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十五話 乱暴なキス

「春美ちゃんはどうしたいの?」



空気に耐えかねて店を出ようとしたところで恵美さんが問いかけてきた。


「何があって今の状態になったのかはわからないけど、要は優馬君をとるか、充君を取るかってことでしょう?」



なんでも恋愛に絡めてしまうのだろうか。


確かに充君とは恋人関係になっているが、優馬は関係ない。



「そういうのじゃないんです。ただあたしが、自分をはっきり出さないから」



恵美さんはそんなあたしに呆れたのか、電気を消して扉を開けた。



そりゃあたしなんかに付き合っても仕方ないからね。


「ほら、行きましょう。話長くなるから飲みながら話しましょう。どうせ今日は行くつもりだったし」



恵美さんはいつものように優しい笑顔を浮かべながら手を差し伸べてきた。




この店で働いていて良かった。






結局恵美さんに自分のトラウマについては何一つ話せなかった。


だけど充君とどう付き合っていいかわからないことと、優馬に心を乱されて困っていることだけは伝えた。


恵美さんはどこか不思議そうにあたしを見ていたから、もしかしたらあたしのことを見透かしているのかもしれないけど、何も言わなかった。



自分が気づいていないだけで優馬のように全部理解されているのだろうか。

自分は本当はすごくわかりやすい人なのだろうか。



そんなことを考えながら既に酔いつぶれて眠ってしまった恵美さんを見つめた。




それにしても明日は休みとして、明後日からどうしよう。

今まで通り仕事ができるだろうか。





そんなことを思っていても火曜日はやってくる。



しかもこんな時に限って今日は優馬が朝から出勤してくる。



「おはようございます」



まだ恵美さんしかいないことに安堵するが、どうしてももうすぐ二人はやってきてしまう。



「大丈夫? 今日は指名予約のお客様以外は私が受け持ってもいいわよ?」



よほどあたしが不安な顔をしていたのだろう。

恵美さんが心配そうな顔で駆け寄ってきてくれた。



「いえ、でも、あたしのせいですから」



だとしてもやはりあたしはフロアにはいない方がいいのだろうか。

優馬はともかくして、充君が集中できなくなるかもしれない。

あたしのせいで仕事に影響を出したくはない。



「おはようございます」



あれこれ考えていると充君が来てしまった。



「おはよう」



とりあえず挨拶してみたが、充君は全く顔を合わせようとしない。


やはりあたしはいない方がいいのだろうか。


「おはようございまーす」



優馬がいつもよりも早く出勤してきた。



全員揃ってしまった。




「何そんな暗い顔してたんだよ。朝から陰気くせえな。客逃げるぞ」



優馬は何事もなかったかのようにいつものように鼻で笑って奥に入って行った。


充君が明らかに睨んでいた。



本当に最低な奴だ。

誰のおかげでこうなったと思っているの。




あたしはただ怒りだけを抱えて優馬を追いかけるように奥に入った。



「ちょっと、あなた本当にどういうつもりなのよ。自分の言いたいことだけ言って何もなかったような顔して、あなたのせいで店の空気が悪くなったわ」



「は? いい加減にするのはあんたの方だろ。俺のせいじゃないだろ。あんたがあいつにいい加減な態度取ってたからこういうことになったんだろう」



優馬はいつも通りかと思えば、苛立っている様子だった。


「だいたい、いい年した奴らが仕事とプライベートもわけられねえとは、本当にあの男は人間としてなってね、った」



気づけばあたしは優馬を平手打ちしていた。



「黙りなさいよ。確かにあたしが悪かったわ。あたしがその気もないのに付き合ったのが悪かった。

でもこれ以上充君の悪口言うのは止めてよ」



「はいはい、わかったよ。あんたもっといい女だと思ってたけど、なんだ。他の女と変わらねえじゃねえか」



優馬は左頬を抑えながら睨みつけてきた。




至近距離で優馬のような顔立ちに睨みつけられればやっぱり怖い。



そのままゆっくりと近づいてくる優馬に、殴られるのかと思い目を閉じれば・・・。


「っ、ちょ、」



あの時とは違う乱暴なキスをされた。



「最低だな。お前」



強引に唇を奪っておきながら、最低なのはどっちだ。


そう思っても何故かあたしの心臓はドキドキしていた。

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