番外編4 カイルの思い出
軍師カイルも人の子である。
木の股から生まれたわけではなく、ちゃんとした両親がおり、父と母の愛情をもって育てられた。
しかも父親は、小さな町で司祭をしており、カイル少年は厳格な父親のもとで育った。
物心つく前から朝のお祈りは欠かさず、祝日の礼拝も欠かしたことはない。
さらに父親の仕事の手伝いもよくこなし、母親のいうこともちゃんと聞いた。
今現在の姿からは想像もできないが、カイルは前途有望な少年だったのだ。
そんな息子を持ったカイルの父親だが、彼は悩んでいた。
カイルの将来をどうするか、決めかねていたのである。
カイルは勉強もできるし、剣の腕もたつ、機転もきく少年であった。
このまま勉学を積ませ、王宮に仕官させてもいいし、剣の腕を磨き上げ、騎士にしてもいい。あるいはその賢さを生かし、商人にするという道もある。
父親としては是非、自分の跡、司祭の道を選んでほしかったが、カイルの父親は息子に自由な道を歩んでほしかった。
そこで妻と相談し、カイルの将来設計を考える。
カイルの父親は言う。
「今からカイルの部屋に5つのものを置く、その中からカイルの選んだもので、息子の将来を占おうと思う」
「それは素晴らしいアイデアね、あなた」
「息子の部屋に置くものはこれらだ」
と、父親は机の上に置かれたものを指し示す。
そこに置かれていたのは、
法律辞典、
剣、
金貨、
聖書、
干し肉、
である。
それらを見てカイルの母親は納得する。
「わかったわ、あなた。もしもカイルが法律辞典を持っていたら王宮に仕えさせる官僚に、剣を握っていたら騎士に、金貨に興味を持っていたら商人に、聖書を読んでいたら司祭に、干し肉を食べていたら料理人にするのね」
「その通りだ、我が妻よ。さて、かわいい我が息子はなにに興味を示すかな」
カイルの父親はカイルが寝静まった夜、カイルの枕元に上記の品を置いた。
そして翌日、楽しみにしながら息子の部屋の扉を開けた。
するとそこでカイルは、法律書と聖書を枕にしながら、干し肉をかじっていた。
カイルの父親は尋ねる。
「金貨と剣はどこにやった?」
カイルは言う。
「そんなの最初からこの部屋にはなかったよ」
「…………」
十数年後、死に別れた息子は立派な『詐欺師』にして『軍師』になっていた。
そのことを相棒であるエシルに言うと、彼女は呆れながら言った。
「まさかかわいい息子がこのような息子に育つとはご両親も浮かばれまい。このうえは私がおまえを導いて、詐欺師兼軍師から詐欺師の文字をとってやらねば」
「軍師と詐欺師は表裏一体だと思うけどな」
カイルはごくごく無難な回答をすると、ポケットの中の金貨を握りしめた。
あのとき、父親からちょろまかした金貨である。
カイルはその金貨を父親の形見とし、後生大事に持ち歩いていた。




