二十一話 人が変わる時
それから優馬は何も言わずに千鳥足で帰って行った。
やはり酔っていただけなのだろうか、もやもやしながらあたしも家に帰った。
しかし家に帰っても胸につかえるもやもやは消えない。
胸焼けをしているわけではないことはわかる。
優馬の言葉が、行動が頭から離れない。
今までとは違い真剣な顔をしていた。
真剣な顔であたしにキスを・・・。
どうしてあの時自分は拒んだのだろうか。
いや、拒めたのだろうか。
あいつのおかげで自分の思いが出せるようになったから?
それとも・・・。
「もう、何度考えてもわからない」
あたしはあいつが大嫌い、でも感謝はしている。
でも、あいつはどうしてあたしに?
結局あいつの答えはわからなかった。
「所詮あいつは大学生、あたしより年下なんだから」
結局なんの答えにもたどり着けず朝を迎えてしまった。
寝不足のせいかそれほど飲んでいないにも関わらず頭が酷く痛い。
あいつはかなり飲んでいたみたいだけど、学校に行けるのだろうか。
心配になってふと携帯に目を向けた。
しかしよく考えれば・・・。
「あいつの連絡先、知らないや」
出勤時間になるまで必死に頭痛と顔のむくみを直して、どうにか化粧を終える。
化粧のりも最悪だ。
「おはようございます」
「あら、おはよう」
恵美さんはいつも通り楽しそうな笑みを浮かべて挨拶を返した。
それにしてもいつもよりもとても楽しそうだ。
「おはようございます」
恵美さんを見つめているとほどなくして充君も出勤してきた。
「おはよう」
あたしが挨拶すれば、どこか充君は目を逸らしながら「おはよう」と言ってきた。
どうして目を逸らすんだ。
まだ顔のむくみは取れていないのだろうか。
心配になって鏡で確認していると鏡越しに恵美さんが微笑んでいるのがわかった。
「やっぱり、春美ちゃんったら、良かったわね」
「な、何がですか?」
そう尋ねても恵美さんは「またまたー」とだけ言って奥に入って行った。
不思議そうに首を傾げれば充君と目が合った。
充君は再び目を逸らした。
「一体何が起こってるの?」
不思議に思いながらも開店準備を始める。
考え事をしていれば時間が過ぎるのは早く、今日一人目のお客さんがやってきた。
「いらっしゃいませ」
それから時間は流れ、「おはようございます」と言いながら誰かがやってきた。
本当に初めは誰だかわからなかった。
それほどまでに優馬の態度は改まっていた。
見た目は変わっていないのだが、どこかチャラけた雰囲気もなくなった気がする。
定期的に切に来てくれる今日のお客さんも優馬を鏡越しに目で追っていた。
「あら、いつの間にかつつましくなったのね」
優馬が通り過ぎてから驚いたように声を上げていた。
あたしはそんなお客様に何も言えず、自らの動揺を抑えるのに必死だった。




