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十一話 本音

優馬が長々と語ります

でも、ようやく二人が歩み寄るかも?


それからの毎日は長く、そしてとても短かった。


あたしは必要以上に客と会話を交わすことをせず、一心に髪だけを切った。



常連のお客様は不思議がったり、心配そうにしてきたが、それでもあたしは相手が話す言葉に答えるだけで世間話の一つも持ち込まなかった。



恵美さんが心配そうにしているのはわかっていたが、向こうも何も言って来ず、あたしも何も言わなかった。



充君はなんとなく距離をとっているようだった。




そんなある日・・・。




恵美さんが急用で店を早引きしてしまったので、戸締りを任せられることになった。


今日は日曜日で運のいいことにいつもより時間は短く、明日は休みだ。



しかしそういう時には予約チェックや備品チェック、そして売上チェックもしなければならない。



「俺も手伝うよ」


閉店時間を過ぎて片づけを終えたのか、充君が遠慮がちに来てくれた。



「大丈夫だよ。すぐ終わると思うから」



そういうと、充君は「それじゃあ任せたよ」と言って帰って行った。



きっと充君はこの前のあたしに幻滅したに違いない。

それならその方がありがたい。


このまま充君があたしから興味をなくしてくれれば、もう変な気は遣わなくてすむ。




「ふーん。やっぱ店長ってこんなにやることあるんだー」



気づけば優馬が向かいのソファーに座っていた。


「あなたも帰っていいわよ」



「備品チェックしてくるわ」



優馬はあたしの言葉には耳を傾けず、チェックシートを持ってフロアに出て行った。



幻滅して帰った充君と、勝手に手伝う優馬。




「お金の計算なんだからしっかりしなきゃ!」


しばらく集中して慎重に計算をしていたあたしは、もう優馬のことなど忘れていた。



「はー、終わったー。やっぱりお金って神経使うー」



何度か計算していたのでもう一時間は経っていた。

気づけば八時を過ぎていた。



優馬は勝手に帰ったのだろう。

そう思って帰る支度をしていると・・・。



「わっ、何」



首筋に暖かい物があてられた。



「計算終わったんだ。なーんだ」


優馬は何故かつまらなさそうにソファーに座った。


あたしにはカフェオレを買ってくれたようで、自分はブラックコーヒーを飲んでいてる。



「ところでさ、あんたら付き合ってんの?」



優馬はバカにするように吹き出しながら言った。



相変わらず人を馬鹿にするのが好きなようだ。



「だったら何? あなたには関係ないでしょ」



「好きでもない男と付き合えるんだ。しかもそれで余計に気遣うって、本当あんたって不器用だな」


優馬は手で缶コーヒーを弄びながら声を上げるように言っている。



全くどうしてこいつには・・・。



充君はあたしのことを何も理解してくれない。

でも、こいつは何も言わなくてもあたしを・・・。



って、何を考えているんだ。


思わず顔が熱くなった。



「でも向こうもさ。あんたのことよくわかってもないのに好きだなんて迷惑だよな。

なんで付き合ってんの?」



急に低い声を出してきたので、驚いて優馬を見つめれば、すごく真剣な顔でこちらを見ている。



心臓が跳ね上がる。


なんで、こんな奴にドキリとさせられなきゃ・・・。



あの時こいつはあたしにキスをした。

あたしを見てくれている。



違う。



そうだ、こいつはホストみたいな男だ。



だいたい最低な男じゃないか。

人の過去を思い出させて、人を嘲笑って・・・。




「あなたに何がわかるの?

どうしてあなたはあたしのことわかったみたいな顔して、だいたいあなたのせいよ。

客ともめたのも、今余計に臆病になったのも、全部あなたのせい!」



いつの間にかあたしは叫んでいた。


それでも優馬は驚くでも、嫌な顔をするでもなく、真剣にあたしの言葉を聞いてくれている。




「あたしは自分を守る方法をえられた。

笑っていれば皆は気を良くしてくれるし、あたしだって楽しい。

なのにあなたが間違ってるって、だからあたし頑張ったのに、なのに」



気づけば涙が溢れだしていた。



悔しい。


悔しい。




「だからさ、頑張り方が違うんだって、客のこと考えろっつったろ。

なのにあんたは自分に酔っていた。

あのな、別に客にも店員にも気許す必要ねえだろ。

ただ俺が言いたかったのは気さくに話して客を盛り上げたいなら相手の反応気にするなってことだ。

そこまで気にしなくても少し考えればわかるだろ」



優馬は呆れているわけでもなく、声色一つ変えずに言った。



「わかんない。

わかんないから、わかんないから怖いの。

あたしはバカだから、気づかないうちに人を傷つけるから、だから怖いの」



どうして。




「だから、あたし皆に好かれたいの。

嫌われたくないの。

でも、だから、どこまで踏み込んだら怒らないのかわからないから、だから人の顔色ばかり見ちゃう。

でもそうしたら、皆あたしのこと見てくれなくなった。

あたしは本当は怖いのに、本当はすごくネガティブなのに、なのに、誰も気づいてくれない。

でも、気づいてほしくない。

よくわからないの」




どうして、どうして本音を話しているの。



涙は止まらず、言葉もどんどん流れて行った。


まるで自分の心が全て吐き出されるように、口も目も・・・。




「あのさ、一つ言うけど、あんたは怖いんじゃない。

決めつけてるんだよ。

何があったかしんねえけどよ。

本当にあんたが信じれるなら自分の中身見せていいと思えんじゃねえの。

あんたは怖いんじゃない。

こいつも裏切るはずだ。

こいつもきっとあたしを見てくれるはずがない。

そう決めつけてるだけだろ」



優馬は少し面倒そうに言った。


だけど、あたしに欲しい答えをくれる。



「現にさ、今あんた俺には話してるだろ。

まあ、あんたが俺をどう思ってるかはしらねえけど、別に俺はあんたが俺を心底憎もうがどうでもいい。

俺があんたに興味があるから話しかけてるだけだ。

そういう風にさ、別に全員信じろとか、全員好きになれとか言わねえよ。信じられる奴を作れ、そしてそれ以外の人間は捨てろ」




優馬はさらっと悪魔のような言葉を吐いた。




でも、それが歪んでいると思えないのは優馬の姿を知っているからかもしれない。


優馬の生活も、これまでのことも何一つ知らないけれど、あたしに接するこいつの様子がでたらめな生き方を言っているわけではないことを告げている。




「結局どれだけの奴に好かれようがずっと付き合っていく奴なんてごくわずかだろ。

じゃあその数人にだけ笑顔を向けて、その数人にだけ自分を出せばいい。

出したくないなら無理に出さなくていい。

そしたら疲れねえから」



優馬はあたしを励ますと同時に自分の生き方を吐き出してくれたんだ。



複雑な感情が胸の中を駆け巡る。



「腹減ったわ。明日休みだろ」



突然ソファーから立ち上がった優馬は伸びをしながら呑気に言ってくる。



「は?」



「はあ? じゃねえよ。こんだけさせたんだから飯ぐらいおごってくれてもいいだろ」



優馬はにやにやと詰め寄るように言ってくる。



少しでもいい奴だと思ったあたしが馬鹿だった。


結局こいつはあたしをからかって楽しんでいるだけだ。


もっともらしいこと言ってあたしの反応を楽しんでいるだけだ。



「本当に最低」


「どうも」



でも、優馬はどこか嬉しそうだった。



何が本当の顔なのかわからない。

不思議だ。


そしてムカつく。

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