番外編5 じいさんの思いで
道中、詐欺師カイトは白銀のエシルと食べ物の取り合いになる。
最後に残ったシチューをどちらが食べるかで喧嘩になったのだ。
ここは師である私が、いや、このシチューに入っている猪を仕留めた俺が、と喧嘩になるふたり。
真っ暗な森の中では仲裁するものもいない。
ふたりの口論は長時間におよんだが、それでも決着しなかった。
そうなると、結局、ジャンケンで決めようか、ということになる。
ふたりは拳に気合いを込め、ジャンケンを繰り出す。
詐欺師カイルは必殺のグー!
白銀のエシルは会心のパーであった。
こうして決着はついた。
エシルはにこやかな笑みで、最後のシチューを口にしようとしたが、それを邪魔するものがいる。
カイルである。
「往生際が悪いぞ、愚弟子」
「別になんもしないよ。ただ、こんな話をしようと思ってな」
すると、カイルは、昔話を語り始めた。
「大昔、俺のじいちゃんがまだ生きていた頃の話だ。ただ、ばあちゃんは死んでいて、じいちゃんの面倒は母親が見ていたんだが、このクソジジイ、世話になっている分際で、まるで殊勝さがなくてな」
「おまえみたいだな」
「うるさい。話を聞け」
エシルは「わかったよ」と沈黙する。
「それでな。じいちゃんは食事のたびに、ばあさんの作るスープはもっとうまかった。おまえの作る料理はまずい、といちゃもんをつけたんだ」
「ひどいじいさんだ」
「まったくだ。だが、俺の母親は聖母みたいな人でな、じいさんに小言を言われようが、飯を作り直しさせられようが、黙って従っていたんだ」
「本当に聖女のようだ」
「ああ、しかし、その聖女様もある日切れてしまったんだ」
「切れた? なにをしたんだ?」
「じいさんにスープを10回も作り直しさせられたとき、俺の母親は切れた。今までの鬱憤を晴らすかのように復讐をしたんだ」
「復讐……」
ごくり、と生唾を飲むエシル。
「どんな復讐をしたんだ?」
おそるおそる尋ねてくる。
「母親は雑巾の絞り汁をスープに入れたんだ」
「な、なんと! それはひどいな」
「ひどい! と言いたいところだが、この話にはオチがあってな。そのスープを飲んだじいさんはこう言ったんだ」
「うまい! この味だ! この味こそ、ばあさまの味じゃ!」
「――と叫んだそうだ」
「それはつまり……」
エシルは言いよどむ。
「ああ、おそらくばあちゃんもじいさんのスープに雑巾の搾り汁を入れていたんだろうな」
その話を聞き終えると、エシルは自分の皿からカイルの皿へ、スープを半分入れて寄越す。
苦笑いを浮かべながらこう言った。
「……食欲が失せた。半分やる」
「それはありがたい」
カイルは悪びれもせずにスープを受け取った。