新たな日常に向けて
「ふぁあ・・・ぁぁ」
俺は誰憚ることなく、大きな欠伸をする。さっきまでの担当教師がいればさぞかし眉を顰めただろうが、そんなもん知ったことじゃない。大体、誰も俺に期待なんかしちゃいないし。
そういうものを一身に引き受けるのはエリートクラスの『勇者』様やら『聖女』様の役目であって、少なくとも俺のような一般クラスの凡人には身に余る。
現在、『魔暦』元年。世界が『魔王』と呼ばれる存在にその支配権を委ねたことからその呼称が変わったのだが、西暦で言うなら今は2204年ということになる。
遡ること5年前。
つまりはまだ西暦だった2199年末に、さっきの授業であらましを解説された『アンゴルモワの大遅刻』があり、人類は滅亡の危機に瀕した。
最終的に魔王によって救われた形の俺たち人類だが、その本当の理由というのがとんでもないものだ。
とんでもないどころか、実にくだらない。
『ウトウトしていた時に近くで騒がれたので、カッとなってやった。ちょっと大人げなかった。ほんの少しだけ反省している』
と、棒読みで魔王自らが言うように結局は単なる八つ当たりだ。子供の癇癪に近いかもしれない。
それで殺される方はたまったものではないが、おかげで結果的には俺たちが生き残れたのだからそのことに文句など言えるはずもなかった。
実に8割近くの人々が犠牲になり、文明の利器もほとんど失われてしまった人類はその後当然の成り行きとばかりに従属を申し出たが―――――初めは乗り気ではなかったらしく、拒否をされた。
他に選択肢は無かったこともあって粘り強い交渉(という名目の嘆願)の結果として、条件付きではあったが、ついに人類は魔王の『臣民』の位置に無事収まったというわけだ。
「優哉、メシ食おうぜ、メシ!」
「優哉く~ん、早く行こ~う」
教室から廊下に出る自動ドアのところで、俺を呼ぶ声が聞こえる。
この春、この学園に来て知り合ったクラスメイトたちだ。
国立桜印学園。
あの全世界規模の事件が起こった後に設立された教育施設であり、対魔王用戦闘訓練科という異質な学科を持つ国が運営する機関でもある。
支配者である魔王に対抗する、しかも戦闘訓練、さらには国が運営というのは、意味不明だと思う者もいるだろう。
・・・・・というか、明らかにその存在が矛盾しているように思って当然だ。
これにはちょっとした事情があるわけなんだが―――――
「おう、今行く!!」
盛大に鳴き出した腹の虫を黙らせるために、俺は、橘優哉はクラスメイトたちに向けて歩き出した。
プロローグ、ようやく終了です。
長かった・・・まぁ、文章量はたいしたことないんですが(笑)
以降、本編。
も少しボリューム付けていくかもです。