表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/99

第4章 カイルとエリー

 

   †


 こうして、カイルは、たったの5000兵でマリネスカ砦を落とし、ハザン両王子の軍隊2万を打ち払ったのである。


 元々、白銀のエシルとして、三顧の礼で迎えられたカイルであるが、今回の武勲は、クルクス砦の将兵達の士気を大いに上げた。

 もはやカイルを偽物だと疑う者は誰一人としていなかったし、今更偽物です、と告白しても信じる者はいないだろう。


 それほどまでの信頼を勝ち取ったのだ。

 自然、カイルは女にもてるようになる。

 特に部下であるイーリスなどは、盲目的なほどだった。


 ザハードなどに、「イーリスの奴は、カイル殿が歩いた足跡にまで接吻(せつぷん)をしかねない」と表されるほどだった。


 事実、戦勝の宴になると、イーリスはカイルの側を離れなかった。


「わたしは実は、戦において軍師などは飾りとしか思っていなかったのです。だが、それは大いに間違いでした。軍師様とはこれほどにすごい存在だったのですね」


 べた褒めである。

 悪い気はしない。いや、それどころかこれ以上ないほど鼻高々である。

 更に酒が入ると、イーリスの言動も過激になる。


「わたしは伯爵家の一人娘として生まれ、幼い頃より剣に明け暮れてきました。ですが、先日、父と後妻の間に男の子が生まれてしまったのです。ゆえに、爵位を継ぐことも叶いません」


「それは酷い話だな、手のひら返し、という奴か」


 カイルは同情する。


「いえいえ、それはいっこうに構わないのれふ。いえ、です。むしろ、千人隊長となり、この腕を自由に振るえるのですから、父には感謝していまふ。じゃなかった。しています」


 この娘どうやら酒に弱いらしく、ろれつが回っていない。

 その髪と同じく、顔も真っ赤である。

 イーリスの主張は続く。


「いえ、それろころか、こうしてカイル様という伝説の軍師と巡り会わせてくれるチャンスをくれたのれふ。父には感謝の言葉しかない」


 そしてカイルの胸に顔を埋めると言った。


「ところで、カイル様ぁ、カイル様は頭の悪い女は嫌いですか?」


 カイルは答えに困る。

 どう答えれば最良の道が開けるか、迷ったのだが、結局、頭が悪い方にした。


 視界に頭がいい女が目に入ったからだ。

 見ればエリーは先ほどから、ワインを片手にこちらの方を睨み付けている。

 頭のいい娘は、乳に栄養がいかないというし、そもそもエリーのように口達者な女は好みではなかった。


 ゆえに、カイルは「馬鹿な女」と答えたのだが、その答えはイーリスの満足いくものだったらしい。


 ていうか、どちらに答えてもイーリス的には良かったっぽい。

 カイルが頭のいい女と答えれば。


「そうですか、なら頭のいい女になります」と答えただろうし、

 頭の悪い女と答えれば、このように答えたはずだ。


「良かったぁ、わたし、実は頭悪いんですよ。子供の頃から剣ばっかり振るって。でも、わたし自身、最近、馬鹿な男よりも頭の良い男を魅力的に感じてしまって。てゆうか、カイル様、こうは思いません? もしもわたしたちの間に子供が生まれたら、最高の子供になると思いませんか? わたしの武力と、カイル様の知謀を備えた子供になるんです。覇王アカムなんて目じゃないほどの子供になるはずです」


 イーリスはそう言うと猫なで声を上げた。

 



 さて、この状況下で勘違いできるほど、カイルは間抜けじゃなかったし、

 据え膳を断るほど、純情でもなかった。


 カイルは、イーリスを先に自室へ帰らせると、ひとり悶々と宴の席に残った。

 すぐに部屋に戻らなかったのは、一応、この宴の主賓だからである。


 もしも関係ない宴ならば、速攻で切り上げていた。

 カイルは一応、今回の戦で健闘した諸将全てに声をかけ、その労をねぎらった。


 諸将達も次々とカイルの手腕を賞賛してくれた。

 皆褒め称えてくれたが、その言葉は世辞ではなかった為、必然的に時間が掛かる。


 褒められるのは嬉しいが、正直、今のカイルには馬耳東風だった。

 一刻も早く部屋に戻りたいのだ。


 カイルは頃合いを見計らって、宴の席を離れたが、客観的に見れば早い退場だったかもしれない。


 てゆうか、明らかに不審な目を向けられたが、かまうことはなかった。

 カイルは浮かれながら自分の部屋に戻った。

 そしてカイルは、自分の部屋で絶望する。



   †



 カイルはイーリスのしなやかな肢体を妄想しながら、自分の部屋に戻ったのだが、そこに居たのは件の娘ではなく、別の娘だった。 


 ただし、貧乳ではない。


 つまり、エリーでもサクラでもなかった。

 知らない女が、カイルの部屋で待ち構えていたのである。


 カイルは女を観察する。


「………………」


 つま先から頭部まで眺めてみたが、やはり知らない女だった。


 ただ、美人ではある。

 特に胸回りがスゴイ。

 つまり巨乳だ。


 露出が派手というか、下着のような格好にマントを羽織った女で、一見すれば商売女に見えなくもないが、商売女ではない。


 顔立ちがその手の女とは違った。

 高貴というか、自尊心にあふれているのである。


 カイルは、浮かれた気持ちを振り払うと、女に質問をした。


「つうか、女と約束をしていてね。こんなところで鉢合わせしたら、あらぬ誤解を招くから、お引き取り願えないか?」


 その言葉を聞いた女は、微笑を浮かべながら返す。


「その娘なら自分の部屋で寝ているわ。あの娘、酔うと人に抱きつく癖があるみたいね。口では大きなことを言うけど、まだ生娘みたい」


「まじで?」


「ええ、残念ね、今宵(こよい)の相手を逃してしまったみたいで」


「いや、そっちじゃなくて生娘の方だ。つうか、生娘は困るな。ベッドインしたら、そのまま教会に連れ込まれそうだ」


「………………」


 カイルの冗談に呆れたのだろう、女はしばし沈黙すると、


「噂通りの男ね。常に人を喰ったような態度を見せて、その本心は決して人に見せない。セイラム様が気にかけるのも分からなくはないわ」


 と、吐息しながら言った。


「……セイラム」


 その言葉を聞いてカイルは理解した。


 このエロイ格好をした姉ちゃんは、漆黒のセイラムの関係者らしい。

 奴直属の部下か、もしくは奴の同僚、天秤評議会の軍師か。

 どっちかは判別できなかったが、女は自分から身分を明かしてくれた。


「私の名は、天秤評議会の軍師、断裁のユーフォニア。三番目の使徒マガトの後継者よ」


「なるほどね、軍師様の方か、俺はてっきりセイラムの部下だと思った」


「私はあの方に忠誠を誓っているから、部下といっても過言ではないかもね。でもどうして私が軍師ではないと判断したの?」


「知り合いの天秤評議会の軍師が、皆、乳なしだからな。天秤評議会の軍師は、貧乳娘しかなれないか、天秤評議会になったら縮むのかと思っていた」


 その言を聞いたユーフォニアは、

「なるほどね」

 と、くすくすと笑った。


「でも、あの二人は特別よ。あんなちんまい軍師、なかなかいるものじゃないわ」


「なるほど、それを聞いて安心した。俺も軍師になったら縮むんじゃないかと気が気じゃなかったんだ」


「へえ、その言葉だと貴方、エシルの弟子になったの? あいつの後を継ぐ気になった?」


「天秤評議会なんて組織に入る気はないが、まあ、姫様の軍師になるのは悪くないと思っている」


「つまり、龍星王フォルケウスに、いえ、漆黒のセイラム様に対抗する気?」


「結果的にそうなるかもな。奴がこのエルニカに牙を剥くつもりなら」


「そう。ならば貴方は私の敵ということね。もうじき、セイラム様はこの地に攻めるつもりだし」


「やっぱそうか。まあ、でも、もうしばらくは仲良くできるだろう。お前さんのボスでもジルドレイを落とすのは容易じゃないぜ」


 カイルはそう言い放ったが、その言を聞いたユーフォニアは、笑い声を漏らした。


「なんだよ、俺、可笑しいこと言ったか?」


「ごめんなさい。笑ってしまって。でも、人間、無知ほど怖いものはないわね、と思って」


 カイルは言い返してやろうかと思ったが、相手の言葉を待った。


「貴方たちの情報網では、まだセイラム様がルシフェンタールを倒した、という情報しか伝わっていないでしょうが、実はもうセイラム様はジルドレイの帝都間近に迫っているのよ。一両日中には、ジルドレイ滅亡の報が、大陸中を駆け巡るでしょうね」


「………………」


 カイルはまさか、とは言わなかった。

 先日フィリスに講義したが、そんな予感を以前から抱えていたのだ。


 ただ、まさかこんなにも早く、ジルドレイが落ちるとは思っていなかった。

 早くてもあと半年、上手くいけば一年くらいの猶予があると思っていたのだ。

 その間に、エルニカ国内でフィリスの地歩を堅め、王妃との問題を解決できれば、フォルケウスに対抗できると思っていたが、カイルの計算は大きく外れたことになる。


「無言になってしまったわ。ごめんなさい、そんなにショックだった?」


 ユーフォニアはからかうように声を上げる。


「……いや、想定済みだから別に。それに、俺はお前の言葉を信じたわけじゃない。俺を惑わす偽報かもしれん」


「あらあら、案外、慎重なのね。そうね、あまり人の言うことを鵜呑みにしちゃ駄目よ。でも、あと数日で分かることだから、それを前提に戦略を組んでおくのも、軍師の大切な仕事よ」


「なるほどね、為になるわ。つうか、仮にもしあんたが俺の立場なら、あんたならどうする?」


「そうね、まずはその腰の物で私の首をはね飛ばすわ。この断裁のユーフォニアが敵の真ん前にやってくるなんて、早々ないのだから」


「なるほどね。でも、それはできないな」


「どうして? もしかして貴方、女は斬れないってタイプ?」


「まあ、それもあるが、俺の見立てたところ、あんた、それなりの使い手だろ? 早々上手くいかないと思う」


「……賢明ね。やっぱり、貴方、すごいと思うわ」


 ユーフォニアはそう言うと、本題に入るわ、と言った。

 ユーフォニアは、カイルの了承を待つことなく、話を始める。


「まあ、さっきの話が偽報か偽報じゃないかは別にして、本当の話だとして交渉させて貰うけど」


 ユーフォニアはそこで一呼吸置くと、こう続ける。


「ずばり、言わせて貰うけど、どう? 貴方、セイラム様の部下にならない?」


「俺がセイラムの部下に?」


「そう、これは大変名誉なことなのよ。セイラム様は滅多なことで弟子を取らないのだから。セイラム様は貴方を弟子にして、自分の名跡、13番目の使徒アプリトスの後継者、を継がせてもいいとおっしゃっているのよ」


「へえ、どこかで聞いたような話だ」


「あんな貧乳娘の話なんかと比べないことね。二番目の使徒ウルクスルの後継者なんかより、13番目の使徒アプリトスの後継者の方がよっぽど格上なんだから」


「俺にはどう違うかもわからねーよ」


「世人は先に弟子になった方が偉いと思い込みがちだけど、最後に弟子になったアプリトスは、天秤評議会の組織改革に着手して見事――」


「いや、つうか、長くなりそうだからそういう話はいいから」


 ユーフォニアは「あら、そう」と残念そうに言うと、

「まあ、名跡はともかく、実際、天秤評議会の軍師としても、セイラム様の方が遙かに格上よ。その才能は、歴代の軍師達の中でも随一、いえ、天秤評議会を作られたザナルカンドの再来と謳われているお方よ」

 と、言い切った。


 大げさな、とカイルは思ったが、確かにセイラムという男は、たったの一年でフォルケウスにロウクスを統一させ、ジルドレイの数万の大軍をも打ち破ったのだ。


 エリーも、セイラムの才は、自分よりも遙かに上、と言い切っていたし、この女の表現もあながち大げさでもないのかもしれない。



 ――だが。



 カイルはそれでも、この女の言葉に従うつもりはなかった。

 カイルは、腰から剣を抜き放つと、女に突きつけた。


「……それが答えというわけ?」


 ユーフォニアは苦々しげに言った。


「つうか、俺は天秤評議会の軍師の位にまったく興味がない。だからそんなもんちらつかされてもまったく効果はないぜ? 自分が欲しい物が人にとっても大切だなんて思い込んでると、いつか痛い目を見るぞ」


「――ならば、お金は? 貴方は、詐欺師なのよね? 村々を騙して小銭を稼いでいたのよね? いくら用意すればいい? 金貨10000枚ならば、3日で用意するわよ」


「残念、俺の師匠曰く、持ち慣れない金は絶対に持つな、詐欺師には宵越(よいごし)し金と、酒と女があればいいそうだ」


「ああ、女が欲しいのね。ならば好みの女をおっしゃいなさい。大陸中から集めてきてあげる。貴方好みの女をね。貴方がナニをしろといえばするし、死ねと言えば死ぬような女よ。それならば文句はないでしょう?」


「下品な女だな。生憎と、自尊心のない女は、男よりも嫌いでね」


 カイルはそう言いきると、

「ああ、もしも、今から言う女を用意できたら、仲間に加わってやらなくもない」

 と、思い出したかのように付け加えた。  

   

 ユーフォニアは、不機嫌に尋ね返す。「どんな女よ」と。


「エルニカ王国の第三王女で、第四王位継承者で、優しくて、民思いで、美人で、お淑やかで、くそ真面目で、なんでもかんでも自分で抱え込もうとする不器用で巨乳なお姫様だ」


 カイルはそう言いきった。

 つまり、フィリス以外に仕える気はない。

 と、言い放ったのである。


 その言を聞いたユーフォニアは、「呆れた」と一言漏らすと、

「分かったわ。つまり、セイラム様に仕える気はない」

 ということね、と締めくくった。


 そして、一歩下がると、こう言った。


「まあ、いいわ。貴方を仲間に加えたい、とおっしゃったのは、セイラム様だけだもの。私は反対だったし、龍星王は、戦場で貴方とまみえたいと言っていたわ」


「おいおい、そういうのは本人の前で言うなよ」


 カイルは(うそぶ)く。


「ふふん、ごめんなさいね。私、正直だから」


 断裁のユーフォニアは、そう言うとカイルの前から一歩下がり、背中を向けた。

 斬り捨てるならば今しかないが、なぜだか、カイルは剣を振り上げることはできなかった。


 カイルは黙ってユーフォニアの後ろ姿を見送ると、ユーフォニアと入れ違いで入ってきた少女に視線を移した。


 断裁のユーフォニアと、本物の白銀のエシルは、すれ違いざま、視線だけ交差させたが、言葉を交わすことはなかった。

 その姿を見て、カイルは二人に因縁、特にユーフォニアに負の感情を感じたが、そのことを尋ねたりはしなかった。


 カイルは代わりに、ノックもすることなく部屋に入ってきたエリーに言った。


「つうか、女性が来訪中だったんだけど、お前の辞書に、気を利かせるとか、配慮とか言う言葉はないの?」 


 エリーは堂々と言う。


「おっと、こいつは失礼。あの雌狐を女としてカウントしていなかった」


「カウントしようがしまいが邪魔するくせに。この前もセフィールちゃんとの恋路を邪魔しやがって」


「純朴な侍女を悪漢の手から救い出した、と言い換えて貰おうか。――というか」


 エリーはそう(うそぶ)くと、カイルにユーフォニアと話した内容について問いただしてきた。


「あの女、なにを話しにきたのだ? まあ内容は大体察することができるが」


 隠すようなことでもないので、正直に話す。


「――なるほど、やはりヘッドハンティングにきたのか」


 エリーはそう呟くと、

「で、ぶら下げられた人参はなんだったのだ」

 と、問うた。


 カイルは正直に答える。


「なんでも俺の言うことを聞く巨乳ちゃん達と、金貨10000枚」


「ほう、それを即座に断ったのか。大した胆力だ」


「まてまて、どうして俺が断ったと言い切れる。もしかしたら、敵に寝返ったかもしれんぞ」


 カイルは真顔で言ったが、エリーは「いいや」と言い切る。


「お前がそんな誘いになど乗るものか。お前はなんだかんだいっても金でなびく男ではないしな」


「でも、女でなびくかも知れないぜ」


「それもないな。この部隊には、私を筆頭に、美女があふれている。こんなハーレムな職場、お前が放棄するわけない」


「美人って……、まあ、ツラだけはいい方だけどさ」


 カイルはそう嘆息(たんそく)する。


「それに、お前は案外義理堅い。姫様に対してもだし、私に対してもだ」


「……つうか、姫様はともかく、お前に対する義理は一切ないぞ」


 カイルはそう言い切ったが、エリーは即座に、



「ヒント一。敵兵に囲まれていたところを助けてくれた軍師」

「ヒント二。全身に矢傷を受け、高熱にうなされてた男を甲斐甲斐しく看病した女」

「ヒント三。その後、軍略に兵法を手取り足取り教えて上げた優しいお姉さん」



 と返した。

 それを言われてしまえば、ぐうの音も出なかった。

 だが、エリーが調子づき、



「ヒント四。ファーストキスを捧げた年上の美少女」



 と、付け加えたのは、看過できないものがあった。


「待て待て。俺がいつ、お前にファーストキスを捧げた。聞き捨てならない」


 その言を聞いたエリーは、

「なんだ、お前はもうとっくに済ませていたのか。童貞だと侮っていたぞ」

 と、あっけらかんに言った。


「お前は覚えていないだろうが、お前が高熱でうなされていたとき、水すら飲まなくなったお前の口に私は甲斐甲斐しくも口移しで水を運んでやっていたのだぞ」


 カイルは思わず、自分の唇に手を添えてしまう。

 そしてエリーの唇に視線を移してしまうが、その唇は桜色に塗れていた。

 思わず赤面してしまったので、視線をそらすが、そんなカイルにエリーは小悪魔のようにささやいた。


「なんだ。本当にあのときのことを覚えていないのか。お前はともかく、私にとってあれがファーストキスだったのだぞ」


 エリーはそう言うと吐息する。


 カイルはそれでも「知らん」としらを切り通すが、エリーはじっとこちらを見つめると、こう言い放った。


「むう、なんだか段々腹が立ってきた。こちらは乙女のファーストキスだったのに、お前は覚えてもいないというのか」


「つうか、そんなことで怒るな。俺は意識不明だったし、あれは緊急事態だ。つまり、ノーカンだよ、ノーカン。お前も早く忘れちまえ」


 カイルはそう言い放ってこの件を終えるつもりだったが、エリーはそれを許さなかった。


「てゆうか、なんだか本当にむかついてきたぞ」


 そう言い放つと、カイルの鼻をつまんだ。


 カイルは、

「なにをするんだ?」

 と鼻声で言ったが、エリーの答えは無慈悲だった。


「こうすれば(いや)でも口に意識が集中するだろう?」


 そして、なんの前触れもなく、顔を近づけてくると、その唇をカイルの唇と重ねさせた。


「そしてこうすれば一生忘れられないキスになるだろう? いくら記憶力に問題があるお前でも、鼻をつままれたままされたキスくらい、忘れられないだろうから」


 エリーはそう言うと、無表情に微笑んだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ