五話 告白
嬉しいなんてことは微塵も出て来ず、ただただ不思議で仕方なかった。
冷静にこの前のことを思い出して見ると、優馬はいつもあたしの姿を見ていたと言い、そしてキスをした。
あの時は自分の闇を言い当てられて戸惑ってしまっていたが、優馬はあたしのことが好きなのだろうか。
だから本当にあたしを変えたくて、あたしのために言ってくれた。
だから今もこうして褒めてくれた?
あたしは後片づけをする優馬の後ろ姿を見つめながらぼんやりと考えていた。
しかし、だからなんだと言うのだ。
でも・・・。
変わろうと思えた。
あいつのおかげで、それは少しだけ、少しだけだけど感謝しよう。
平日のお昼はとても人が少ない。
フロアに出ていてもほとんど休憩状態だ。
「春美ちゃん、今日話があるんだけど、終わってからいいかな?」
充君はきまずそうに目を泳がせながらそう言った。
「うん、大丈夫」
きっとこの前の話をするのだろう。
正式に付き合ってほしい。
そう言われたらあたしはどうするのだろうか。
ふと優馬を振り返った。
優馬は綺麗なタオルをシャンプー台のところに補充しているところだった。
って、何を優馬のことなど気にしているのだろうか。
ただ充君と恋人関係になってしまえば仕事がやりにくいと思っているだけだ。
また今までの恋人のように充君を傷つけて終わってしまうのではないか、それが心配なだけだ。
閉店時間になると優馬は颯爽と帰って行った。
アルバイトだからあたしたちと違うのは当たり前だ。
それに今まで優馬が何時ごろに出勤し、何時頃に帰っていたかなど気にも留めても居なかった。
それがあんなことを言われたがばっかりに、今日は気づけば優馬のことばかり見てしまう。
もう一人あたしのことを真剣に好きだと言っていて、体を重ねた者がいるというのに。
「春美ちゃん」
充君があたしを呼んでいる。
正直怖かった。
何がどうと言われればよくわからないが、怖かった。
あんなにも優しくて安心できる充君と、こんなにも時間を共にしてきた充君と二人になるのが怖くて仕方なかった。
「この前は、なんだか酔った勢いみたいになってごめんなさい。
でも、俺は本気だから、本気で春美ちゃんが好きだから。だから、もしも春美ちゃんがいいなら、
俺と付き合ってほしいんだ」
充君は少し歩いてから人の通らない道で真剣だが、少し緊張した顔で告白してきた。
わからない。
今までこの人と付き合いたいと思って付き合ったことはほとんどない。
でも、充君のことが嫌いなわけではない。
第一あの日抱いてほしいと言ったのはあたしの方だ。
あたしには断る選択肢はない。
「こちらこそ、あたしでよければ」
あたしは照れたような笑いを充君に向けた。
充君は安心しきったようで、力を抜いて微笑んでくれた。
いつもならこの笑顔に癒されるはずなのに、笑う顔に変な力が入ってしまう。
ああ、これからまた気を遣う日々が始まるんだ。
そう思うと悲しくて・・・。
どうすればいいんだろ。
心の中で呟いた途端に一瞬優馬の顔が出てきた。
「なんで、あいつが・・・」