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第5章 内乱終結

   

   †

  

 破軍のオグンを倒したカイルは、急いで王都の救援部隊に戻った。


 案の定、カイルが離陣している間に、王都の救援部隊は混乱していた。

 指揮を任せていた将軍は、カイルの顔を見ると、文字通り顔を輝かせた。


「か、カイル殿、どちらにいっておられたのですか?」


「ちょいと野暮用だ。で、状況はどうだ?」


 将軍は多少狼狽しながらも戦況を的確に報告してくれた。


「つまり、反乱軍に押し返されつつあるということか」


 カイルは舌打ちすると言った。


「ですが、カイル様が来てくれたからにはもう安心です! ささ、伝説の軍師様のお力を我々に見せてください」


 その言葉を聞いたカイルは、この将軍に俺はただの詐欺師です、と打ち明けたらどうなるだろう、と、思ったが、その衝動を抑えると言った。


「取りあえず、後方に待機させてある後詰め部隊を、敵陣右翼にぶつけろ」


「左翼ではなく、右翼にでございますか?」


「ああ、俺の見立てだと、左翼の方は俺がやらなくても、姫様がなんとかしてくれるはずだ」


 将軍はそれでも納得はいっていないようだが、伝説の軍師の言葉に逆らう気など毛頭ないようだ。


 部下に命じて伝令を送った。

 こうしてカイル率いる王都の部隊と、クルクス軍団の反撃が始まった。




 

 カイルが敵陣右翼を狙ったのは、一番浮き足立っていると判断したからだ。

 間近で破軍のオグンが討ち取られたところを見ているため、真っ先にその情報が伝搬したのだろう。


 士気が下がっている部隊を狙うのは常識であった。


 カイルは独語する。


「問題は、この意図にエリーが気が付いてくれるかだが……」


 一瞬だけ心配したが、それはカイルの杞憂だったようだ。

 エリーは見事にカイルの作戦に乗ってくれた。

 まるで生き物のように部隊を展開させると、敵陣左翼を包囲し始めたのである。


 それを確認したカイルは、

「さすがは本物だ」

 と、呟くと、自分の仕事に専念した。


 浮き足立っている右翼に突撃を仕掛けたのである。

 敵軍は見事に崩壊していく。

 あれほど強勢を誇った敵だが、崩れ去るときは一瞬であった。 

 




 反乱軍の両翼を破壊したカイル達は合流を果たした。

 まだ戦が終わったわけではないのだ。

 反乱軍の首領が指揮する白鳳騎士団は未だ健在であった。

 彼らは他の部隊が敗走を始めたというのに、未だに士気が旺盛で抵抗を止めなかった。


 カイルはぼつりと漏らす。


「もう、勝ち目がないのだから降伏すればいいのに……」


 それを横から聞いていたエリーは口を挟む。


「それが武人というものだよ。普通の騎士団ならば、とっくに崩壊していてもおかしくはない。だが、ティルノーグという男はそれほど士心を得ているのだろうな。罪作りな男だ」


「……どういう意味だ?」


「奴が無能ならば、白鳳騎士団はとっくに敗走していた。それならばこの戦い、とっくに終わっていたよ」


「奴が頑強に抵抗するから、死人が増える、というわけか……」


「その通り、《敵》も《味方》もな」


 カイルはその言葉を聞くとしばし考え込む。

 そしてフィリスのもとにおもむくと尋ねた。


「姫様、ティルノーグに降伏勧告してもいいか?」


 エリーは無駄なことを、と思い。

 フィリスは諸手をあげて賛同する。


 カイルは言う。


「そうだな……、ティルノーグは罰しないわけにはいかないが、命までは取らない。部下達の身分は保証する、というのはどうだろう?」


「そうですね。わたくしもそれがいいと思います。……ただ」


 フィリスは付け加える。


「わたくしはティルノーグを重罪にするのも反対です。彼の力は我がエルニカの役に立ってくれると信じています」


 カイルはその言を聞いて姫様らしいと口元を緩めたが、こうも思った。


(たぶん、そうはならないだろうけどな)

 と――。

 


 事実、降伏勧告に送った使者はすぐに戻ってきて頭を垂れた。


「申し訳ありません、取り付く島もありませんでした」


 ティルノーグは使者の書状を受け取ると、その場で破り捨ててこう言った。


「王女の厚意は有り難い。だが、俺にも意地がある。部下も最後まで共に剣を振るってくれるだろう。それに俺はこうも思っているのだ」


 ティルノーグは続ける。 


「人生、最後の戦が、白銀のエシルという伝説の軍師が相手で、自分はなんと幸せだったのだろうか、と。今、俺は最高の夢を見ているのだ。その夢を邪魔しないで欲しい」


 その言葉を使者から聞いたカイルは返答した。


「……馬鹿野郎が、血なまぐさい夢に酔いやがって」


 こうしてカイルとティルノーグの戦いは続いた。



 彼我の戦力差はすでに3倍以上離れていたが、白鳳騎士団は善戦した。

 カイルは寡兵となった敵軍を包囲殲滅しようと躍起になったが、ティルノーグはそうはさせまいと抵抗した。


 頑強な抵抗は、夕刻まで続いたが、それも終わりを告げる。


 乱戦のさなか、白鳳騎士団の指揮をしていたティルノーグの首筋に矢が突き刺さったのだ。

 ティルノーグは名も無き兵が放った矢によって、その生涯を閉じた。



 白鳳騎士団団長、サーパス・ティルノーグ――

 齢16で戦場に立って以来、あまたの武勲を打ち立ててきたエルニカ最強の騎士、その死を持って、エルニカの内乱は終わりを告げた。




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