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第3章 種明かし

   †


 さて、カイルはこのようにして頼もしい部下を一人得たわけであるが、エリーはそう皮肉を言うでもなく、逆に褒め言葉から話を始めた。


「はてさて、最後は少し予想外だったが、見事なものであったぞ」


「本物からそう言って貰えるとは光栄だよ。ま、確かにあの爺さんがフィリスの元に戻らなかったのは意外だが」


「画竜点睛を欠くが、まあお前にとっては良かったのかもしれぬ」

「どういう意味だよ?」


 カイルは訝しみながら問う。


「これでお前はしばらく姫様のもとに留まらなくてはならなくなっただろう? あの老人と姫様、それに砦の兵士達の信頼を得たのだ。いくら薄情なお前でもさっさとずらかる訳にはいくまい」


 その言を聞いたカイルは何か言いたげな顔をしたが、「それは過大評価だ」とだけ漏らすと、その話を切り上げる。

 エリーはそれを許すと、今回の件で分からないことが一つだけあるのだが、と本題に入った。


「お前でも分からないことがあるのかよ」


「評議会の軍師とて神ではない。ましてや私はその中でも知恵乏しいものだ。分からないことくらいあるさ」


「まあ、毎日せっせと牛乳を飲むなんて涙ぐましいことをしているんだ。自分の胸に可能性がないことすら分かってないんだろうが」


 そう皮肉を言うと、カイルは種明かしをする。


「つうか、お前が分かっていないのは、どうやって俺があの爺さんに勝ったか、だろ?」


「その通りだ、私の見立てでは、お前の腕ではあの老人には勝てないと思っていた」


「お前だけじゃなくアザークも、いや、姫さんですらそう思ってたよ」

「ならばどうやってあの老人に勝った? 種明かしをして欲しいものだが」

「種明かしって、つうか、お前、俺が実力で勝ったとは思わないのか?」

「思わない」


 エリーは断言をする。


 カイルはさすがに腹が立ったが、今日は機嫌が良いので種明かしをすることにした。

 カイルは懐から、赤い瓶と青い瓶を取り出すとこう説明をする。


「俺が姦計(かんけい)(ろう)して、エルトランに赤い瓶、つまり睡眠薬を飲ませたのは知っているな」

「知っている」


「もちろん、あいつはまんまとその瓶を飲んでお縄についたわけだが、何も俺は青い瓶には何も入ってないとは言ってないぜ」


「まさか、青い瓶にも何か仕込んでいたのか?」

「その通り。しびれ薬をちょろっとだけね」


 カイルは人の悪い笑顔でそう言い切ると、

「ま、世の中頭の良い奴が勝つようにできてるのよ」

 と、ベッドにその身を預け、手を振った。


 寝るので出て行け、ということだが、エリーはその指示に素直に従うと、部屋を出る。そして自分の部屋に戻るとこんな考察をした。


「さて、あの詐欺師、あんな風に戯けてみせたが、本当のところを語っているのだろうか」

 ――と。


 確かにあの老練な老人を決闘で倒すのは意外ではあったが、それでも薬を盛った、というのも嘘くさい話ではある。

 詐欺師である自分が柄にもなく真面目に戦ったことを気恥ずかしく思っているためについた嘘やもしれぬ。


 それと同時にこうも思う。


 案外、本当に薬を盛ったのかもしれぬ、と。

 この抜け目ない男ならそれくらい平然とするとも思うのだ。


 相反する考察だが、つまりエリーは未だカイルの性質を掴みかねているということだ。


 エリーは改めて小生意気な弟子候補生の顔を思い浮かべると、

「面白い、この白銀のエシルの弟子になる男、やはり噛めば噛むほど味が出てくる」

 と、一人、笑みを漏らすのだった。




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