十話 救いの笑顔
とりあえず恵美さんと話をしなければならない。
優馬がいなくなった後あたしは汚い顔を整えた。
何から考えればいいのかまだ頭は混乱していた。
それでも何処か重い物がなくなったように心が軽くなった。
トラウマだからこそそれを隠してきた。
出すところを間違えたのか。
あたしは人に入り込める自分に善がっていた。
「春美ちゃん、優馬君が来てくれたから片づけは二人に任せてるわ。今日はゆっくりごはんでも食べながら話しましょう」
恵美さんはそう言ってから今日の売り上げを計算していた。
店の戸締りは私がやるからと、充君と優馬を先に帰らせた恵美さんは、優しい表情であたしを見た。
大人だ。
人を思いやれる人間は大人だと思う。
「最近の春美ちゃんは確かにとても素敵だったわ。急に素敵になるから驚いたわ。
まあ、その輝きの正体は他にあると思ってたんだけど・・・。何かあったの?」
恵美さんは真剣な表情で尋ねてくる。
しかし何をどう話せばいいのか、どこから話せばいいのかわからなかった。
優馬の全てを話す? でもそれには自分の過去も全て打ち明けなければならない。
今まで明るい春美で通していたのに、そんな過去を聞かせては恵美さんは困ってしまうに違いない。
何より自分の過去を聞かせた相手とこれからも共に仕事をすると考えると、あたしが耐えられないだろう。
恵美さんほどいい人はいない。
きっと全てを受け入れてくれるに違いない。
しかし、いや、だからこそ何も言えない。
「お客さんとの距離を縮めたくて、少し頑張りすぎちゃいました。
頑張るところ間違えてますよね。これからもお客さんのことを考えて慎重に頑張ります」
あたしが笑顔で答えると、恵美さんは不思議そうにあたしを見つめてきたが、結局何も言わずに笑顔を浮かべてくれた。
「そう」
きっとあたしが本当の事情を隠していることに気づいているはずだ。
それでも恵美さんは踏み込もうとはしてこない。
そりゃ、そうよね。
「ところで、充君とはどうなの?」
「えっ!」
あたしは思わず大声を上げてしまった。
恵美さんはやっぱりと言った顔で笑った。
「わかりやすいんだからー。それに、充君が春美ちゃんのことが好きなのは最初から気づいてたしねー。
私を誰だと思ってるの?」
恵美さんは自信満々に自分を指さしてから、盛大に笑った。
恵美さんの笑顔にはいつも癒される。
「本当に今日はありがとうございました。
明日から気を引き締めてまた頑張ります」
「ええ、本当に何かあったらいつでも聞くからね。それじゃあまた明日からよろしくねー」
恵美さんは嬉しそうに帰って行った。
あたしが失敗しても、隠し事をしても、最後まで笑顔でいてくれた。
明日からどうしていこう。




