プロローグ
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『嘘は大きければ大きいほどバレにくい』
とは、とある師匠の有り難いお言葉である。
実際、小心者が嘘をつくと、必ず小さい嘘を重ねる。
酒場に行き、知らない奴と一日中飲み明かしていた。
町でばったり幼なじみと再会し、昔話に花を咲かしていた。
そんな話を香水の匂いとともにベラベラと始めたら、どんなに鈍感な奥方も浮気を疑うだろう。
だから、このような場合は、出来るだけ大きな嘘をつけ、というのが師匠の口癖だった。
例えば、街中で悪漢に襲われているお姫様を助けた。
王都の親衛隊とばったり出くわして一日中道案内をさせられていた。
森の中でドラゴンと出くわし、命からがら逃げ回っていた。
荒唐無稽だが、この場合は破天荒で信じがたければ信じがたい方がいい。
なぜならば、荒唐無稽ならば荒唐無稽なほど、相手は確認する術をもたなくなるからである。
一介の市民が、お姫様と知り合いであるわけがないし、親衛隊にツテがあるわけもないし、森の中に入ってドラゴンの存在を確認できるわけがないのだ。
その話を聞いたときは、なんて胡散臭い師匠なのだろう、と呆れたが、師匠から独り立ちをし、こうして一人で生きていかねばならない立場に追い込まれた今では、その言葉は何よりもの財産だった。
こうして、カイルのような男に、豪勢な食事と報酬を約束してくれるのだから――