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十二話 意識

あれから仕事はお得意様以外はこちらからはほとんど話しかけず、お得意様には相手のペースに合わせて会話をするようにしている。


たまに不思議がるお客様もいたが、あたしが何も言わないので相手も何も言って来ない。




そうして美容師としてお客様と良き関係に戻り始めた頃だった。



「あらあら、春美ちゃんさっきからどこ見てるのかしら?」


半年に一度くらいのペースで訪れる主婦のかなえさんは、カットに集中していたはずのあたしににやにやしながら言った。


「何も見てませんよ」


「そうかしらねー」



楽しそうに言いながらかなえさんは鏡越しにあたしの目を見つめてくる。


「ほら、やっぱり」


「あっ、いや、違いますよー。アルバイトの子ですから、きちんと仕事できてるかどうか気になってるだけです」



「どうかしらね」


かなえさんに言われて優馬を目で追ってしまっていたことに気づくと、急に恥ずかしくなってしまった。


どうしてあたしがあんな奴を目で追わなければいけないのだろうか。



今度こそカットに集中するも、かなえさんはずっとにこにこしながらこちらを見つめている。




「私の髪を切り終わるまで五回は見てたわね」


カットが終わり椅子から立ち上がると、かなえさんは間近であたしの顔をじっと見つめて言った。



そんなに見ていただろうか。



かなえさんは店を出るまであたしに楽しそうな笑みを向けていた。



「へー、あんたもやればできんじゃん」



かなえさんを見送り終わると、後ろから声が降って来た。


自分でも驚くほどに過敏に反応したあたしは、飛び上ってかなえさんの出て行った扉に背中を預けた。



「びびりすぎだろ。なんだよ」


優馬は特に不機嫌そうと言うわけでもなく、笑ってあたしのカットした所の後片付けをしに行ってくれた。




「何やってんだろう」



気合いを入れ直そうと前を見据えると、充君がこちらを見ているのに気がついた。

しかし充君はあたしが視線を向けると慌てて逸らしてしまった。




そういえばしばらく充君とまともな会話をしていなかった気がする。


お客様と元に戻れたのは嬉しいけど、スタッフ内でぎくしゃくしてたら意味ないじゃんか。



また項垂れそうになるのを堪えながら次の予約確認に向かった。

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