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第2章 弟子にならないか?

   †


 カイル達はモニカ村で連夜の宴を繰り広げた後、数日だけ滞在し、村を後にした。


 カイルとしてはこのまま村の恩人として食っちゃ寝していたかったのだが、小間使いにして恩人でもあるエシルが、

「主は先を急ぎますゆえ」

 と報酬を受け取ると、カイルの主張を完全に無視し、村を出立した。 


 そして、道中、機会があるごとに天秤評議会や兵法の話をカイルに振ってきた。

 最初は、この小娘、自慢でもしているのかな、と聞き流していたが、どうやらそうではないのではないか、と思うようになってきた。


「こいつ、もしかして俺に惚れてる?」


 そんな可能性に至ったので、ある日、遠回しに訊ねたことがある。


「あ、エリー、ごめん、俺、小児性愛の趣味はないんだ。乳がデカイのが好きなんだわ」


 エシルはにこりと微笑むと、蹴りを入れてきた。


 ――どうやらカイルの勘違いだったらしい。


 しかし、一連の話が単なる自慢話ではなかったことはカイルの直感通りだった。

 ある日、見晴らしの良い丘を通りがかると、エシルは突然振り向き、こう口を開いた。


「お前は鋭いようでとても鈍い。だから単刀直入に言うが、カイルよ、どうだ? 私の弟子にならないか?」


「俺がお前の弟子?」


「そうだ。白銀のエシルの弟子だ。つまり、二番目の使徒、ウルクスルの後継者にお前を指名したいと思っている」


「俺が天秤評議会の軍師に――」


 思わず反芻(はんすう)してしまう。


「……軍師、軍師か。考えたこともなかったな」


 このセレズニアにおいて軍師とはポピュラーな職業ではある。

 一国の王はもちろん、小領主や小さな傭兵団にも軍師職を添えるのが通例となっており、その数は星の数ほどといわれている。


 ただ、軍師の数はあまた存在すれど、誰しもがなれるというわけではない。

 軍師の多くはやはり貴族の子弟が多く、幼き頃より兵学や政治学を修めてきた者ばかりだ。多くの者は王都にある大学出身で、そこで優秀な成績を修めた者だけが、軍師となるのである。


 その辺の事情は、聖職者や騎士とまったく変わらないといってもいいだろう。

 ゆえに靴職人の子であるカイルが、軍師などという職業を志すなど、あり得なかったのだ。


「てゆうか、無学者の俺が軍師になれるわけはないだろう」


「軍師に必要なのは頭の回転の速さだけさ。知識などというものは後からいくらでも詰め込める」


「それにしても限度があるだろう。自慢じゃないが、俺は活字がびっしり詰まった本を読むと頭痛がするんだ」


「何を言っている。おまえは常に枕元に本を置いているではないか。毎晩目を通しているだろう。見上げた読書家だ」


「あれは官能小説だ」

「………………」


 エシルは暫し沈黙すると、

「文字が読めるだけで十分だ。――今のところは」

 と、続け、話を戻す。 


「ともかく、この白銀のエシルが、お前を弟子に、と所望しているのだ。こんなことは百年に一度あるかないかだぞ?」


「つまり俺が百年に一人の逸材であると?」

「まあな。そんなところだ」

「………………」


 カイルは沈黙する。


 かの軍師、白銀のエシルからそこまでいわれて嬉しくないわけがないが、それは17歳の青年としての話であって、詐欺師カイルとしては納得がいかないものがある。

 確かにカイルは超絶イケメンの天才詐欺師としての自覚はあるが、それでも自分が軍師に向いてるなどという自惚れはない。

 ましてや出会ったばかりの見知らぬ男を自分の弟子にするなど少々都合が良すぎる。仮に、お伽噺にこんな話があるのだとすれば、この後の展開は決まっている。


 悪い魔女に騙された哀れな青年は鍋の具にされて食べられてしまいましたとさ。 


 こんなところだろう。

 つまりこの銀髪の娘は何かを隠しているのである。

 カイルはそれを問いただそうとエシルを睨み付けたが、カイルが詰問するまでもなく、その胸の内に隠していた事実を教えてくれた。



「……私がお前を弟子にしたい理由は二つある。


 一つはもうじきこのセレズニアに現れるだろう覇王アカムの後継者を倒すため。


 もう一つは私に寿命が迫っているためだ。


 つまり、セレズニアにも、この私にも残された時間はないということだ。


 これがけちな詐欺師を弟子に迎え入れる理由だ。


 納得いったか?」



 カイルはエシルの真剣な眼差しと忌憚(きたん)のない台詞に納得すると、彼女の話を聞くことにした。




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