かつどう
数日後、オリエンテーションを終え、私は部活に来た。佐田先輩は楽器を出して練習していた。
「こ、こんにちは……」
「あぁ! こんにちは、待ってたよ。では、早速……やってみようか」
「は……、はい!」
先輩が楽器を持ってきてくれた。
その後に、楽器をケースから出すときのやり方、構え方、音の出し方を教えてくれた。
「……まず基本となる音があるんだ。それがシのフラット、俺たちはこれをB♭(ベー)と言うんだ。これで、音程を合わせるんだ」
「な、なるほどですね……」
「ほかにもいろんな音があるんだけど、それは、追々やっていこう。大丈夫、すこしずつ覚えていけばいいさ」
私は、胸がキュンとする感じがした。
これが、初心者に対する決め台詞なのかどうかは、
定かではないが、どこかキュンとする感じがした。
その日の帰り道。
私と先輩は、偶然帰りの方向が同じだということを知り、いろいろと話をしてみた。
先輩は、私と違い中学・高校はほとんど野球しかしてこなかったという。
吹奏楽との出会いは、高校1年の夏の大会。
当時は、メンバーに入ることができず応援席で、勝利を願った。その時、バッターを応援している時に聞えてきた演奏の迫力に圧倒されたらしい。
それ以来、バッターボックスで、吹奏楽部の演奏を聴きたいという想いから、今までとは比べものにはならない練習をした。
そして3年生の夏、高校生活、最後の大会で、メンバーに選ばれた。
バッターボックスに立つと、あの迫力のある演奏が聞こえてきて練習時以上の力が出てきた。その時の曲は“夏祭り”。
球場に金属バットのいい音が響いた。
結果、ホームランだった。
その時の歓声は、今までと比べものにならなかった。おそらく応援している人は、高校野球で初めてホームランを見たのだろう……。
それ以来、夏祭りという曲が大好きなった。
でも、その後相手チームが満塁ホームランをやり、
逆転負けしてしまった。
そして夏を終えた……。
数日後野球部を引退した先輩は、
「観る世界が狭かったなぁ、広げてみるのも悪くない……」
と密かに思った。
夏休み後は、野球をしながら、吹奏楽に関する勉強を少しずつやり始めた。週1程度だが、楽器の練習を密かにやった。
そして高校卒業して、大学では経営学部を専攻。入学式では、私の時のように吹奏楽部の記念演奏はなかった。
だが、今年立ち上げるとの話を聞き、
「ぜひ、参加させてほしい」
と学校側に言ったため、現在に至るという。
入った経緯は違うけど、始まりは同じ……。なんか運命を感じる。