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第1章 第二の爆弾

  †

   

 軍師らしく、土下座と話術によってアザークを説き伏せると、太陽が昇っていた。

 結局、最後はクローゼットの中の実物を見せて納得させたが、そんな単純なことをさせるのにもそれくらいの時間を要したのだ。


 まったく、頭に血が上った女というのは、目覚め立ての紅蓮熊よりも性質(タチ)が悪い。


 カイルはそう思ったが、口には出さなかった。


 代わりに口を開いたのは、アザークだった。


「この砦に爆薬が仕掛けられているだと?」


「一個は解除したから、あと二つだな。っておい、どこに行く?」


「知れたことよ、姫様だけでも避難して頂く」


「第三者にばらしたら、その時点で起爆すると言ってるんだぞ?」


「し、しかし……」


「仮に姫様の安全がそれで確保されたとしても、その後、それを知った姫様はどう思うだろうな」


「………………」


 アザークは沈黙する。どうやら意味は伝わったようだ。

 相変わらず姫様一筋の直情騎士様である。ある意味、扱いやすい。


「まあ、そんな顔するな。つうか、期限内に残りの爆薬をすべて解除すれば、問題ないんだ」


 カイルはあえて自信たっぷりに言う。

 その言を聞いたアザークは、「う、うむ、そうだな。これはオレたちで解決するしかないのだな」


 と、同意すると、カイルに視線を向けた。

 この先どうするのだ、とその目は問うていた。


「まずはここで二つ目のヒントを解読しよう」


 カイルはそう提案したが、アザークは、

「こ、ここでか?」

 と、どもる。


「俺の部屋に戻るわけにはいかねーし、廊下で相談するようなことでもないだろう」


「し、しかし、明け方に男女が同じ部屋で密談するなんて……」


 アザークはもじもじ、と指を(もてあそ)び、「それに」と付け加えると、

「そ、それに、この部屋は大変汗臭い。昨日、剣の訓練を終えた後、湯浴みもせずに寝てしまったし、あ、あと、ちょっと散らかってるし……」


「そうか?」


 カイルは、その言葉を聞き、クンクンと鼻を鳴らし、部屋を見渡しが、匂いもしないし、汚れてもいない。


 というか、寧ろ甘酸っぱいいい匂いがするし、小綺麗に片付けられているように見える。


 しかし、その様子を見たアザークは、

「ば、馬鹿者! 嗅ぐな! 見るな!」

 と、カイルを部屋から追い出し、

「40秒で支度する」

 と、部屋の鍵をかけた。


 無論、40秒で終わるわけがないのだが、しばらくすると、ガチャリと扉開け、中に戻してくれた。


 カイルは室内を見渡したが、どこがどう変わっているのか分からない。

 窓が開けられている以外変化はないように思われる。

 カイルには何がしたかったのか理解できないが、アザークが女の端くれあることだけは分かった。


 無論、本人には言わないが。


 アザークがなぜ、男装しているか、詳しい事情は知らないが、隠そうとしているのだから触れてやらないのが礼儀というものだろう。


「よし、さっそく本題に入るぞ」


 カイルはそう宣言をすると、二枚目の手紙を開いた。

 手紙にはこう書かれていた。



「太陽がもっともいきり立つ時、収束されし光が僅かな希望を焼き切るだろう。

 規則正しい者が死に、自堕落な人間が生き残る。

 なんと皮肉なことか」



 その文章を読み終えると、カイルは頭をかきながら、

「やはり直接は教えてくれないよなあ」

 と言った。


「当たり前だろう。直接書いたらゲームにならないではないか」

「その通りで。つうか、やけに落ち着いているな、お前」

「当たり前だ。なぜなら、こんな暗号、簡単に解けるからな」


「お、マジで? お前、もう分かったの?」

「分かるわけないだろう。オレは騎士だぞ」

「じゃあ、なんでそんなに偉そうなんだよ」


 カイルはジト目で問うたが、アザークの答えは簡単だった。


「なぜって、お前は天秤評議会の軍師なのだろう? こんな謎かけ、簡単に解けるに決まっているじゃないか」


「………………」


 その答えを聞いて、カイルは改めて自分が白銀のエシルの偽物であることを思い出したが、心の中で舌打ちした。


(白銀のエシルという虚名も、場合によりけりだな)

 と――。




 アザークという女騎士に全幅の信頼を寄せられてしまったので、カイルは渋々と暗号を解読することにした。


「まず、太陽がもっともいきり立つ時、収束されし光が僅かな希望を焼き切るだろう。という、一文だが」


「太陽が最もいきり立つ時か、ううむ、難問だ」


「……つうか、お前はアホか。しょっぱなからつまづくな。これが一番簡単じゃねえか」


「なに? ほんとか? お前には分かるのか?」


「こんなの正午のことに決まっているだろう。太陽がてっぺんに登るときだ。もっとも、さんさんと輝く時間帯だ」


「おお、そうか! 確かにそうだ。お前は天才か?」


 アザークは素直に感嘆する。

 カイルは、本当に知謀の低い女だ、と呆れながら、次の文章に取りかかった。


「収束されし光が僅かな希望を焼き切るだろう、か」

「ううむ、まったく分からない。お前は分かるか」

「分からない」 


 カイルは素直そう答えるが、こう続ける。


「そういうときは、分かる文章から解読するのが鉄則だ。ええと、次は、規則正しい者が死に、自堕落な人間が生き残る、か」


 カイルはその文章の意味を考える。

 アザークはじっとこちらを見つめる。


「……なんだよ、気持ち悪い」

「いや、その文章なら、お前は生き残りそうだな、と思ってな」


 その言を聞いたカイルは怒るでもなく返す。


「へえ、お前って案外鋭いじゃん。そういうことだよ」

「そういうこと?」

「つまり、俺みたいな奴は死なないってことさ」

「どういう意味だ」


「つまり、この暗号は、糞真面目な奴が集まる場所に爆弾を仕掛けた、と言ってるんだよ」


「糞真面目な奴が集まる場所? 訓練場のことか?」


「自分が糞真面目だって自覚はあるんだな。だが、違う。それじゃ、収束されし光が僅かな希望を焼き切るだろう、の意味が通らない」


「なるほど、というか、ならばその意味が通る場所がこの砦にあるということか?」


 カイルはその質問に、

「ある」

 と一言だけ答えると、アザークに背を向けた。


「つうか、いくぞ、正午まで時間はあるが、早めに解除しておきたい」


 カイルはそう言うとアザークの返事を聞く前に、部屋を出た。

 アザークも慌ててその後に従った。




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