番外編2 ちちはだいじ
カイルがお姫様と出逢うちょっと前のお話――
「カイルよ、お前はどんな娘が好みなのだ?」
見渡すばかりの青空の下、とある街道にて銀髪の少女は唐突に話しかけてきた。
「なんだよ急に、気持ち悪い」
「いや、お前が小児性愛者でないことはこの数ヶ月でよく分かったが、やはり私のような可憐な少女が横にいては間違いが起こることもあるかもしれないからな、一応、お前の好みを把握しておきたいのだ」
「お前は『杞憂』って言葉を知っているか」
「知っているよ」
エリーは間髪なく答える。
「知っているのと意味を理解しているのは同義語じゃないんだぜ」
「だから知っていると言っているだろう。なんならセレズニア共通語辞典の何ページのどこに書かれているか、諳んじて見せようか?」
言ってみろよ、と言ってやりたいところだが、やめておく。この女は本当に今までに呼んだ書物すべてを記憶しているのだ。
カイルは大きく溜息をつくと、エリーの質問に答えた。
「……そうだな、俺が女性に求める条件は六つだけだな」
「乳がデカイ、乳房が大きい、胸がデカイ、オッパイが大きい、胸がふくよか、デカパイ、の六つか」
「……つうか、お前は俺をどんな目で見ているんだ」
「乳だけでしか女の価値を計れない子供」
エリーは即答する。
カイルは抗弁するように言う。
「まてまて、それは大きな誤解だ。俺はそんな浅薄な男じゃないぞ」
「証拠はあるのか」
「証拠になるかは分からないが、俺が女に求める六つの条件に、乳に関する言葉は一切入っていない」
カイルはそう言いきると、六つの条件を披瀝した。
「ひとつ、俺は『小さな女』が好きだ。デカイ女はあんまり好みじゃない」
その言を聞いたエリーは少し気分を良くする。エリーは小柄だからだ。
「ふたつ、『ちゃんとしたご飯を作ってくれる女』が好きだ。いくら胸がでかくても料理ができない女なんて女じゃないね」
その言を聞いたエリーは更に気分を良くする。エリーは料理がそれなりに得意だからだ。エリーはわざとらしく咳払いしながら、
「今夜の料理当番を代わってやろうか」
と口にし、次の条件を尋ねた。
「三つ目は『ハキハキしている女』だな。家の奥で黙っているのが奥様の条件という奴もいるが、俺はよくしゃべる女が好きだ。陰気なのは好かん」
「ちなみに私も良くしゃべる方だな」
「確かにな。四つ目は、『抱きしめたくなるような女』だ。こう、守ってやりたくなるような女がいい」
「ほうほう、分かっているではないか」
エリーは上機嫌で返す。
「そんで、五つ目は、『いつもニコニコしている女』だ。やはり女の一番の化粧は笑顔だと思ってる」
「ふむ、それはちと難しいな。私はいつもクールにしているからな」
カイルは無理矢理笑顔を作ろうとしているエリーを無視すると、最後の条件を提示した。
「最期は、『慈愛に満ち溢れている女』だ。男は強くなければ生きている資格はないが、女は優しくなければ生きている意味はないと思う。戦いに疲れて帰ってきた男に安らぎを与えるのがいい女の条件だと思っている」
エリーはそう断言をしたカイルを少し見直した。
出逢ったときから女の中身ではなく、胸部中央しかみない子供だと思っていたが、話してみればいい女の価値が分かるまともな青年ではないか、と思ったのだ。
エリーは遙か年下の弟子を珍しく褒める。
「詐欺師にしてはなかなかの哲学を持っているではないか。それでこそ我が弟子だ。褒美に今夜のオカズは多めにしてやろう」
「そいつは有り難いな。まあ、俺は常に女にこの六つの条件を求めているが、ちょっと長すぎるのが弱点だと思っている」
「ふむ、確かに六つもあると覚えにくいな」
「ああ、だから、俺は覚えやすいようにこう略すことにしているんだ」
カイルはそう言うと六つの条件をすべて口にし、こう付け加えた。
「小さな女性、ちゃんとご飯を作ってくれる、ハキハキしている、抱きしめたくなる、いつもニコニコしている、慈愛に満ち溢れている。それぞれの頭文字を取って、『ちちはだいじ』だ。とても覚えやすいだろう?」
「………………」
悪びれずにカイルはそう言うと、
「ところで、今夜のオカズはなんなんだ?」
と、エリーに尋ねた。