第2章 断裁のユーフォニア
††(ユーフォニア視点)
ジュオンの一族とカイルの死闘があった場所―、
そこに一人の美女の死体が転がっていた。
彼女の名前は、断裁のユーフォニア。
天秤評議会の軍師にして、このジュオンの森の主だ。
いや、《だった》、と訂正すべきであろうか。
彼女は、無残にも首を刎ねられ、その身体を冷たい土に横たえていた。
或いは、事情を知らないものならば、首と胴が分離したその死体にさえ欲情し、よからぬことを考えるものもいたかも知れないが、このジュオンの森にそのような不埒ものはいなかった。
ジュオンの森の戦士は、この美しい女が、獣の心と悪魔の身体を持っていることを知っているからである。
死体であったはずのユーフォニアはむくりと起き上がると、手近にいた男にささやいた。
「わたしの顔をとってちょうだい」
分離した頭がそう言っているのだから、現実感をともなっていない。
ただ、男は黙って指示に従うと、こう言った。
「おおせのままに――」
そしてユーフォニアに言われるまでもなく、針と糸を取り出すと、彼女の首と胴を縫い始めた。
奇っ怪にして奇妙な光景だったが、これは悪夢ではなく、現実だった。
半刻後、ユーフォニアの胴と首が結合されると、ユーフォニアは手鏡を取り出し、自分の姿を覗き見た。
縫合の手際は所詮男のものだったが、悪い出来ではなかった。
ユーフォニアは珍しく部下に礼を言うと、こう言い放った。
「ここまで出し抜かれるなんて何百年ぶりのことかしら」
賛辞を送っている相手は、もちろん、カイルのことだった。
ユーフォニアは敵将を過小評価しない。
その実力に見合った賛辞も送るが、受けた屈辱は何倍にもして返すタイプだった。
「まあ、今日のところは勝ちを譲ってあげるけど、見てなさい。そのうち、貴方の大切なお姫様を目の前で切り刻んであげるから」
ユーフォニアは不敵に微笑むと、その現実が早く訪れるよう、心から願った。