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第1章 黒髪の少女の正体

   †

 

夕食を終えるとカイルは、

「今夜、俺の部屋にやってきたら一生乳が膨らまない呪いをかけてやる」

 とエリーを脅し、


 カイルの部下であるザハードには、

「爺さんもそんだけ生きてれば分かると思うが、どんな男にもモテ期という奴は2回あるんだ。その2回目がきた。なにも言わずに今夜は邪魔しないで欲しい」

 と、事情を説明した。


 ザハードは、「1回目はどうされたのですか?」と悪気なく質問してきたが、カイルが泣きそうになったので話題を取り下げると、

「今宵はどんなことがあってもカイル殿の部屋には近寄りません」

 と、誓った。



 さて、軍師として完全に両脇を固めると、カイルは久しぶりに風呂に入り、念入りに身体を洗った。キザな男が付ける物だと馬鹿にしていた香水まで付ける始末だ。


 そしてベッドに潜り込むと、サクラの到着を待った。


時間にしてほんの数分後に現れたサクラだったが、カイルに取ってその数分は数時間に等しかった。



 トントン、



 と、サクラは軽くノックすると、扉を開けた。

 そして「お待たせしました」

 と軽く頭を垂れる。


 その姿を見てカイルは思わず感嘆(かんたん)の言葉を上げてしまう。

 昼間のメイド服姿とは打って変わって、今の彼女はネグリジェ姿だった。

 しかも絹で作られた上質の物で、クスコフ製だろうか、ところどころ透明な部分がもうけられ、ほのかに色気を感じさせる。


 ただ、カイルが感心したのはその色っぽいネグリジェではなく、彼女の態度だった。

 サクラの性格から、

「じゃあ、これから一発始めましょうか。自分、初めてなんで優しくしてくださいね」

 と、開けっぴろげに始めるかと思ったのだが、彼女は真逆の態度でやってきた。


 部屋に入るなりうつむき、もじもじと親指をもてあそぶ。

 緊張した面持ちを終始崩すことなく、やっと勇気を総動員した、そんな表情と言葉でカイルに第一声を投げかけた。


「あ、あの、自分、初めてなんで、あんまり痛くしないでください……ね……」


「てゆうか、決まり文句だよな、その台詞は」


「まあ、使い古されているということは、それだけ有効的だということであります」


「つうか、この期に及んでご(たく)を言うな! 痛くしてやるぜ! 覚悟しな! という男もいないと思うけどな」


「ですね。……でも、オーガ・シックス先生の純愛物ではこんな台詞があります。『ううん、痛くして! わたしをメチャクチャにして! あなたのことを二度と忘れられないようにして!!』というものが」


「残念ながら、純愛系は守備範囲外だ。たぶん、読んだけど、覚えてない」


「でしょうな……」


 サクラはそう言うと観念したのか、一歩前に踏み出す。


 そして、

「ろうそく、消してもいいでしょうか?」

 と、カイルに問うたが、カイルは首を振る。


「お前の綺麗な肌が見たい」


 くさい台詞ではあるが、この場に最も相応しい言葉だろう。間違ってもお前のオッパイが見たい、などと言ってはいけない。


 カイルの言葉を聞いたサクラはこくんと頷くと、カイルの腕の中へ歩み寄ってきた。


 想像以上に小柄で華奢な身体だった。

 それにいい匂いがする。

 これが女という奴なのか。

 カイルは奇妙に納得すると、サクラをベッドに押し倒した。

 


 こうして、カイルはサクラを女にしてやるつもりだったのだが、その予定は見事にくつがえされる。

 カイルは当然、大好物である胸から攻めようと、彼女の胸をネグリジェの上から触ったのだが、そこにあるはずの物がなかったのだ。


 だが、サクラからの反応はある。


「はふん♪ カイル殿はやっぱりオッパイが好きなんでありますな……」


 いや、ていうか、これはカイルが知っているおっぱいの感触ではない、つうか、明らかに詰め物である。


 そう思ったカイルはサクラのネグリジェをまくし上げ、確認する。


「いやあ、カイル殿は大胆ですな、いきなりむしゃぶりつきますか、そういうとこ、嫌いじゃないッスよ」


 サクラはそう言うが、何をむしゃぶりつけというのだろう。

 そこにあったのは、カイルが今まで見た中でもナンバーワンの大平原で、地平線まで見えそうなほどの広大な平地だった。


 正直、多少なりとも膨らんでいるエリーの方がまだ触る価値がある。


「ていうか、なにこれ? 詐欺じゃん! 巨乳じゃないじゃん! チクショー、騙しやがったな!」


 カイルはいきり立ったが、サクラは瞳を潤ましながらこう言った。


「す、すみません。カイル殿を謀るような真似をして。……でも、どうしても一度、カイル殿にお逢いしたかったのです、どんなお人か会ってお話ししたかったのです」


「………………」


「カイル様に会うには、カイル様の侍女になるにはこれしかないと思って。でも、カイル殿をお慕いしているという気持ちに偽りはないッス、それだけは信じてください」


 証拠はあるのかよ、カイルはそう言いそうになったが止める。

 サクラが、「証拠をお見せします」と、服を脱ぎ始めたからだ。

 サクラは一糸まとわぬ姿になると、全身をさらした。



 カイルは、その美しい肢体に魅入られてしまう。



 ――ほんの数秒だけ。


「てゆうか、なんだこりゃー!」


 カイルが場違いにも叫んでしまったのには理由があった。その理由を聞けば、男の99パーセントは納得してくれることだろう。

 だって、美少女だと思った少女の股間に、カイルと同じ物が付いているのだから。


 そう、サクラという黒髪の少女は、少女ではなく少年だったのだ。


「てゆうか、カイル殿、酷いであります。いくら自分にゾウさんが付いているからって叫ぶなんて」


「てゆうか、お前、男だったのか?」

「いいえ、自分は乙女ですよ」

「嘘付くな、チ○コが付いてるじゃないか」


「それは自分が生まれたときに間違えて神様が付けてしまった奴です。まあ、ホクロくらいに思ってください」


「ホクロじゃねえよ! えらくデカイよ! 立体的だよ!」

「カイル殿よりもですか?」


 サクラは意地悪く問う。


「いや、俺よりは小ぶりです」


 カイルはきっぱりと言い放ったが、なんかちょっと空しい。


「てゆうか、まじ騙された。チクショー、俺のときめきと希望に満ちた時間を返せ」


「へえ、てゆうか、やっぱりカイル殿は自分に欲情してくれていたんスね」


「……うっせー、それは巨乳だと思ったからだ。いや、女だと思ったからだ」


「じゃあ、自分が女だったら、ぺったんこでも抱いて頂けましたか?」


「む、それは……」


 究極の問いである。


 確かに巨乳好きのカイルであるが、あの状況下ならばそのまま流されていた可能性は高い。つうか、あの状況下で自分を抑えられる人間はロズウェル教の修道僧にもいないだろう。


 カイルの無言をYESと取ったのだろう、サクラは身を寄せてくるとこうささやいた。


「つうか、実は女じゃなくてもいいんじゃないスか?」

「ば、馬鹿野郎、そんなわけあるか」


「自分、自分で言うのもなんですが、顔はそこらの女の何倍も綺麗っスよ」


「………………」


「沈黙は肯定と取りますが」


 サクラはそう言うとクスクスと笑い、こう言う。


「てゆうか、カイル殿、知っていますか? 男の娘でも、えっちなことはできるんですよ?」


 少女は、いや、少年はそういうと妖艶(ようえん)に微笑む。

 その笑みを見たカイルはぞくり、と身体を震わせてしまう。

 その笑みが、その表情が、あまりにも美しかったからだ。


 大陸中をさすらってきたカイルだが、正直、どんな娼婦よりも(いろ)っぽいと思ってしまった。


 急激に心臓が高鳴る。


 或いはこのままこいつを押し倒してしまうか、そんな気持ちが芽生えたとき、カイルは思いっきり自分の頬を叩いた。


 そして、「アホなことを言うな。さっさと服を着ろ」と、サクラを突き放した。


 その行動にサクラは「残念っ、誘惑失敗」と舌を出したが、この部屋で一番残念に思っているのは、彼女(?)ではなく、銀髪の少女だった。


 見ればエリーは、椅子に座り、香茶を片手に観戦を決め込んでいた。


「なんだ、これで終わりか」

「……てゆうか、お前、何してるんだよ」

「ナニをしているのはお前達だろ」

「おっさんみたいなこと言うな」


「いや、なに、知り合い同士の性交に興味があってな、観戦させて貰っていた」


「無断でか」

「あとで断ろうと思っていたぞ」

「そういうのをデバガメっていうんだよ」


 カイルは舌打ちしたが、とあることに気がつき、尋ね返した。


「ん? 知り合い同士?」


 エリーはすまし顔で説明する。


「というか、カイルよ、お前は本当に記憶力がないな。以前、この娘のことは話したではないか。この娘は私の古い友人だ」


「古い友人……」


 その言葉でカイルはとある台詞を思い出す。 



「これは、天秤評議会の仲間であるサクラという者に教わったのだ」

「サクラ?」

「ああ、サクラという者は、異世界からこの世界にやってきた軍師だ」



 そう言えばであるが、以前、エリーとそんな会話をした記憶があった。


 カイルはそのことを思い出すと、視線をエリーからサクラへと移した。

 ネグリジェをまとい、にっこりと微笑む少女っぽい生き物――

 カイルはその会心の笑みを見つめながら思った。


(なるほど、類は友を呼ぶというのは本当のことらしい)

 と――。





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