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第4章 仲間達との再会

  †


 カイル達は、月光城の応接間に集まった。


 そこには、散り散りになったクルクス砦の連中が集まっている。

もしもはぐれた場合、各自、ラドネイの城に直接向かうよう指示していたのである。


 カイルは集まった面々を見回すと、安堵の溜息を漏らした。

 ほとんど欠けることなく、仲間達が集ってくれたからである。



 ウィニフレッドはいつものようにキザに微笑み。

 アザークはいつものように不機嫌に顔をしかめ、

 年若い百人隊長達は、先日の武勲を誇らしげに語り、

 壮年の兵士は皆の再会を心から喜んでいた。



「というか、軍師殿が一番遅れて現れたぞ? 道中なにかあったのか?」


 ウィニフレッドは無遠慮に尋ねてくるが、カイルはあえて不惑の森でのことを語らなかった。


 姫様を危険な目に遭わせたことが知られれば、そこでむくれヅラをしているアザークがギャアギャア言ってきそうだし、話すと長くなるからだ。



 それに――



 カイルはとある少女の姿を探すのに忙しかった。

 カイルは先ほどから、ちんまい銀髪の少女の姿を探したが、この部屋に彼女はいなかった。


 カイルは急に不安になる。


 あの小娘のことだから、絶対に死ぬわけがない、とたかをくくっていたが、それはカイルの自信過剰だったのだろうか。


 エリーもやはり人の子、女の身、あの乱戦を切り抜ける器量はなかったのだろうか――。


 焦燥感に駆られたカイルは、アザークに近寄り、声をかけた。


「アザークよ、エリーを見なかったか?」


 アザークは、不思議そうな顔をしながら返した。


「見るも見ないも、お前の横にいるではないか?」


 もしもエリーがエリーでなければ、その言葉は怪談を想起させたが、カイルはエリーがエリーであると知っていた。


 この女、平然とこういうことをするのである。


 カイルは振り返らずに言った。


「つうか、悪運の強い女だな」


 エリーはさも当然のように返す。


「悪運は良い軍師の必須条件だ。ところで、カイル殿、さきほどから浮かない顔というか、何かをお探しのようですが、何をお探しですかな?」


 この女は知っててからかっているのだから性質(タチ)が悪かった。


 カイルは腹立たしかったので、わざと舞台俳優のように大げさに言った。


「いや、奴隷を一人湖に落としてしまって探しているのです」


 ちなみにこの会話の元ネタは、古い童話である。

 ある奴隷の主が、死にかけた奴隷を湖に落としてしまったが、そこに湖の精霊が現れて尋ねるのである。


「あなたが落としたのは、屈強な奴隷ですか? それとも美しい奴隷ですか?」


 この話のオチは、いくつもある。


 正直に死にかけた奴隷と答え、精霊から屈強な奴隷を貰う、が基本形であるが、

 実はこの湖は、役に立たなくなった奴隷を捨てるゴミ捨て場だった、という(いや)なオチもある。生き延びた奴隷が屈強な傭兵となり、主人に復讐するという話に繋がるのだ。


 ちなみにカイルの一番好きなオチは、

「私が落としたのはあなた様への恋心にございます」

 と、言って、水の精霊そっくりの美少女をゲットする話である。


 ――話はそれたが、カイルはエリーがなんと答えるか、興味があった。


 エリーは言う。


「若者よ、お前が落としたのは銀髪の美少女か? それともたぐいまれない知性と美貌を誇る女か? それともエリーという名の可愛らしい娘か」


 つまり、返品交換はきかないぞ、ということらしい。


 カイルは、

「俺が落としたのは、巨乳の奴隷だよ、はよ、返せ」

 と、呆れながら言った。


 エリーはすました顔で、

「そんなものは落ちてきていないが、まあ、あと、10年待て、お前の希望に添えるように努力しよう」

 この期に及んでまだ諦めていなかったのか、が、カイルの感想だったが、それ以上吐息は漏らさず、素直にエリーの帰還を祝った。


「まあ、無事で何よりだ。そこそこ心配してたんだぞ」

「誰かさんが身体を張ってくれたおかげだ」


「誰かさんね、まあ、優しい御仁もいたもんだ。俺はてっきり、重荷になるからと、捨ててきたのかと思った」


 カイルはそう言い切ると、エリーは、

「まあ、そういうことにしておこうか」

 と、顔をほころばせた。


 しかし、すぐに表情を戻すと、軍師の顔立ちになる。


「さて、運良く敵の包囲網は突破できたが、ここからは運だけではどうにもならないぞ」


「その運とやらも自分で切り開いてきたつもりだがね」


「分かっている。だが、世の中には自分の力だけでは切り開けぬ道もある」


「つまり、ラドネイは味方にならない、と?」


「今のところはな。たぶんだが、あの御仁は味方につくつもりはないようだ」


 なぜ、そんなことが分かるんだ、と無粋なことは言わない。


 この女、これでも天秤評議会屈指の軍師で、あらゆる情報を元にそう判断したのだろう。


 だからカイルは代わりに、どうやればラドネイを説得できるか尋ねた。


 エリーの答えは単純なものだった。


「わからん」


 エリーはそう言い切るとこう続ける。


「分かっているなら、姫様に入れ知恵をして、とっくに味方に引き込んでいる。私が分かっているのは、あの御仁、なにか心につかえるものがある、ということだけだ。それさえ取り除けば、容易くこちらについてくれるとは思うのだが……」


 カイルは一応尋ねる。


「その心につっかえるものがなんだか分かるか?」


 エリーは即座に返す。


「分からん。だが、それを見つけるのが、白銀のエシル様の仕事だと思うがね」


 エリーは人の悪い笑顔を見せた。


(都合のいいときだけ本物扱いしやがって……)


 カイルはそう思ったが、言葉にはせず、この場から立ち去った。

 エリーは背中越しに語りかける。


「どこにいくのだ?」

 と――。


 カイルは一言、

「情報を集めてくる」

 と言い放った




 カイルは月光城の中を散策する。

 さすがエルニカで二番目の規模を誇るらしく、城の中はとてつもなく広い。

 歩いているだけで迷子になりそうだが、カイルがまず訪れたのは、城の炊事場だった。


 端女(はしため)達がせわしなく料理の準備をしている。


 本日は予定にない客が20人以上来たためだろう、しかし、誰ひとり恨み節を言うことなく、カイルの質問に答えてくれた。


 カイルはまず、この城の主、ラドネイのひととなりについて尋ねた。

 使用人達の答えは、一定している。


「とても良い旦那様です。大貴族であらされるのに、威張ることもないし、武張ったところもありません。わたしのような新参者にもお声をかけてくださる気さくな方です」


 通常、使用人が客人に主の悪口をいうことなどありえないが、ラドネイの場合は本当に慕われてるのだと想像できる。


 男女問わず、使用人すべてに心の底から好かれているようだ。

 カイルはそれを確認すると、次の質問に移った。

 この砦を散策して奇妙に感じたことを尋ねる。


「てゆうか、ラドネイ公は芸術に無関心なのか?」

「と申しますと?」


 年若い端女(はしため)が問い返す。


「いや、城にかかげられてる絵の半分が酷いセンスだったから」


 それを聞いた端女は、表情と答えの選択に困った。


「……センスのない絵とは、……もしかして独特の筆遣いの絵のことでしょうか」


「そうそう、あの下手くそな奴」

「……わ、わたしは個性的だと思います」


 端女はそう言葉を濁したが、結局、その絵の正体を教えてくれた。


「あの絵は、ラドネイ様のご息女、シルディア様の描いた絵です」


 その答えを聞くと、「なるほど」と察した。

 確かラドネイ公爵本人の部屋にも彼女の絵はかかげられていた。

 最初は高名な絵師が描いた抽象画かと思ったが、娘が描いた絵だと聞き、納得したものだ。


 カイルはこれらの事実から、とある結論に達した。


「もしかしなくてもだが、ラドネイ公爵は娘を滅茶苦茶可愛がっている?」


 カイルの質問に端女は即答する。


「はい、目に入れても痛くない、とはあのようなことを言うのだと思います」


 カイルはそれですべて納得したが、気になる点もあった。


「てゆうか、それでそのお嬢様はどこにいるんだ? かなり散策したが、出会うことはなかったぞ」


「それは当然でしょう。シルディア様は大変人見知りの激しいお方、このような騒がしい日に部屋を出ることはありません」


「なるほどね、深窓の令嬢タイプか。ああ、そう言えばやたらと警護が厳重な一角があったな。あそこが姫の部屋か……」


 カイルはそう口を開いたが、質問したのは別のことだった。


「ちなみに、シルディア嬢は美人か?」

「はい、とても美しい方です」

「巨乳?」


 カイルの直球に戸惑う端女だったが、

「そ、それなりにふくよかなものをお持ちです」

 と、答えてくれた。


 カイルは腕を組み考えると、最後にこんな質問をした。


「ちなみに今夜の晩餐会に、彼女は出てくるのか?」


 その質問の答えを聞いたカイルは、とある想像を駆け巡らせる。

 ちなみに端女の答えはこんなものだった。


「いえ、それが、お嬢様はここ最近、誰の前にも姿を現さないのです。今夜の晩餐会にもきっと姿を現さないでしょう」


「そこまで人見知りなのか?」


 カイルは尋ねる。


「恥ずかしがり屋さんではありますが、客人に礼を失するようなお方ではありません。何卒、お許しください」


 端女は敬愛するお嬢様の代わりに頭を下げた。

 カイルはその姿を見下ろしながら、思案にふけった。




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