番外編7 カイルのスパイ選び
「カイルよ、なにをやっている?」
「ああ、エシルか。実はな、砦で新たに採用するスパイについて考えているんだ」
「間諜のことか」
「古めかしい言い方だな。さすが御年数百歳」
ぎろり、と睨む目が怖かったのでさり気なく話を戻す。
「ところでエシルよ、スパイに必要なものはなんだ?」
「耐え忍ぶ心かな。東洋には忍びという間諜がいるが、彼らは忍耐強い。はしこくなくても、どっしりしているものがいいぞ」
「つまりノロマでもいいと?」
「極論を言えば」
「ただし、ノロマでもいいが、好奇心が旺盛でなくてはならい」
「好奇心か」
「ああ、何事にも興味を持ち、秘密を暴こうとする性格が必要だ」
「なるほど、分かった。そんなやつを見つければいいんだな」
「言うは易しだが、そんなに簡単に見つかるものかね?」
「簡単じゃないだろうが、秘策はある」
「ほうほう、うかがおうか」
偉そうに言う胸の小さい娘に、カイルはささやく、彼女の銀髪に触れたが、しっとりとしていて心地よかった。
さて、こうしてスパイを集めるための募集をする。
クルクス砦に集まったのは、周辺の都市から募集した一般市民。
スパイは敵都市に紛れ込むのだから、「普通」のやつが良いのだ。
軍人は良くなかった。
そんな思想のもと集めたが、集まった30人を選別する。
まずは筆記試験。これは読み書きができるか、と最低限の教養を試すもので難しくない。
20人が合格した。
そして最終試験――。
これは別会場で行われる。
と合格者に手紙を渡し、カイルは説明をする。
「この手紙をクルクス砦にある最終試験会場まで持って行ってくれ。その間に色々な罠があるが、それをくぐり抜けたやつが勝ちだ。ちなみに手紙の中は見ないでくれ」
志望者たちは一斉に駆出し、一位を狙う。
その光景を悠然と見るカイルとエシルだが、ひとり、残っている男を見つける。
彼はなんと合格発表のあとに寝ていたのだ。
エシルは呆れながら言った。
「あれは駄目だな」
カイルは反論する。
「そうでもない。一番見所があるかもしれないぞ。あそこで眠れる肝の太さはスパイ向きだ」
そう不適に漏らすと、遅まきながら男は起きた。
きょろきょろし、黒板に書かれた最終試験を見ると、男は絶望した。
もう勝てないと持ったののだろう。
ここまできた記念だし、どうせ不合格ならば手紙を開けよう。中身も気になるし。
と、男は手紙を開けると、驚愕の文字を見る。
「おめでとう! 君は合格だ! 我らは好奇心旺盛なものを求めていた」
男は唖然としたが、見れば目の前に握手を求めてくる軍師の姿を見いだす。
彼は人の悪そうな笑みを浮かべ、握手を求めてきた。
これはとんでもない職場にきてしまったな、と思った。