんとお母さんの姿に手を伸ばす。涙が溢れて止まらない。
「お母さん、お姉ちゃん、ごめんね、ごめんね。私、ちゃんとそっちの世界でもっと生きたかったよ。
お別れも言えなくて、孝行も出来なくて、ごめんなさい。
私には何も返せないけど、私がこっちで頑張ったらお母さん達を幸せにしてくれるって、約束して貰ったの」
消える。白い映像は、仮初めの残像だけを脳裏に残して。
抱き締めるように両腕をかき抱いて膝から崩れ落ちても、そこには何も無い。
「大好きだよ、お母さん、お姉ちゃん。
私、頑張るから。悲しませちゃった以上に頑張るから。だから……」
私がいない世界でも、幸せになって。
******
泣いて泣いて、いつの間にやら私は婆様に縋るようにして眠ってしまっていたらしい。
気が付いたら王宮に用意されていた客室のベッドの上で、綺麗なメイドさん達に囲まれてお世話をされていた。
とにかくこちらの世界の皆さんは、皆一様に美麗でスタイルがよろしくて羨ましい。
まず、こちらの世界の生活様式に慣れる以前に、私は『わらわ様』が貸し与えて下さったこの身体に慣れる事から始める事になった。
握力腕力がどうのという以前に、いたいけな乙女に与えられたムキムキ筋肉男の身体。着替えから困惑、用足しで絶望、入浴で悟りを開く羽目になった。
いちいち騒ぎ立てる私に、美女メイドさん達は皆さん懸命に励ましてくれ、私はどうにかこうにか折り合いがつけられたと言っても過言ではない。
まあ、私の周囲に美女ばかり配置されたのは、強欲などっかの誰かによる『種付け』の思惑があったようなのだが、私からしてみれば彼女らはどんなに親切にされようが、美しかろうが色っぽかろうが同性だ。恋愛感情も情欲も湧きようが無い。感謝の念は募るけど。
私があまりにも美女メイドさん達に向かって「私は女なんです」と主張するものだから、そういう目的で私の側にいたメイドさん達は小馬鹿にしたように鼻を鳴らして去ってゆく。このフラーシス国は、オカマに少々厳し過ぎやしないだろうか。
そんなこんなで、どうにか生活をしていくと共に、私の浄化能力の実践的な検証も始まった。
『わらわ様』によって私がこの世界に喚ばれたのは、この世界の理を歪めている原因である瘴気が凄く強い形を得たモノ……魔帝を討伐し、今後そのような存在が再び現れないよう、終生この世界を浄化し続ける為である。
「どうだい? 『かの方』からのお返事はあった?」
なるべく空が近そうな、婆様が毎日通っている宮殿の尖塔にある祈りの間で、婆様と並んでひたすら祈っていると、螺旋階段を上ってフラーシスの王子様が姿を現した。
えー、名前はオーレリアン。本名は長ったらしくて覚えきれなかったので、私はオーレリアン殿下と呼ばせて頂いている。謁見の間での初対面の時は、『男だとぅ!?』と、かなり取り乱していた王子様だが、時間を置いて再会した際には失礼な態度を取ってしまったと謝ってくれたし、私の浄化の能力が必要なのだと力説をかましてくれた熱血漢殿下。直情型過ぎて、フラーシス国の未来が少々不安です。
私は首を左右に振った。
「駄目ですね。そもそも私がこちらに来た時も、理が乱れるとかであまり長くは話せないと言われましたし」
こちらの世界の人々から名前さえ口にするのは畏れ多いと、『天の彼方におわす偉大なるかの方』と尊ばれているこの世界の神様的存在な『わらわ様』は、直接的な介入手段が限られていて、人々とお話しするだけでも世界がてんやわんやな大惨事をもたらすらしい。
最近では私を呼び寄せたせいで、世界各地に突発的異常気象が頻発したとか。私に応えてくれたお陰で今度は火山が噴火したりしたら、このオカマは立つ瀬が無いですわ……
「そうか。それではやはり、サーヤ殿も同行する事になるのか……」
「はい。右も左も分からぬ不調法者ですが、よろしくお願いします」
「サーヤ殿……」
溜め息混じりに思案するオーレリアン殿下に、私は頭を下げる。今日の祈りを終えた婆様が、心配そうに私の顔を見上げた。
「どうしても、行くのかの。
サーヤ殿は戦の経験も無い、わしの後継たる天姫。婆はどうにも嫌な胸騒ぎがしてやまぬ」
「正確には、浄化の発揮方法も分からない『天姫の後継 (仮)』ですから。
瘴気を放置は出来ません」
「婆の力が足りぬばかりに……!」
「そんな!」
自分の力不足で魔帝を誕生させてしまったと悔やんでいた婆様。無念そうな婆様の、皺と染みが刻まれた小さな手を私は両手で握った。
「婆様は長年尽くしてこられたのでしょう? これからは、私達若い世代が尽力する番です。ねえ殿下」
「ええ。婆様、どうぞ、ご安心めされませ。後の事は全て、ドーンと我々にお任せ下さい」
眼に暑い……いや、熱い光を灯して力強く請け負うオーレリアン殿下を見て、婆様は一言。
「不安しか無いわい……」
今は魔帝討伐というお題目で人間同士は団結しているけれど、むしろ魔帝を倒した後の、フラーシス国の未来は大丈夫だろうか。
素敵な祝福の一部をご紹介!
○なんと、一晩ぐっすり眠ったら体力が全快だ! 筋肉痛とは無縁の素敵ボディ!
○なんと、たった一つの病を除いて、病気には罹らない! さてそのただ一つの病とは、もちろん……?
○たとえ怪我をしても、常人の三倍の治癒力であっという間にツルピカお肌! もちろん、常に滑らか素肌を保つぞ!
○これで安心! ありとあらゆる毒は無効! 知らない間にご飯へ媚薬を盛られても、無反応でペロリと平らげちゃうよ!
○聞き取りやすく、滑舌滑らかバリトンボイス! 会話しているだけで徐々に聞き惚れて、腰にきちゃうかも!?
○汗臭さやイヤな体臭とは無縁! いつでもほんのり爽やかカモミールの香りで、バグした相手にも居心地良さバッチリ◎
○寝てる時のいびき? 心配ご無用! 愛嬌溢れる寝顔とお行儀の良い寝姿で、安らかな眠りをご提供!
素敵ボディで、世界の危機を救え☆