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第5章 両軍激突!

   †


 フィリス率いるクルクスの兵と、ティルノーグ率いる白鳳騎士団は、正午丁度に激突した。

 小細工なしの正面衝突である。


 白鳳騎士団団長であるティルノーグは、

「白鳳騎士団に弱卒なし!」

 と、言い放ち、


 クルクス軍団の姫将軍であるフィリスは、

「クルクスの兵に臆病者はいません!」

 と言い放った。


 それらの言葉に偽りはない。

 白鳳騎士団とクルクス軍団は、エルニカ最強の集団なのである。

 まさしく最高の矛と矛がぶつかり合うような感覚であった。

 両軍はすさまじい勢いで剣と剣を交える。


「白鳳騎士団とは何か? 王家に仇成す逆賊である。逆賊に後れを取るなよ」


 不倒翁ザハードは兵士を鼓舞する。


「フィリス・エルニカなど恐れるに足らず。そもそもあの娘は国王の子ではないという噂さえあるのだ。この場にてその生首を()ねて陛下と同じ血の色をしているか確かめてやる!」


 白鳳騎士団の副団長アドリアーシュはそう言い放ち、フィリスを侮辱した。

 それに怒りを覚えたのは、不倒翁ザハードと鷹の目のウィニフレッドである。


「この賊軍め! 言うにことを欠いて姫様を愚弄するか!!」


 次いでこの二人は仲間割れを始める。


「ええい、あの男の首、私が貰う!」


「いや、ウィニフレッドよ、それは拙者の台詞だ。ここは年寄りに譲れ!」


「都合の良いときだけ年寄り扱いか、こればかりは(おきな)とて譲れない」


 果てしない言い争いの末、アドリアーシュを討ち取る権利を得たのは、ウィニフレッドであった。


 ジャンケンなる異世界のサクラが広めた決闘法で勝利したのである。


「翁よ、悪く思うなよ」


 ウィニフレッドはそう言うと馬を走らせる。


「地獄で再会したら、延々このことを愚痴ってやるわい」


 ザハードは悔しそうにウィニフレッドの後ろ姿を見送った。


 ウィニフレッドの得意とする武器は弓である。

 そしてウィニフレッドはエルニカ一の弓使いであった。

 ウィニフレッドほどの弓使いは、白鳳騎士団とて抱えてはいないであろう。


 また、ウィニフレッドは剣の名手でもあり、公私問わず、多くの敵をその剣で葬り去ってきた。

 だが、ウィニフレッドは腰の剣には指も触れず、弓弦を伸ばした。


 あえて弓にて相手を討ち取るつもりだった。

 それを見ていたアドリアーシュは笑い声を上げる。


「馬鹿か、貴様は。接近戦において弓を選ぶなど」


 アドリアーシュはそう言い放つと、ウィニフレッドが放った矢を剣でなぎ払った。


 ――なぎ払ったが、アドリアーシュはうめき声を上げる。


「うぉ、なんだと!?」


 アドリアーシュがうめいた理由は、一本だと思った矢の後ろにもう一本の矢があったからだ。


「ば、馬鹿な、あの一瞬で矢を二本連続で、しかも同じ軌道で放ったというのか!?」


「その通り!」


 ウィニフレッドはそう答えると、三本目の弓を放った。


「弓が近接武器に敵わないと誰が決めた? 俺クラスになると、剣も弓もそうは変わらない」


 ウィニフレッドはそういうと、今度はアドリアーシュの馬の眉間に弓矢を叩き込んだ。

 馬は大きないななきを上げ、絶命する。


「将を射んとせばまず馬を射よ、だ」


 ウィニフレッドはそう口にしたが、苦々しげに続ける。


「まったく、お前は本当に不快な男だ。俺は馬が大好きなのだ、その俺に馬を殺させおって」


 落馬したアドリアーシュは、しこたま腰を打ち付けると、ウィニフレッドを睨み返した。


「おのれ! 卑怯な真似をしおって」


「卑怯な真似をさせたのは、お前の舌のせいだ。もしも来世というものがあったら、今度は舌を持たずに生まれてくるのだな」


 ウィニフレッドはそう言い切ると、アドリアーシュにとどめを刺した。 





 緒戦でいきなり副団長を失った白鳳騎士団であるが、その士気はまだまだ旺盛(おうせい)だった。


「我らには団長がいる。団長が健在な限り、恐れるものなどなにもない」


 兵は口々にそう言い放ち、前進を続ける。

 一方、フィリス・ラドネイ連合もそれに負けず劣らず士気が旺盛だった。


「アドリアーシュを討ち取ったぞ! 副団長の次は団長だ! かかれ!」


 クルクスの兵はもちろん、ラドネイの手勢も(おく)することなく前進を続けた。



 状況はこのまま五分五分に進むかと思われたが、ここで戦局が変わる。

 破軍のオグンが前線にやってきたのである。



 破軍のオグンの圧力は圧倒的だった。

 先日、ケイロス将軍の千人隊長ワグナスを討ち取ったのは、伊達でも幸運でもなかった。


 オグンは愛斧シュバルツ・ハーケンを振り回すと、次々とクルクスの兵を討ち取っていく。


 それを遠目から眺めたカイルは舌打ちする。


「くそ、あいつが破軍のオグンか」


 エリーは答える。


「あれが破軍のオグンだよ。どうだ、あまり軍師らしくないだろ?」


「……たしかにな、なんか蛮族みたいな格好をしているな」


「だが、あれは見かけで人を判断するな、の典型例だ。一見、脳にも筋肉が詰まってそうなタイプに見えるが、あれでなかなか冷静沈着なタイプでもある」


 カイルは、戦斧から竜巻を起こすかのように兵士をなぎ倒していくオグンを見て感想を漏らす。


「つうか、あいつは完璧超人か。どんな男なんだ?」


「そうだな。天秤評議会では一番の若手だ。評議会に迎え入れられたのは20年ほどまえだろうか」


「つうか、お前のいくつ下だ?」


「ええと、たしか、……おっと、オグンの年齢から私の年齢を割り出そうとしても無駄だぞ」


「……っち、ばれたか。で、どういう経緯で軍師になったんだ?」


「小賢しい奴め。まあいい。あの男は、武を極めたので、次は智を極めたい、と、天秤評議会の門を叩いたのだ」


「天秤評議会ってのは、門を叩けば誰でも弟子入りさせてくれるのか?」


「まさか、普通のものは、天秤評議会がどこにあるかもしれないよ。だが、奴はどこで嗅ぎ付けたのか、天秤評議会の隠れ家を見つけると、その門を叩いた。いや、たたき割ったかな」


「たたき割る?」


「文字通りの意味だよ。何人たりとも通さない結界をあいつは紙でも切り裂くように突破してきた」


「……つうか、それって軍師と関係なくね? なんで弟子になれたんだ」


「それは当時の4番目の使徒トトスの後継者にしか分からないが、当時の私も『ほほう、面白い奴がきたな』とは思った」


「そのトトスの後継者って奴が弟子にしていなかったら、お前がしていたか?」


 カイルは冗談めかしていったが、エリーは案外、真剣に返す。


「まさか、私は筋肉ダルマは嫌いだ。奴は最終的には武力に頼る傾向がある。まだ小賢しくも戦を回避しようとする詐欺師の方がマシだな」


「……お褒めに預かり恐縮だよ」


 カイルはそう返すと、実務に入った。


「あのオグンとかいう男が化け物だってことはよく分かった。つうか、戦力的にはほぼ互角なのに、押され始めているのはあいつひとりのせいだ」


「その通り、奴の武勇はザハードやウィニフレッドをも上回る」


「指揮官のティルノーグの采配は俺よりも上か?」


「それは論評を差し控える。下だといえば付け上がるかも知れないし、上だといえば落ち込むかも知れない」


「俺の性格を分かってるじゃないか」


「お前との付き合いも長いからな。さて、ただ、戦力を考察しないと軍略もままならない、ここはお前とティルノーグの実力を互角としよう。ただし、個人的武勇はオグンのせいで向こうが上、兵士の数も向こうが上だ。その計算から導き出されるものはわかるか?」


「――敗北、だな」


 カイルは言葉を飾らずに言った。


「その通り。今は将兵が奮闘してくれているが、この状況、そう長くは持たないぞ」


 エリーは「で、どうするのだ?」と、目で尋ねる。

 カイルはしばしエリーの灰色の瞳を見つめると、こう言った。


「確かに、兵力でも、武勇でも負けているかも知れないが、俺はここでは負けていないと思っているぜ?」


 カイルは自分の頭を指さす。


「ほう、知謀では勝っていると」


「この頭は親が唯一残してくれたもので、師匠が鍛え上げてくれたものだからな」


「ならば御両親とお師匠様に感謝しろ。……で、その自慢の頭が生んだ知謀について聞かせて貰えるか?」


「ああ、いいぜ」


 カイルはそう答えると続ける。


「一見互角のように見える状況だが、お前は俺達に切り札が残されていることを忘れているんじゃないか?」


「切り札?」


「ああ、そうだ。反乱軍には絶対いない人材だ。いや、この世界にたった一人しかいない人物が、この軍団にはいるじゃないか」


 カイルの言葉にエリーはとある人物を想定した。


「……ふ、そういうことか。なかなか考えおるではないか」


「お褒めに預かり恐縮だ」


 カイルはそう返答すると、エリーに背を向ける。

 (くだん)の「世界に一人しかいない人物」に会いに行くのだ。

 エリーはその姿を見送ると、ぽつりと漏らした。


「あの娘のことだから、断りはしまい。――だが、その作戦はあの娘にとって大きな試練になるのだぞ。……カイルよ、お前は分かっているのか?」




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